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第120話 竜、大地に立つ

「北の山へ行ったのだな?」

「はい。今は別の者が追っています。私は報告のため折り返してきたのですが、良かったですね」

「ああ。ではこのまま北へ進むぞ」


 バーリオ達クリニヒト王国騎士は城下町で門番にウェリスの向かった方角を聞いて出発した。

 しばらく進んだところでヴァールの放っていた監視役の騎士が一人、折り返してきており話を聞いたところだ。


「場合によってはウェリスと戦うけど、コレルは大丈夫かな?」

「……仕方あるまい。あの魔石を渡したのも私だ。責任は取らねばなるまい」

「助かるよ」


 ヴァールは後頭部を撫でながらコレルに困った顔を向ける。

 彼としても不本意で国に仕えているとはいえ、不利益になる行為は自身の貴族主義に反するため止めねばならなかった。


「北の山……ディグダ山か。ディラン殿のところでないのは僥倖だが――」

「……!?」


 騎士達が急ぐ中、ようやく北の山近くまでやってきた。しかし、不意に地響きのような音がした。直後、山から鳥たちが飛び立つのが見えた。

 バーリオ達は馬を止めないまま注視する。


「なにがあった……?」

「バーリオ殿! 山が!」

「む……!?」

「黒い絨毯……?」


 目を細めてよく見ると、山の上から下に向かって、木々の隙間が徐々に黒で覆われて行くのが確認できた。

 コレルが見当違いなコメントをすると、バーリオは剣を抜いて馬の速度を上げた。


「ヴァール様はコレルを連れて城へ! 援軍を要請してください!」

「バーリオ、あれはなんだ!」

「魔物です! 山の魔物が一斉に山を下りようとしているのです!」

「「「……!?」」」


 遠くなっていくバーリオが顔だけ振り返りヴァールへ言う。ヴァールとコレルは立ち止まり、騎士達も驚愕しながら一瞬止まる。

 

「この人数では殆ど抑えられません、どうか陛下に増援を!」

「わ、わかった! コレル、戻るぞ!」

「わ、分かった……!」


 ヴァールが大人しく下がってくれたのを見てバーリオは小さく頷き前を向く。まだ山の中腹程度だが、麓まで着くのは時間の問題だろうと歯を食いしばる。


「麓には町やがありますが警告をしに行っても良いでしょうか?」

「許可する。混乱は免れんが頼む」

「ハッ!」


 数人の騎士がそれぞれ町と村へ危機を伝えに行くと散開していく。

 防衛の人数が減るが、あの黒い絨毯が魔物であれば一人二人減ったところでそこまで変わらない。

 

「騎士を引退し、指南役としてやってきたがここが死に場所かもしれんな」

「なにをおっしゃいますバーリオ様! 我等の力を見せる時、みんな行くぞ!」

「フッ、言うようになったな。……まずは状況を確かめる!」


 弱気な発言をしたバーリオを弟子の騎士達が鼓舞する。

 それを聞いて『私も年を取ったな』と呟き、目つきを鋭くしてから再び先頭に立った。そして山の麓へ到着した。


 その時、転がるように山から出て来た者達が居た。


「くっ、数がやばいぜ……! っと、山から出たか」

「だが面白い……! 戦いとはこうでなくては!」


 まずはウェリスとバルドの二人だった。完全に疲弊した馬と共に草原へと躍り出る。ウェリスは悪態をつき、バルドは楽しそうに剣を握り直す。


「くそ……あと一息、早ければ……!!」


 その後にウェリス達を監視していた騎士が出てくる。ラーテルキングが魔石を食べるところに出くわしていたが一歩及ばずだった。

 だが、ウェリスの持っていた魔石であることは目撃していたので、詰める材料にはなる。


「お前達!」

「バーリオ様!? なぜここに……い、いえ、ここは危険です! 魔物が……魔物の群れが山を出ようとしています!」

「やはりか……しかし下がれば被害は大きくなる。今、ヴァール様が援軍を呼んできている。出来るだけ迎撃をするぞ」

「……! 承知しました! おい、お前達も戦いに参加するんだ!」

「チッ……」

「俺はやる。ドラゴンとまではいかないが、あのラーテルキングは手ごたえがありそうだ」


 逃げようとしたウェリスの前に騎士が回り込み責任を取るよう口にする。バルドは特に気にした風もなく、肥大化したラーテルキングに狙いを定めた。

 

「親玉か?」

「そうですな。ウェリスの魔石を食ったあと、雄たけびで魔物達の動きを誘発しているようでした」

「……コレルの魔石には混乱……食った魔物が知恵と魔法を身に着けた……?」


 バーリオがラーテルキングのことをバルドに問いかけると、頷いた。

 目の前で見ていた出来事を告げると、今までの件と合わせてラーテルキングがおかしな力を手に入れたと推察した。


「そんなことが……」

「無いとは言い切れんだろう。そして親玉を倒しても恐らく意味は無い」

「どうしてだ?」

「魔物を従えているのか混乱させているのかはわからないが、山から出す理由が無い。考えられることはいくつかあるが――」

「話はここまでのようです! 足の速い魔物が出てきました!」

「よし、各人散開! 冒険者二人を監視しつつ迎撃にあたれ!」

「「「承知!!」」」

「「「ガァァァァ!!!」」」


 直後、バーリオ達の前に魔物が飛び出してきた――


◆ ◇ ◆


「あーい♪」

「ぴーよー♪」

「うぉふ♪」


 前傾姿勢で風のように走るドラゴン一家。

 トーニャの腕にすっぽり収まっているリヒトとひよこ達、そしてトワイトとディランに抱えられているアッシュウルフ達は喜んでいた。


「楽しそうじゃのう」

「わほぉん……」


 ディランの腕に居るダルはだらんと四肢を投げ出して情けない声を上げていた。

 そこで走りながらトーニャがトワイトに並んで声をかけた。


「ママ、リヒトをお願い」

「どうしたの?」

「あーう?」

「あたしはまだ、子供を連れて戦えるほど器用じゃないもの。あの時みたいにママが守っていた方がいいと思うの」

「……わかったわ。リヒト、おいで」

「あーう♪」

「こけー……!?」


 カバンから顔を出していたジェニファーがびっくりした声を上げる。

 高速移動中に手渡しなのでジェニファーが正しいのだが。

 だが、もちろん滞りなく手渡すことに成功する。


「あの山のようじゃ」

「あらあら、魔物が溢れそうですね」

「ふむ、バーリオ殿が見えるわい。ワシはあっちへ行く。二人は山から出そうな魔物を追い返す。それでいこう」

「オッケー!」

「わかりました♪ リヒト、しっかり掴まっててね」

「あい!」

「いざとなれば……分かっているな?」

「「ええ」」


 そこから三方向へと散っていく。

 魔物数が多いため、ドラゴンの姿になることも辞さないことを告げて。


「トワイトはリヒトを連れている。無理はしないでええからの」


 ディランはリヒトを連れているトワイトへ言うと、彼女はウインクをして頷いていた。そのディランも頷いてからさらに速度を上げる。


 そして――


「やはり戦力が足りないか……!」

「この程度はかすり傷です。まだもちますよ……!」

「そっち! 行ったぞ」

「しまった……!?」

「グォァァァァ……!」


 ――バーリオや騎士達が戦っているところへ到着する。


「すまんのう」

「グガ!?」


 騎士の背後から襲おうとしていた魔物をディランが殴りつけた。勢いよく吹き飛んで魔物達の群れに飛んで行く。


「助太刀するぞい」

「あ!? ディ、ディラン殿!? どうしてここへ!?」

「嫌な気配を感じたのじゃ。トワイトとトーニャも麓に駆け付けておる」

「そ、それは心強い……! 我が騎士団が来るまでお願いします!」


 バーリオが歓喜の声を上げる。

 するとそこでウェリスが訝し気な顔で口を開く。


「なんだあ? 武器も防具も無しだと? 舐めてるのか爺さん?」

「舐めてはおらんよ。まあ、見ておくのじゃな……つぁ!」

「「……!?」」


 ディランがスッと息を吸ったと思った瞬間、ウェリスの近くに居た魔物が数十体吹き飛んだ。まったく姿が見えずにウェリスとバルドが驚愕の表情を浮かべた。


「しかし、これは無理かのう」


 余裕はあるディランだが、山から下りて来る魔物の数を見て目を細めるのだった。

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