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第119話 竜、気づく

「ふん、この辺りの魔物じゃ話にならないな」

「襲い掛かってくるから仕方ねえが、酷いもんだぜ」


 バルドが大剣の血を振り払っている横でくっくと笑いながらウェリスは素材を剥いでいた。

 ひとまず荷台を外して馬と一緒に山を上り、探索を続けている。魔物に襲われることが数度あったが応戦して十分倒せるレベルだった。


「ドラゴンのでかさだと山にしか潜伏できないが……人間の姿になれるなら分からないよな」

「おとぎ話ではないのか?」

「どうかな。ドラゴンとまともの接触する人間なんて殆ど居ないだろうから、実際には町に紛れ込んでいる、なんてことはあるんじゃあないか」

「ふむ」

「とりあえず山登りを続けようぜ」


 馬につけたバッグに素材を入れて背を叩き再び歩き出す。緩やかな斜面を選んで少しずつ、確実に上へ行く。


「どこまで行く?」

「中腹かそれより少し上だな。そこでコンフュージョナーの魔石を使う」

「なるほどな」

「ロイヤード国に撒いたやつよりでかくて強力なやつだ。いくつかあるし、ひとつ使ってみよう」

「そこを中心に魔法が広がっていき、ドラゴンが居れば炙り出せるかもしれん……ということか」

「そういうこった」


 バルドが魔石の使い方について投げかけるように呟く。ウェリスはそれで間違いないと馬を引いてさらに上へ。

 そしてある程度進んだところで、眼下の光景と自身の位置を確認して立ち止まった。


「この辺でいいか」

「任せる。俺は休憩するぞ」

「ああ」


 バルドは水筒を取り出して自分が飲み、続けて馬に水を与えて一息つく。近くに川でもあれば馬にもっと飲ませてやれるのにと考えていると、ウェリスはカバンから成人女性の太ももくらいある魔石を取り出す。


「どう使うんだったか?」

「その辺に置いて魔力を込めれば周囲に魔法が散る。少しだが俺も魔力はある」

「お前の友人は器用だな」

「まあな。なんでこの国の王子についているのかわからないが――」


 ウェリスがニヤリと笑みを浮かべながらバルドの方を向いた時、それは起きた。


「ギシャァァ……!!」

「ウェリス!」

「うお……っと!」


 姿勢を低くしたラーテルキングがウェリス目掛けて襲い掛かって来た。バルドの視線ですぐに気づき、身をよじって回避する。しかし、そこで手にした魔石を奪われた。


「シャァァァ……」

「チッ、ラーテルキングか。バルドちょっと手伝ってくれ」

「すぐに終わらせる」


 魔石を咥えたまま威嚇をするラーテルキングに剣を抜いて応戦の構えになる。だが、ウェリス達が仕掛ける前に目の前の魔物は魔石をかみ砕いた。


「……!?」

「なんだと……?」


 バリバリとかみ砕いては飲み込んでいくラーテルキング。

 純正ではない魔石を食べる姿を見て、二人は眉を顰めて呆然とする。


「嫌な予感がする、叩き斬るぞ!」

「おう……!」


 食べ終わりかけたところでハッとなったウェリス達が踏み込んでいく。するとその瞬間、ラーテルキングが雄たけびを上げた。


「ぐっ……!?」

「うるせえ……!? あ、てめえら!」

「ギシャァァァ!」


 雄たけびが頭に響き足を止めさせられた二人。そこへ複数のラーテルキングが姿を現し、魔石の入ったカバンに飛び掛かってくる。


「くそ、面倒くせえな……!」

「大丈夫だ、この程度なら……!」


 カバンを守りながらの戦いとなり、バルドが先陣を切って大剣を振り回す。ウェリスもラーテルキングからの攻撃をいなしつつダメージを与えて行く。

 だが、一頭の魔物は連れている馬に目をつけてそちらへ向かう。


「クソが……!」

「ギィィェアア!?」


 ウェリスの剣がラーテルキングの背中を打ち付ける。

 硬い毛と皮に弾かれながらも傷を負わせる。済んでのところで馬には攻撃が届かず、ラーテルキングは坂を転がり落ちて行く。


「へっ」

「ウェリス!」

「ぐあ!?」


 安堵したのも束の間。

 魔石を食べたラーテルキングが、他の個体に足止めされているバルドの脇を抜けてウェリスに飛び掛かる。

 爪が肩にかかったが鎧のおかげでダメージは少ない。しかし衝撃でカバンを取り落としてしまった。

 瞬間、ラーテルキングがそのカバンを奪い距離を取る。


「野郎!」

「ギシャァァァ……!!」

「速い……!」


 すぐに攻撃を仕掛けるがラーテルキングの動きは通常個体より機敏で、即座に遠くへ逃げていく。バルドと戦っていた個体も倒された二体を除き、魔石を食べた個体の下へ集まる。


「ギシャ……」

「……! まだ食べる気か!」

「行くぞ!!」


 ウェリスとバルドの二人が迫るもそれを遮るように残りのラーテルキングたちが立ちふさがる。

 勝てない相手ではないが、魔法使いのシスが居ないため一掃するのが難しい。


 そして――


「ギャォォォォォン……!!」

「なんと……!」

「でかくなりやがった!」


 ――魔石を全て食べた最初のラーテルキングはおよそ二倍程度まで膨れ上がった。

 ダル達の仇だった個体でも十分な大きさを持っていたが、さらに大きく、だいたい二倍ほどの高さになっていた。


「ふん、ちょうどいい。ドラゴンの前に狩りとってやるか」

「だな。貴重な魔石を食いやがって……」


 ドラゴンが居ると疑わないバルドが戦意を上げ、ウェリスが悪態をつく。

 正気を失わせて倒すという計画をラーテルキングに崩されたため苛立ちを隠さずに指を舐める。

 そのまま戦いが始まるかと思ったが、魔石を食べたラーテルキングは大きく息を吸い込み――


「オオオォォォォォォ……!!!」

「ぐっ……?」

「叫んだ? まあいい、行くぞ!」


 ――大きく叫んだ。

 何事かと思ったがやることは変わらないとウェリスが突っ込む。だが、その瞬間、山が、震えた。


「な、なんだ……?」

「これは……」


 そして地響きが鳴り始め、山のあちこちから魔物が移動する姿が見えた。


「魔物が……!?」

「一斉に動いているだと!? 山を下りている……まさかスタンピード……!?」

「こりゃまずいか……!」


 山の魔物があちこちに移動し下山していく。

 ウェリスとバルドはすぐに馬を連れてその場を離れた――


◆ ◇ ◆


「……!」

「あなた!」

「遠いけど、魔物達が荒ぶっている?」

「あーう?」

「……わほぉん」


 ラーテルキングが吠えたその時、村から帰ろうとしていた一家が気配に気づいた。

 ディランとトワイトが北の山を見て険しい顔をする中、トーニャと、肩車されているリヒトが首を傾げていた。

 そしてディランが目を閉じて少し考えた後、その場に居た全員に言う。


「これは一大事のようじゃ。人間の町や村に被害が出るのはモルゲンロート殿が悲しむじゃろう」

「ええ」

「そうね」

「じゃから手分けしてワシらの力を使う。ことと次第によっては……ドラゴンの姿になるぞ」

「「……!」」


 ディランが至極真面目な声色でそう告げた。

 トワイトとトーニャがその言葉に目を見開いた。だが、お世話になった人間達のためにと顔を見合わせて頷いた後、それぞれペット達を抱える。


「行くぞい」

「はい!」

「リヒトが居るからあたしは少し速度を落とすわね」

「あーい!」


 その言葉を言い終えると、風のようにその場から一家が消えた――

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