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第118話 竜、駆けつける

「で、どうするんだ?」


 道具を整え、馬車で町を出たところで御者台のバルドがウェリスへ話しかける。

 シスの居なくなった軽い荷台を振り返った後、同じく御者台に座っているウェリスが頭の後ろに両手を組んでから口を開く。


「このまま適当な山へ行くさ。あの王子、自分が優位を取って牽制したつもりだろうが逆にこの国にドラゴンが居る可能性が高くなったから居座らせてもらう」

「ドラゴンの件は知らないようだったが?」

「父親の王がなにか隠している、ってのは間違いないだろ? それがドラゴンじゃないかもしれないが、明かして弱みを掴むというのはどうだ?」

「ふむ」

「そんなことをしなくてもいいように早く見つかればいいんだがな」


 ヴァールとの話で国がなにかを隠したがっているというニュアンスは分かったとウェリスは言う。

 ヴァールからしてみればウェリス達を暗に引き入れて父親の隠していることを掴みたいということだったのだろうが結果は決裂。

 むしろウェリス達はヴァールに対する牽制が出来るようになったと言える。


「しかし、王族を敵に回すのは得策ではないぞ。シスが人質になる可能性だってある」

「まあ、あいつも強力な魔法使いだ。いざとなりゃ暴れるだろうし、そもそも俺達は利害関係だけで組んでいる。どうなろうと気にすることもないぜ」

「それはそうだが……まあいい。それでどこの山へ行くんだ?」

「そうだな……俺達は東から来たがそれらしい姿は無かったし、北の山へ行ってみよう」


 バルドがなにか言いたげだったが、まずは目的を果たそうと話す。ウェリスは正面にあるキリマール山に指を向けた後、スッと指を北の山へ向けた。


◆ ◇ ◆


「馬鹿者!」

「ひっ!?」

「……」


 ウェリス達が北の山を目指し始めたころ、バーリオ達に連れ戻されたヴァールとコレルがモルゲンロートの私室へ通されていた。

 シスも来ているがこの話とはあまり関係がないため応接室で飲み物をもらって飲んでいる。

 そんな状況でヴァールが彼等と接触をしていた理由を尋ねたモルゲンロート。返って来た言葉に激高したところだ。

 珍しく怒り、二人の頭に拳が飛び、コレルは呻きヴァールは無言で顔を顰めた。


「……お言葉ですが父上、その態度ですとなにか隠していることがあると言っているようなものです」

「それはその通りだ。お前にもローザにも話していないことはある。だが、話す必要はないと判断したからだというのが分からんのか? それに気になるならどうして私に聞かなかった」

「もちろん、はぐらかされると思ったからですよ」


 モルゲンロートはヴァールからの質問に狼狽えることなく『話す必要はなく、隠し事は必要によってはあり得る』と口にする。


「どこから、どういう内容が漏れるか分からない。我々、王族の持つ情報というのはそういう類が多い。いつかお前に子どもが出来たら分かるだろう」

「しかし、王子として――」

「王子として知る権利は確かにある。だが、父を信じて欲しかったという想いはあるぞ」

「……!」


 モルゲンロートが少し困ったように笑いながらヴァールの目を見て告げる。そこで彼はハッとした顔をした後に頭を下げた。


「ごめんなさい、父上」

「うむ。まあ、隠していたことは私も悪いとは思っている。すまなかったな」

「いえ、私も探りすぎたと思います」


 息子としての謝罪をするヴァール。

 モルゲンロートはお互い様ではあるが、王として言わないことが正解な時もあると諭しつつ謝罪をした。


「あの、どうして私も拳骨をもらったのでしょうか……」

「それはお前がヴァール様の側近だからだろうが。一緒になって追いかけるのではなく、止めるのも役目だぞ」

「そう言われても私は無理やりこの仕事をしているんだ、そこまで配慮はできない」

「決めたのはヴァール様だが、城で働く以上は是正してもらう。いい機会だ、宰相に心構えでも教えて貰うといい」

「ぐぬ……!」


 バーリオがさらりと叩かれて当然だと言う。

 教えられていないという部分は確かにあるため理不尽というのはわかる。だが、コレルがしたことの罰でもあるため『言われたらやらねばならない』のだ。


「コレルのことは私が教えますよバーリオさん。ふう、僕もまだ未熟だ」

「臨機応変に、ということだな。私も手に負えないようであればお前を頼ったと思う。さて、説教はまた後にするとしてドラゴンを追う者と接触したのだな?」

「はは……まだ怒られるのですね。ええ、それとコレルの知り合いでした」


 ヴァールは父の怒りはまだ収まっていないことに冷や汗をかき、話を続ける。


「ウェリスは友人です。ドラゴン討伐のことは聞いていましたが、あそこまで執着しているとは思いませんでした」

「なるほど。しかしこの国に居るかどうかはともかく、倒せる自信があるようだな。それほどの実力者か?」

「実際、目にしたことはありません」

「そうか。というか貴族主義なのに冒険者の友人が居るとは驚いたぞ」

「それは……まあ……」


 コレルはウェリスのことを正直に答えた。

 しかし、そもそも、貴族であるコレルと冒険者の繋がりが分からないとバーリオは言う。

 口ごもっているところでモルゲンロートはコレルにもう一つ、と質問を投げかけた。


「まあ、それこそ隠したいことの一つもあるだろう。彼に対して注意すべきことはあるか?」

「いえ、特には……はぅあ!?」

「ど、どうした?」


 モルゲンロートがウェリスについて知っていることがあれば話してくれと言われ、コレルは顎に手を当てて考える。自分より上の貴族ため何気に大人しく従う。

 特筆すべき点は無いといいかけたところで雷に打たれたように身体を震わせた。


「あの魔石……私の作った魔石を持っています……」

「なに……!? あの人を狂わせる魔石をか!?」


 コレルの呟きにバーリオが珍しく声を荒げた。ヴァールも目を丸くして驚いていた。


「それはまずいな……バーリオを筆頭に事情を知る者を連れて冒険者を追ってくれ。私の権限で魔石を没収して構わない。連れて来て事情を話す」

「承知しました……!」

「わ、私も連れていってください!」

「いいだろう。邪魔はするなよ?」


 バーリオはコレルを連れていくことに決め、部屋を出ていく。


「私も行きます。あの男を焚きつけてしまったと思います」

「うむ。だが、無理はするなよ」

「分かっています」


 自分のしでかしたことの責任は取るとヴァールも行くことにした。

 モルゲンロートは止めなかったが、死ぬようなことは無いよう告げるのだった。

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