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第116話 竜、訪問される

「ヴァールは居ないのか?」

「あら、執務のお時間では?」

「今日は休みなのだ。しかし、部屋には居ないようでな」


 モルゲンロートはヴァールの姿が見えないとローザの部屋を訪ねていた。

 休みでもどこかへ行く際は一声かけていく息子が黙って出て行っていることを不思議がる。


「昨日もコレルさんと外へ行っていたみたいでしたわ」

「なに?」

「もう大人なので特に止めはしませんでしたけど、止めた方が良かったかしら?」

「いや……」


 そういえばこのところ息子の様子がおかしい気がするとモルゲンロートは思い返す。ドラゴンの話あたりから特に。


「まさかとは思うが……」

「あなた、どこへ?」

「執務だ。仕事はせねばならん」


 そう返してローザの部屋を後にし、自室へ向かう。そこでガルフの屋敷から帰って来たバーリオと遭遇する。


「陛下、ちょうど良かった。報告をしようと」

「トーニャ嬢は山へ?」

「ええ。なにかありましたかな?」


 トーニャのことを尋ねられ報告をするが、バーリオはモルゲンロートがなにかを考えている素振りを見て聞き返す。


「ヴァールとコレルが居ないのだ。もしかするとなにか調べているかもしれん。すまないが町へ出て探してもらえるか?」

「なるほど……承知しました。事情を知る騎士も数人連れて行きます」

「ああ」


 バーリオは一礼をしてから踵を返した。

 急ぎ足で進むバーリオを見送ったモルゲンロートは執務のため部屋へと向かう。


「ディラン殿の件、もし知られてしまってもヴァールなら問題ないだろうがそこから他に知られるのがまずい。やはり国民が不安がるのは困るからな」


 それを調べているわけではないことを期待しつつ、仕事へと向かった――


◆ ◇ ◆

 

「――だいたい話は分かった。けど、関連性が分からないな」

「ロイヤード国だと見られているんですけどね」

「忽然と姿を消す、ということはあり得るだろうか?」


 モルゲンロートの想いも虚しく、ヴァールとコレル、そしてウェリス達は適当な店に入って事情を話し合っていた。

 ドラゴンと戦い、逃走した個体を追っているというのがウェリス達の話で、これはコレルも知っていると証言する。

 しかしヴァールはディラン達とドラゴンが紐づかないと首を傾げる。

 それもそのはずでディランが来た時期と、トーニャが来た時期にはズレがあるためディランには辿り着かない。


「……バルドさんの疑念ですが、ドラゴンは人の姿になれるというのを聞いたことがあります。紛れ込まれたら分からないでしょう」

「なら、そのディランって奴に聞いてみたらどうだろう?」


 ウェリスは大胆にもディランに直接聞いてみたらどうだとヴァールへ言う。

 それに対し、コレルは目を細めてから返した。


「あの男、一筋縄ではいかないぞ。私の魔石を全て回収した上で、魔力追跡をしてきたほどだ」

「げっ、魔石ってアレのこと? そこから作成者を辿れるなんて超手練れじゃない……」

「だからこそ、言い方は悪いけど怪しいと思うんだけどね」


 コレルの言葉に魔法使いであるシスが冷や汗を出す。コレルとはこれが初顔合わせだが、経緯はウェリスから聞いている。

 そして魔石はやはり同じ魔法使いとして凄いものであると考えている。だが、ディランはその魔石を辿って製作者に行きつき、計画を止めたことが恐ろしいと言う。


「その御仁がドラゴンなら有り得るのではないか? やはり聞いてみた方がいいかもしれない」

「まあそれが良さそうだね。私なら父上の息子ということで問いただせるかもしれない。ただ、この件に関してもし本当にディランさんかトーニャさんがドラゴンだった場合、他言無用だ。これはロクニクス王国の王子である私の権限でそうさせてもらう」

「……!」


 ヴァールは先ほどまでの笑みを消し、真面目な顔でウェリス達へ告げる。

 その声色は本気であることを伺わせ、いつも軽口を言うコレルですら背中に冷たいものが走った。

 それに加え『貴族に従うべき』というコレルの思想らしくも見えた。


「もし守らなかったら……?」

「もちろん相応の刑を考えるよ。だから今、それが守れないとなれば監視をつける。ドラゴンが国に居るとなるとそれなりに大変なことが予測されるんだ」


 恐る恐るシスが尋ねると不敵に笑いながらどうしようか? と、三人を見る。

 するとシスがさっと手を上げてから口を開く。


「私はドラゴンとかどうでもいいので黙っておきます」

「そうだな。俺も戦えればそれでいい」


 騒ぎを起こすのは得策ではないとバルドも了承する。しかし、ウェリスはすぐに声を上げずに思案をしていた。


「んー……」

「なによウェリス。あんた悩む必要あるの? バルドと戦ったらそれでいいんじゃない?」

「いや、戦うのはその通りだけどよ。殺しちまったらどうしようって」


 訝しむシスの言葉にウェリスはさらりととんでもないことを口にした。ぴくりと眉が動いたヴァールは静かに言う。


「その考えは及ばなかったな。勝てるつもりでいるのかな? ドラゴン相手に」

「当然。あのピンクのドラゴンもこっちに恐れをなして逃げたんだぜ? あと少し、きっちり戦えば倒せるはずだ」

「ふうん。なら監視をつけるか国外へ追放ってことになるけどいいかな」

「な!? なんでだよ!」


 ヴァールはウェリスの話を聞いた後、つまらなさそうにため息を吐いてから彼に返す。


「それはもちろん、ディランさんが父の友人だからさ。私は正体を知りたいが、迷惑をかけたいわけじゃない。まあ、この調査そのものが迷惑かもしれないけれどね?」


 何も無ければそれでいいが、ディラン達がドラゴンであれば父だけの問題ではない。次の王は自分だと考えればそれは自然だと口にする。


「戦うだけじゃ名声は得られない」

「倒したという証でもあればいいと思うけどね?」

「首を獲ってこその冒険者なんだが……まあ、分かったよ」

「では戦うだけで?」

「いや、王子サマの力は借りない。自力でその男に会いに行くぜ」

「ちょっと」


 ヴァールに真っ向から対立を選ぶウェリス。最終的に自力で探すからいいと言う。

 シスが窘めようとするが、不敵な笑みを浮かべながら言う。


「ああ、嫌ならシスは来なくていい。俺一人でも……いや、バルドは来るか」

「そうだな」

「困ったな。こちらが王子だと言えば大人しく従うと思ったんだけど」

「あいにく、それなりに腕に覚えがあるんでね」

「ウェリス。さすがに得策ではないぞ」


 友人としての忠告だとコレルも言うが、ウェリスは立ち上がってから席を離れる。


「話は終わっていないよ」

「こっちは終わりだ。さすがに王子を斬るわけにゃいかないからこのまま下がるけど、追手を差し向けたら倒すぞ」

「……」

「お、おい、ウェリス。ヴァールもなにか言ったらどうだ」

「行くぞバルド。シスは嫌なら来なくていい」


 ヴァールを挑発するようなことを口にし、シスには来なくていいと告げて歩いていく。


「ウェリス、バルド! ったく、アホな男達ねえ……」

「……どうするのだ?」

「大丈夫。一応、監視はつけるとしよう。どこの山とまでは知られていないからすぐにあそこに行きつかないだろうけど」

「お前は?」

「私は……そうだね、ディランさんのところへ行ってみようか。父上には内緒で。シスさんはこれからどうする? 彼等と合流するなら止めはしないけど」


 特に気を悪くした風もなくヴァールはコレルの質問に軽く答えた。

 色々と考えていた策の一つであり、相手の出方次第で手札を変えた形である。

 そこでディランのところへ行こうと二人に言い、シスは今後どうするか尋ねた。


「うーん……私は王子様を敵に回したくないから合流はしない、かな? そもそも私はドラゴンに興味ないですし」

「なら、ことが済むまでこちら側に居てもらおうか。山に行く前は目隠しさせてもらうけど」

「わ、分かりました」


 シスは困惑しながら承諾する。

 コレルはヴァールがなぜ学院時代この男に人が集まったのか分かった気がした。


「それじゃあ一旦城へ戻ろうか」

「そうですな。ここで何をしておられたので?」

「おや、バーリオ」


 そこで騎士を連れたバーリオが現れた。


◆ ◇ ◆


「ただいまー」


 一方その頃、トーニャは特に何事もなくキリマール山の両親の下へ帰っていた。

 玄関で声をかけると、リヒトを抱っこしたトワイトが出迎えた。


「あら、帰って来たのね! そろそろだと思ったけど」

「あー♪」

「やっぱり話は来てたんだ? 久しぶりーリヒトー♪」

「わんわん!」

「ぴーよー♪」


 出迎えたリヒトがトーニャに向かって手を伸ばし、トワイトから預かって頬ずりをする。

 足元ではルミナスやひよこ達が集まって喜んでいた。


「さて、とりあえずほとぼりが冷めるといいがのう」

「あ、パパ! そうねえ。ドラゴンも辛いわ。いっそ正体を見せて戦ってもいいけど……」

「そこはモルゲンロートさんが困るからねえ。立ち話もなんだし入って」

「はーい」

「あーい♪」


 トーニャを迎え入れて家へと入る一家。

 姉が帰って来たとリヒトが大喜びで首に抱き着くのを見てディランとトワイトは微笑むのだった。

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