第112話 竜、久しぶりに王都へ?
「それでモルゲンロート殿はどうする予定か聞いておるか?」
「ひとまず彼等の動向を監視……いえ、探っていますね」
「どうしたの、あなた?」
「あーい!」
「わん」
トワイトが外に出ると、外でご飯を食べるために最近作った木のテーブルとイスに、前に見たことのある騎士が数名ディランの前で会話をしていた。
ペット達もわらわらと集合し、ディランとトワイト足元で待機をする。
「おお、トワイトにリヒト。どうも例のドラゴンを追う人間が現れたようじゃ」
「あらあら、それは早かったですわね」
「うー?」
トワイトも驚きながら椅子に腰かける。
リヒトはどうしたのかとトワイトの方を見ながら手を彼女の頬に置く。
「少しお話があるから待ってねリヒト♪ レイタ達と遊んでいてね」
「あい」
「「「ぴよっ」」」
「あー♪」
トワイトが足元に居るひよこ達を拾い上げてリヒトのポケットへ入れてあげると、嬉しそうにそっちに目が行く。
その間にとディランが頷くと、待っていた騎士が続ける。
「刺激はしない形で監視をすることにしています。事情を知っていて斥候が出来る騎士は多くないので少し難しいのですが」
「ふむ。ワシはむしろ放置でいいと思うがのう」
「え?」
「そうですね」
監視をするということを聞いてディランが顎に手を当てて渋い顔をする。
トワイトも同じ意見のようで、頬に手を当ててから小さく頷いていた。
「結局、そやつらの狙いはドラゴンじゃからな。姿を見せなければただの人間じゃ。『誰がそうなのか』分かっていれば後はトーニャが正体を見せなければ生活の範囲内じゃろ」
「確かに」
「トーニャちゃんをウチに来させてもいいかもしれないわね」
ディランの言い分としては下手に監視をつけて勘繰られるより、相手が分かっているならそこからトーニャを場から離すのが一番いいと語る。騎士はそれを聞いて納得した表情で頷いていた。
ことがことだけに相手が危険人物と考えたかもしれないが、実際は相手に考えさせる素材を与えているのだと。
「承知しました。すぐに戻って陛下へ進言したいと思います。ディラン殿はどうされますか?」
「ワシらはここに居るとしよう。トーニャもそうじゃが、ワシらもドラゴンじゃ。王都に居ない方が良かろう」
「そうですね。では早速――」
騎士達は報告を終え、ディラン達の考えを聞いてから王都へと帰還する。
それを見送っていると、トワイトが口を開く。
「あ、そういえばその冒険者さん達の強さとか聞き忘れたわ」
「現れたのは一昨日ということじゃし、そこまでは分からんじゃろう」
「あら、本当に最近なんですね。とりあえずトーニャちゃんがこっちへ来るまで待ちましょうか」
「うむ。では飯にするか」
「あーい♪」
ディランは相手が分かっていればそれほど脅威ではないかと王都へ行くことはしなかった。トワイトの腕からリヒトを抱き上げてディランは家へ向かう。
「うふふ、こういうのも懐かしいわね」
「ん……」
「あい?」
「こけー?」
トワイトが背後から声をかけてきて、ディランは肩を竦める。
リヒトとジェニファーがディランの表情を見て首を傾げるが、そのまま何も言わずに家へを入っていく。
「うぉふ」
「ぴよ」
「あうー」
トワイトがキッチンへ向かい、朝食の用意を始める。
リビングでリヒトとペット達が遊ぶの見ているディランに、トワイトが声をかけてくる。
「昔、竜の里から出て、人間の町で暮らしていた若いドラゴンが似たような感じになってましたね」
「その話はしたくないがのう」
「あの時はどうして正体を知られたんでしたか?」
「……ちょっと人間では手に余る魔物を止めた時じゃったと思う」
「ああ、そうでしたね。でも、彼等はドラゴンを狩ろうとしませんでしたから、きっと今回も普通に過ごしていれば大丈夫ですよ」
「そうじゃのう、これ、髭を引っ張っていかん」
「あーう!」
リヒトが元気の無い感じに見えるディランの髭を引っ張っていた。
食事ができたところで食堂へ行き、席に着く。
膝にリヒトを置いてさっと食事をしていると、ディランが少し考えてから話し出した。
「正体を見せても怖がられなければいいのじゃがな」
「私達は大きいですから、やっぱり怖いですよ。だけど、ガルフ君やモルゲンロートさんみたいに理解を示してくれる人間も居ますし。逆に言えば戦いを挑んでくる人は貴重ですよ」
「あー、そういう考え方もあるか」
トワイト曰く、目的は分からないが戦いを挑んでくるような人間は肝が据わっているので話せばもしかしたら仲良くなれるのではと言う。
「トーニャちゃんを殺す、となれば私はもちろん相手を倒すことを躊躇しませんけど『話し合い』をしてもいいのかもしれません」
「おう……」
うふふと笑うトワイトにディランは小さく返事をする。トーニャに渡したカタナの持ち主も理解があったなと思い返し、事の成り行きを気にするのだった。
◆ ◇ ◆
「お、流石だな」
「ま、これくらいはな。ドラゴンの情報はないかい?」
「お前さん達がその話をしてから色々と確認している冒険者も居るみたいだが、情報は無しだ」
「ありゃヒートヴァイパーか。でけえ個体だな……」
「ああ、流石ってのはそう思うぜ」
ディラン達は王都に行かないと決めた日の昼。
ギルドではウェリスが大物を仕留めて戻ってきており、冒険者達が感嘆の声を上げていた。
噛まれると火傷をしたように腫れあがる魔物である。動きが素早く人間の胴体くらいの太さがある。この個体はさらに太く、強敵だったことを伺わせていた。
そして中一日たった今、ウェリスがドラゴンの情報がどこからか出てこないか聞いてみるも、ギルド職員からはなしのつぶてだった。
冒険者達が称賛する中、ウェリス達はギルドを後にする。
「まあこれくらい、私達は余裕よね。もう名前は売れたし探すの諦めよう?」
「肩慣らしにもならん……なあ、北に住む氷狼とかいうヤツの方が面白いんじゃないか?」
「まだ二日だろ!? 我慢が足りないぞお前ら……もう少し森とか山を調査してからだな。潜伏しているならあの魔石を発動させてもいいかもしれんし」
「えー……?」
シスが心底嫌そうな顔で抗議の声を上げた。
「そこまでしてドラゴンを倒す意味なくない?」
「素材は使えるぜ。文献には攻撃にも防御にも使えるし、魔力も多いから魔法使いのロッドとか強化できるぞ」
「俺は強い相手と戦いたいから好都合だが……こうも会えないとなあ……」
「うるせえうるせえ! ……っと、気づいているか?」
シスはもう面倒くさくなっているのでウェリスにやめようと口にする。それでも装備に使えるぞとメリットを示唆していた。
それと同時に監視されていることに気づいているかと問う。
「……まあ、ね」
「誰かに見られているというのは分かるが。理由がわからんな」
「だな。俺達のファン、ってことならいいんだが」
ウェリスは視線だけをそちらに向けてからフッと笑う。そして続けて二人へ言う。
「よそ者に厳しいのか、それともなにか別の理由があるのか――」
「聞いてみるのも手かしらね」
「オッケーだ」
三人は頷いた後、サッと散開する――




