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第106話 竜、違う村へとやってくる

「傷は残らないかしらね? 上手く避けているわ」

「ダル達は遊びながらも狩りはしっかりしておったし、実になったようじゃな」

「あーい♪」

「わほぉん」


 草むらにシートを敷いて三頭の手当てを終えた。

 リヒトはそんなアッシュウルフ達を労うように、鼻にキスをして回り、首に抱き着いていた。


「ぴよー」

「それにしても私達が洞穴へ入ってからすぐラーテルキングが現れたのはどうしてかしら? 見られていた感じはなかったんですけどね」

「もしかすると、こやつらが戻ってくるのを待っていたのかもしれんのう。両親を傷つけたが洞穴の奥へ逃げたからラーテルキングは追えなかっただろうしの」

「わん……」


 ディランの推測は両親が怪我をして洞穴の奥へ逃げられた。出てくるのをしつこく待ち、結局二頭は亡くなってしまったのだろうと。

 ダル達がどれくらいの時期だったか分からないが、まだミルクを飲んでいたころなら母親からもらえていた可能性があると言う。


「それはありそうねえ……隙を見て外に出たの?」

「わほぉん」

「あー♪」

「ぴよ」


 トワイトの質問にダルが尻尾を振る。リヒトはそれを掴んでふさふさし、レイタが毛づくろいをしていた。


「では下山するか。歩けなかったら担いでいくから言うのじゃぞ」

「うぉふ♪」

「おや!? こいつはラーテルキング……!? し、死んでいる」

「あらあら?」

「うー?」


 包帯を巻かれた三頭がひとまず元気な顔になったので移動するかとディランが言うと、近くで声が聞こえて来た。


「そやつはワシらが退治した。まずかったかのう」

「え!? あ、あんたがか? なんも装備していないのに……」


 ディランが近づくと、しっかりとした装備に身を包んだ男が振り向き驚いていた。

 武器も防具も装備していないのでその意見はもっともだが、ディランは右手で拳を握り、左手で三頭を示唆しながら返す。


「ワシは素手でも十分じゃからな。それにこやつらが追い込んでくれたから楽じゃった」

「わん!」

「へえ……ってアッシュウルフじゃないか。それに三頭……あっ、もしかしてあの時のチビ共か?」

「うぉふ」

「知っておるのか?」


 男がダル達とラーテルキングを見比べてポンと手を打った。ディランが尋ね返すと、男は頷いてから顎に手を当てて言う。


「半年くらい前だっけか。ここでラーテルキングを見るようになっていたんだ。山で採集している人なんかを襲ったりするから討伐依頼が出ていてな」

「ふむ」

「で、ある時アッシュウルフ二頭がラーテルキングと戦うのを見かけたんだ。隙をついて討伐しようと思ったが一頭にキレが無くてな。庇うように戦っていた一頭ごとダメージを負っていた」

「それでどうなったんですか?」


 トワイトがその後を聞く。恐らく白骨化した両親ウルフのことだと悟ったからだ。


「その後は俺もラーテルキングを攻撃し、怪我を負った二頭は逃げることができた。倒すには至らず逃げられた。それから数日、ラーテルキングを追って山を歩いていると小さいアッシュウルフ三匹を見つけたんだ。そいつらは俺の追っていたラーテルキングに追われていた」


 そこで男は自分に気を向けさせるため急いで攻撃を仕掛けたという。


「三匹が逃げるのは確認せずにラーテルキングと戦いを繰り広げていたんだが、こいつらがそうなら良かったな」

「わん!」


 男がフッと笑い、アッシュウルフ達に視線を向けるとルミナスがお礼のような声を上げた。


「それは本当に良かったわ。ご飯が無くなって外に出たところを狙われたのね。お父さんの読み通りだわ」

「そうじゃな。ところでこいつを追っていたようじゃがそんなに強かったのか? 半年も追うとは」

「ああ、こいつは随分と賢くてな。不利になる、疲れそうになると必ず自分が有利なところへ少しずつ移動して逃げていた。だから中々倒せなかったんだ」

「一人では難しかろうな」

「まあな」


 村からの依頼で報酬が一人分しか用意できないから自分が来たと男は言う。半年ほど村で世話になり、ほとんど毎日、山を歩いていたとのこと。

 

「なら、こいつはお主が持って行ってくれ」

「え? いや、俺が倒したわけじゃない。下山するんだろ? 報酬はあんた達が貰えばいい」

「別に金には困っておらんし、小さいころのこやつらを助けてくれたというのであれば礼の一つもしたいわい」

「ええ♪」

「う、うーん、いいのだろうか……」

「わほぉん」

「こけー♪」


 ディランがそういうことならとラーテルキングの遺体を持って行くように男へ言う。トワイトも異論なく微笑んでいた。

 ダルも前足を上げてお礼を言い、ジェニファーもなんだか鳴いていた。


「まあ、立ち話もなんだな。下に荷台がある、そいつに乗せて運ぼう。そうそう、俺はラールだ」

「ディランじゃ」

「トワイトです」

「「「わふ」」」

「「「ぴよー」」」

「こけー」

「……動物達は全然わからん」


 ラールは苦笑しながらディランと共にラーテルキングの胴体と頭を回収して下山する。


「ふんふふーん♪」

「あー♪」

「ぴよぴー♪」

「道をならしているのか? というかそんな小さい子を連れていったいどこから来たんだ?」

「西の方に居を構えておる」


 ディランがそう答えると、ラールは少し考えた後で「あっ」と口を開いた。


「そうか、あんた達がこの山の管理者ってやつか」

「あらまあご存知なのね?」

「通達があったからな。各村や町に通達が来ている。まさかここで会えるとは」


 山の管理者というのを知っていて、それならラーテルキングを倒せるのは分かると納得していた。

 比較的緩やかな場所を下っていくと、数時間ほどで麓へ到着した。


「今から行くのは少し先にある村じゃな」

「ああ。行ったことは?」

「無い。さっき頂上から場所だけ確認しておいた」

「え……?」

「あーう……」

「あら、リヒトはおねむかしら? いいわよおやすみなさい」


 頂上を見上げてラールがディランの言葉に眉を顰めていた。その時、リヒトがあくびをしてトワイトの肩に頭を預ける。

 背中を優しくさすってあげるとリヒトはすぐに眠りにつく。


「うぉふ」

「わん」

「わほぉん」

「大丈夫、私が連れて行くから」

「すごく慣れているな。あの三頭は飼っているのかい?」


 リヒトが寝たので背中に乗せようかと提案してくる三頭にトワイトがやんわりと大丈夫だと告げた。ラールはそれを見て感心するように言う。


「うむ。ひよこを救ってくれた礼に庭を貸していたらそのまま住み着いたのでな。たまに知り合いの冒険者が来るのじゃが、可愛がっておるよ」

「はは、そりゃいい。良かったなお前達。なんか包帯だらけだけど」

「うぉふ!」

「名誉の負傷じゃ」

「なるほどなあ」


 尻尾を振るヤクトをディランが抱っこして撫でまわす。ラールが荷台を引きながら苦笑していると、村の入口へとたどり着いた。


「おや、ラールさん。もう戻って……あ、そいつは……!?」

「まあ、中で話そうか。彼等のことも話したい」

「ええ! 村長を呼んできます!」


 村は外壁はあるが門と呼べるものは無く、腰までの高さをした厚めの板がかかっているだけだった。

 そこを抜けるとわっと村人たちが集まってきた。


「ラールさんおかえり! ついにやったんだな!」

「これで安心して眠れるわね」

「そっちの方は?」

「うお!? アッシュウルフじゃないかこいつら……?」


 村人たちがそれぞれ労ったり、ディラン達を不思議がったりとする中、ラールが笑いながら言う。


「ま、その辺も含めてだな。こいつらも大丈夫だから」

「わほぉん」

「なんか包帯を巻いているわ」

「可愛いわね」

「それじゃ行こうか」

「うむ」


 ディラン達は頷いてラールへと着いていくことにした。

 

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