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第104話 竜、山の裏側へ行ってみる

「そういえば最近山から下りることが多かったが、あちら側へ行ったことは無かったのう」

「あちら側ですか?」


 朝食中、ふとディランがそんなことを口にした。

 山に自宅と宿を建設しているドラゴン一家だが、実は反対側へ行ったことはまだなかったりする。

 そこまで生態系が変わるわけでも無いが、珍しい植物や木の実があったりする可能性は高い。

 ちなみにディラン達の家からはモルゲンロートの居る西側のクリニヒト王都が一望できる。反対側はロイヤード国方面で東側にあたる。

 北側に近いところでリヒトを発見し、南側もまだ足を踏み入れていない。そんな状況である。


「お天気もいいし、お弁当を作ってお散歩ですね♪」

「うむ。洗濯物干したら向こう側へ下山してみるかのう」


 特に火山というわけではないため危険はそれほどないキリマール山。

 魔物が居るものの、それはどこの山でも少なからずあるため特に気にしていない。

 ガルフ達も狩りのためやってくることがあるのは承知のとおりである。


「今日は散歩じゃな」

「あーい♪」

「うぉふ!」

「わん!」

「ぴよー」

「こけー」

「わほぉん……」


 散歩と聞いてリヒトやペットは喜び、相変わらずダルだけが残念そうに尻尾を垂らしていた。

 リヒトにミルクを与え、ペット達も餌を食べると準備をして自宅を後にする。

 

「ぴよぴー♪」

「あーい♪」


 ひよこ達は相変わらずリヒトのポケットに入れ、ジェニファーはできるだけアッシュウルフ達と一緒に歩く。

 疲れたらディランの肩下げカバンに入れるといういつもの布陣だ。


「下山までしてしまいますか?」

「そうじゃのう。村か町があるかもしれん。立ち入らずとも確認だけしておくのもアリじゃな」

「村だったら尋ねてみましょうよ」

「あーい♪」

「うーむ、お前がそういうなら考えなくもないぞい」


 トワイトはディランよりも交流を気にしないタイプなので村や町があれば立ち寄りたい。

 ディランはそうでもないが、妻が行きたいと言うのであれば渋々ながらも着いていく。


「里の時は協力していたけれど、ここだと勝手が違いますからねえ。リヒトは人間だし、もしかしたらなにか困った時に助けてくれるかもしれませんよ」

「ふむ」

「あーう?」


 確かにリヒトは人間の子供だとディランは納得する。里ではご近所づきあいというのもトワイトが主にやっていたので従うのが得策だろう。

 彼女に抱っこされているリヒトの頭を撫でてからディランは再び山頂を目指す。

 

「あーう」

「わん」

「ぴよー」

「今日は雲もないから下がよく見えるわい」


 そして山頂ではトワイトが干している間、ディランはリヒトと一緒に地上を見て待っていた。

 いつもは眼下に雲がかかっているが今日は絶景というべき光景が広がっており、ディランが満足気に頷く。


「リヒトも男の子じゃし、大きくなったら旅に出たりするのかのう。息子のハバラもすぐに外へ出て行ったからのう」

「うー? あーい♪」

「ぴよー♪」

「ぴよぴー♪」

「ぴよー♪」


 リヒトは旅に出るよりもひよこを可愛がる方がいいようで、ポケットからひよこを出して頬ずりをしていた。急に愛でられてびっくりしていたが、すぐに擦り寄っていた。


「ふむ、男らしくなるといいがのう」

「まあまあ、いいじゃありませんか。男の子でも可愛いものが好きでも」

「むう。やはりガルフのように男ならドラゴンという感じにならんか?」

「お父さんの姿を見て喜んでいたじゃありませんか。だから大丈夫ですよ、強い子になります。ね♪」

「あーい♪」

「うぉふ!」


 トワイトがリヒトの頬をつつくと、両手を広げて喜んでいた。ディランはまあいいかとリヒトの頭を撫でる。


「では行くか。麓から少し離れたところに村が見えたわい。そこを目指してみよう」

「ええ」

「わほぉん」

「あーい!」


 洗濯物を干し終えた一家は東側から山を下り始める。目が良いディランが見たという村へと向かうことにした。

 ダルは覚悟を決めて鳴き、リヒトが鼓舞するように声を上げた。

 しばらく歩いていると、西側にはあまり無い樹木が目立ってくる。日当たりの差で育成される木が違うようだと夫婦は思いながら下山していく。

 帰りが楽になるようにと、下山しながら道をならしているので時間はかかっている。

 

「お主らはこっち側に来たことがあるのかのう」

「わん?」


 特に魔物や動物に会うこと無く、てくてくと歩いていると、ふとディランがアッシュウルフ達の動きが軽快だと気づき、もしかしてと声をかけた。

 ルミナスが見上げて首を傾げていると、ダルがサッと前に出て一声上げる。


「わほぉん」

「こけー」


 ダルが前足を上げてちょいちょいと前を指す。ルミナスの横に居たジェニファーが首を傾げていると、今度はヤクトが歩いている場所から外れていく。


「……うぉふ」

「どこかへ連れて行きたい感じかしら?」

「かもしれん。時間はあるし行ってみよう」


 ヤクトに続いてルミナス、ダルが前に出て夫婦を案内する。少しだけ岩肌が目立つ場所へやってくると、上手く草に隠れた洞穴の前で立ち止まる。


「ここは?」

「あーう?」

「……もしやお主らが住んでいた場所かのう」

「わほぉん……」


 ダルが尻尾を垂れ下げて中へ入っていき、続いてトワイトが追う。ヤクトとルミナスは入り口を警戒するようにして中へは来なかった。


 そして――


「まあ……」

「ふむ」

「わほぉん」


 ――洞穴の奥には白骨が、あった。形からして狼と思われるものが二頭分である。

 

 トワイトが悲しそうな顔になり、ディランはすぐに察した。恐らく、アッシュウルフ達の両親なのだろうと。


「骨に牙で穴を開けられた痕があるのう。他の魔物にやられたというところか」

「可哀想に……ダル、あなた達のご両親?」

「わほぉん」


 トワイトの言葉が通じたかは分からないが、肯定したようにも聞こえた。

 一頭は入り口付近、二頭目は奥に倒れていることを考えると餌を取りに行った際、なにかに襲われて息絶えたのだろう。


「……お主達の子供は立派に生きておるぞ」

「あなた、遺骨は回収してお家の庭に埋めて上げましょう」

「うむ」

「わほぉん……」

「あーう」

「あら、リヒト? ダルを撫でるの?」


 トワイトの提案で遺骨を連れて帰ることにした。そこで寂しく鳴くダルにリヒトが手を伸ばしていた。


「あーい♪」

「わほぉん♪」

「「「ぴよー♪」」」

「こけー♪」

「うふふ、今はいっぱい家族が居るって言っているわね、きっと」

「そうじゃのう」


 強く育たなくても優しいならいいかとディランは考えながらきれいに土を払って遺骨をカバンへ詰めていく。

 ジェニファーが入ることはできなくなったが、疲れたら肩にでも乗せるかと洞穴を出る。


「「ぐるぅうぅ……」」


 するとそこでルミナスとヤクトが唸りを上げているところに遭遇した。

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