第103話 竜、一羽だけ違うことに気付く
「あー♪」
「ぴよー♪」
「おう、家の中に居てええのに」
自宅に戻ってからまたいつもの日常が帰って来た。ディランは芝刈りに行きつつ畑と水田の作業。トワイトは川へ洗濯へ行きながらリヒトのお世話である。
そんなディランが水田で米を収穫していると、トワイトとリヒトがやってきた。
お手伝いをしているひよこ達にリヒトが頬を緩めると、ひよこ達は畑からそちらへ向かって走る。
「リヒトがお父さんを探してたから出て来たの。みんな頑張っている?」
「ぴよぴー!」
「ぴよっ!」
「こけー」
トワイトがしゃがんでひよこ達とジェニファーに微笑みかけると、それぞれこくこくと頷きながら、捕らえたミミズなどを見せていた。
害虫退治が主な仕事なので、アブラムシなども獲っては食べていたりする。
「ソオンは水田の方に居るのね」
「うむ。こやつは他の二羽に比べて水が好きなようじゃ。畑はジェニファーとトコト、レイタに任せておる」
「ぴよー」
「あうー」
得意気に鳴くソオンにリヒトが呼応していた。トワイトの後ろからリヒトと遊んでいたアッシュウルフ達がのそりと姿を現す。
「ぴよ」
「わほぉん……」
早速トコトがダルにミミズを持って行くが、もちろん食べないのでダルはやんわりと前足を振って断っていた。
「あー」
「ん? どうしたの?」
「あい」
「わん?」
そこでリヒトがルミナスの背中を指差してから身振り手振りをする。なにごとかとルミナスが近づくと、背中をポンポンと軽く叩いた。
「背中に乗るの?」
「ルミナス、ええかの?」
「わん!」
快く返事をしたルミナスの背にトワイトがリヒトを乗せた。リヒトは背中にぎゅっと抱き着く形で乗る。
「あー♪」
「わん」
「良かったわね、リヒト♪」
そのままルミナスはゆっくりと歩き、その辺を回る。落ちないようトワイトが後についていく。
「ぴよー」
「お主達も遊んでくるといい。ワシは一人で手入れできるからのう」
「ぴよ? ぴよー♪」
「ぴよっ!」
そんな調子で外遊びとなり、ヤクトとひよこ達が遊びだす。ダルはあくびをしながらディランの近くで寝そべり日向ぼっこを決め込んだ。
「最近、移動が多かったからのんびりじゃのう」
「わほぉん」
「ユリ達がおれば楽しいのじゃろうが、あやつらも金を稼がねばならんからな。ワシも野菜をミルクと交換しに行こうかのう」
ダルにそんな話をしながら稲を刈り取っていき、ディランはお米を収穫していく。
リーフドラゴンのおかげか、通常よりも早く収穫できるのでお米には困らないのである。
聞いているのかいないのか。ダルは尻尾で虫よけをしながらまたあくびをする。
ディランが苦笑しながら一度頭にポンと手を乗せた後、作業に戻った。
「あーう♪」
「わん」
「ぴよー♪」
「こけー」
てくてくと庭を歩くルミナスに乗ったリヒトとトワイト。それにひよこ達とジェニファー、ヤクトがついていく。日差しも良く、穏やかな一日だ。
ディランは遠くから聞こえてくる声に頬を緩めていたその時、それは起きた。
「ぴよー♪」
「あ、トコト、よそ見してはダメよ!」
「ぴよ……!?」
ため池のように加工した水田用の川の近くを歩いていたルミナス。その横を、リヒトを見上げながらちょこちょこと走っていたトコトがその川へ落ちてしまった。
「ぴよ!?」
「ぴー!?」
「こ、こけー!?」
「うぉふ……!」
流れは早くないが遠ざかっていくトコト。
ヤクトが前足を伸ばすも、少し距離が足りなかった。ジェニファーは泳げないので叫ぶばかりである。
焦るペット達。彼等は足がギリギリつくかどうか。だが、トワイトが入れば解決する話である。
「あーう!」
「大丈夫よリヒト。待っててね。あら?」
「ぴよぴー!」
トワイトが流れていく方の川へ入っていく。するとそこでソオンが川へ飛び込んだ。
「あら! ソオン、ダメよ!」
ソオンが飛び込んだことにトワイトが驚いた。一緒に流される。そう思って手を伸ばす。
だが、予想に反してソオンは見事に川の流れに乗ってトコトの前へ泳ぎ溺れるのを防いだ。
「ぴよー……」
「ぴよぴ!」
「凄いわねソオン! はい、もう大丈夫よ♪」
「あーい♪」
トワイトが二羽を手にして川から上がり、タオルの上に寝かせていた。幸い少しは浮くので水を飲むところまではいかなかったようだ。
「うぉふ」
「わん」
「ぴっ」
「ぴよー……」
弱々しく鳴いているが、大丈夫だと羽を上げてトコトはアピールをしていた。
ルミナスが舐めて毛づくろいをしてやり、レイタとソオンは横に座って見守る。
「どうした?」
「わほぉん」
「ああ、こちらに来てくれたのね。トコトが川に落ちてしまって」
「なんと、大丈夫じゃったか?」
そこへディランも駆けつけ事情を聞いた。川に流されたということで驚いていたが、トワイトが身体から水を飛ばすソオンを見て言う。
「ええ。ソオンが泳いで助けにいったの」
「なに? ひよこのこやつがか? そういえば他の二羽と違い水に浮いておったな」
「トコトとレイタより少しだけ身体も大きいし、眷属化した影響かしら? ……あら?」
「わほぉん?」
「どうした?」
「ぴー?」
トワイトがプルプルと身体を振るソオンをそっと持ち上げてから目線に持って行く。首を傾げるひよこをじっと見た後、目を丸くしてディランへ顔を向けた。
「あなた! この子、ニワトリさんのヒナじゃないですよ!」
「なんじゃと?」
「こけー……!」
訝し気なディランと、これまた驚くジェニファー。
そしてよーく見てみると――
「本当じゃ……水かきがあるぞ……ソオン、お主ニワトリではなく、アヒルの子じゃないのか?」
「ぴよっ!?」
「こけー!?」
まだ小さいが確かに水かきがあり、指摘されたソオンと今まで一緒だったジェニファーが大きな声を上げていた。
「もらった時は本当に産まれて間もなくだったから気づきませんでしたね」
「通りでこやつは体が大きくなっているわけじゃわい」
「ぴよぴー……」
「こけー……」
ソオンとジェニファーはポカンと口を開けて呆然としていた。
この状態ではまだわからないが成長したらまったく別の姿になるのだから無理もない。
すると復帰したトコトと、やはり一緒に過ごしてきたレイタが寄って来た。
「ぴよー」
「ぴー」
「ぴよぴ?」
「ぴよ」
「こけ」
「なんじゃろ?」
「助けてくれてありがとう、とか? もしくはアヒルでも関係ないとかじゃないかしら」
トワイトが推測を口にすると、困惑しているソオンにトコトとレイタが体当たりししてもみくちゃになる。
どうやら気にするなと言いたいらしい。
「こけ!」
「ぴよぴー……!」
ジェニファーも仮の母としてずっと一緒だったので問題なし! と背中を優しくつついていた。
「まあ今更じゃな。ソオンはソオンじゃて」
「ぴよー♪」
「あー♪」
うんうんとディランが頷くとトコトとリヒトが賛同していた。
少し変わった一日となったが、トコトが助かって良かったと一家は安心するのであった。
「しかしどこで紛れたんじゃろうな」
「村で紛れてしまったのかしら? 稀に卵や子供にまったく興味がないアヒルさんもいるとバインドドラゴンのマーサさんに聞いたことがありますよ」
「ああ、ニワトリに温めさせたりするらしいのう。リヒトもそんな感じだったのじゃろうか」
「わかりませんけど……もしそうなら、ウチで幸せになってほしいですね」
「あうー♪」
ディランが寂しそうな顔をすると、トワイトも一瞬そんな表情になる、だが、すぐに笑顔でリヒトへ頬ずりをするのだった。




