第102話 竜、それぞれの一夜を過ごす
「あーうー……」
「うぉふ」
「ぴー」
「こけ」
「あら、これはベッドを使えないわね」
部屋に戻ったトワイトがリヒトをベッドへ寝かせていた。
食事を終えたペット達はその後、足を拭いてからリヒトの周りに集まる。
すると、気配を感じたのかリヒトはソオンを掴み、ヤクトの尻尾を握り、さらにジェニファーを足で挟んでがっちり固まっていた。
「モルゲンロート殿にはワシから謝っておくわい。婆さんは一緒に寝てやってくれ」
「あなたはどうするんですか?」
「ワシはソファでも椅子でも構わんわい」
「わかりました」
譲り合う、ということはなくトワイトは微笑みながらあっさり承諾した。ディランが譲らないというのもあるが、気遣ってのことなので変に遠慮するのもディランに悪いと思っているからである。
「屋敷の方はどうかのう」
「遊びすぎて起きれないなんてことがないといいけれど」
ディランは窓の外を見ながらガルフの屋敷へ行ったダル達が気になっていた。
屋敷の方はというと――
◆ ◇ ◆
「ご飯は貰ってきているからすぐに用意するねー」
「わほぉん」
「わん!」
「ぴよー」
「ぴよぴ」
『あ、凄い。ちゃんと並んでる』
「賢いのよみんな」
屋敷に到着した早々、ダルのお腹が鳴ったのでユリが食事の準備を始める。
声をかけると各自、家から持ってきたご飯を入れる器を目の前に用意してお座りをして待つ。
リーナが拍手をするとルミナスが『お構いなく』といった感じで前足を突き出していた。
「ディランさんのところに居るせいかどんどん賢くなっていくな」
「まあ、眷属だからね。パパかママの魔力を貰っていたら賢くなるわ。いつか言葉を使い始めたりして♪」
「えー! それはいいなあ。ダルとお話してみたい!」
「わほぉん? ……わほぉん♪」
「わんわん♪」
トーニャの言葉に、食事を温めて来たユリが戻ってくるなりいい話だと口にする。
しかしそれよりもと、ダルとルミナスは食事を前に尻尾を大きく振り回していた。
「うーん、これはこれで可愛いから喋らなくてもいい気がするわねえ」
「確かにな。魔物とは思えないぜ」
早速、器にご飯を貰うと少し待ってから食べ始める二頭。いつもディランから急に飛びつくなと言われているからである。匂いを嗅いだりして安全かどうか確認しているのだ。
「ぴよー」
「ぴよぴー♪」
『ひよこちゃん達はこっちね!ふふ、凄い勢いで食べてる。ジェニファーみたいなニワトリになっても可愛いと思うけど、このままがいいなあ』
「そういえば出会って結構たったけどこの子達、ホント大きくならないわね。眷属の影響があるのかしら?」
「あたし達の眷属になると、魔物に近い感じになっちゃうからねえ。大きくなるのはかなり遅いかもね? ジェニファーはコカトリス……いや、コケトリスとか」
「じゃあこいつらはピヨトリスか」
「ぴよー?」
「ああ、悪い悪い。呼んでないから食べててくれよ」
呼ばれたような気がしたコトコがガルフを見上げて首を傾げていた。ガルフは笑って謝りながらトコトに食事の続きを促した。
『わたしはまだ会って間もないからみんなこのままがいいなあ。ね、レイタ』
「ぴよぴー♪」
がつがつとトウモロコシをついばむレイタに微笑みかけると、リーナを見上げて嬉しそうに鳴いていた。
「わほぉん……」
「あ、ダルがもうクッションに!」
そんな話をしている中、食事が終わったダルがユリのところへ器を持って行き、その足でソファに飛び乗って丸くなった。
「早いよー」
「お風呂は入らないのかな?」
「わん」
「ルミナスは入る気みたいだな……」
ユリがダルの背中をさすると耳をぴくぴくさせるばかりでまるで動かない。対してルミナスはお風呂と聞いてタオルを咥えてレイカの下へとやってくる。
「まあ、ひよこ達も入らないしルミナスとだけ入ってくればいいんじゃないか? ダルは僕達が構っておくよ」
「はーい! ルミナスは女の子だからきれい好きなのかな?」
『いっぱい洗ってあげるよ』
「わん♪」
「お風呂が大きいからいいわよね♪」
女性陣はお風呂へ行き、ガルフとヒューシ、それとひよこにダルが残された。
「行ったか。さて、俺達も風呂までのんびりするかなあ」
「そうしよう。ほら、お前達ダルのところへ置いてやるからおいで」
「「ぴよっ」」
ヒューシがひよこ達を呼んで手に納めると、ダルの鼻先へと置いた。
薄目を空けたダルだったが、すぐに目を閉じて寝に入ることに決めたようだ。
「ユリが楽しみにしてたんだ、ちょっとくらいは遊んでやってくれよ」
「わほぉん……」
「はは、仕方ないって感じだなあ。ユリは動物好きだからみんな構うし、トコトとかルミナスでもいいだろ」
「まあ、そうだな。でもあいつはこういう犬が好きなんだよな。マイペースな性格のやつ」
「あー、子供の頃を思い出すな。村に迷って入って来た野良犬を構ってたっけな。気づいたら居なくなっててぎゃん泣きしてたよな」
「……」
「ぴよーん」
「ぴよーん」
ガルフとヒューシが話す中、ダルの耳はぴくぴくと動いていた。トコトとレイタに髭をびよんびよんさせられていたが目は開けていない。
しばらくヒューシがヴァールとのことを話していると、女性陣がお風呂から帰って来た。
「トーニャが魔法を使えるのが助かるわ。お湯がぬるくならないもの」
「ふふーん、加減を覚えると誰でもできるわ! ヒューシにも訓練をつけないとね。ロイヤード国へ行っていたからこれからだし」
「戻ったか。ま、ゆっくりでいいさ」
レイカがほっこりした顔でトーニャを褒める。加減や魔法そのものの訓練もしないといけないと口にしていた。
『ルミナスがぴかぴかになったよ!』
「わん♪」
「おー、いいじゃねえか」
リーナがガルフにルミナスを洗ったことを告げるとガルフはにっこり笑う。
そして最後にユリが戻って来た。
「いいお湯だったー!」
「わほぉん……」
するとダルがすっと立ち上がってユリの下へ行き、ぴょんと立ち上がり前足をユリの腰へ伸ばす。
「わあ!? 今、お風呂に入ったばかりだからダメだよダル!?」
「わほぉん!?」
しかし、ユリはお風呂に入っていないダルの前足ではパジャマが汚れてしまうと、サッと回避した。その瞬間、ダルは前のめりに倒れる。
「あー、ごめん! 足じゃなかったらいいからさ。あんたもガルフ達とお風呂行ってきてよ」
「わほぉん……」
『あはは、勘弁してほしいって顔だ!』
「しゃあねえな。行くぞダル」
「それじゃ僕達も行ってくる」
「「ぴよー」」
ガルフに抱えられてお風呂へ連れて行かれるダルに、ひよこ達が鳴いて見送っていた。こんなはずではと耳と尻尾を垂れ下げたダルに哀愁がただよっていた。
そして全員がお風呂に入り、依頼があるからと日付が変わる少し前までブラッシングや撫でたりして遊んでいた。
◆ ◇ ◆
「あーい!」
「おはようリヒト君! ダル達も居るわよ」
「わほぉん」
「うぉふ」
「ぴよぴー」
翌朝。
陽が出る前に、ディラン達が迎えに来た。依頼があるため、早めに来ることを示し合わせていたので全員きちんと起きていた。
「大人しくしておったかのう」
「ええ。元々大人しいですからね二頭とも。ひよこ達に至っては無害もいいところなので」
ヒューシが笑顔でペット達が迷惑をかけることは無かったとディランに返す。
リヒトのポケットに戻ったトコトとレイタが顔を合わせて報告をする。
「ぴよぴー」
「ぴよっ!」
「ぴよー」
「リヒト君の護衛を務めたとか言っているのかな?」
「そうかもしれないわね♪」
そしてもちろんアッシュウルフ達もそんな感じだった。
「わほぉん」
「わん」
「うぉふ!」
三頭は前足を重ね合って小さく頷いていた。そこへユリががばっと三頭の首に腕を回す。
「次はいつ会えるかなあ。またね」
「わほぉん」
アッシュウルフ達は寂しそうに笑うユリの足を前足でポンポンと叩いていた。
「まあ、すぐ会えるじゃろ。暇なときはウチに来ればええしな」
「はい!」
「それじゃ、お仕事頑張ってねトーニャちゃん、みんな!」
「もちろんだぜ! またな!」
そんなこんなで食事会が終わり、モルゲンロートやガルフ達は未知の料理を耳にしたままお開きとなった。
次に行われるのはいつか? それはザミールの手腕にかかっているのであった――
「あああああ、豚汁食べたいんですけど!?」




