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作者: F'sy

 彼は夢を見る。夢の終わり、彼は必ずこう思う──〝嫌な夢を見た……〟と。そして夢の内容は、まるで前日の出来事のように深く脳裡に刻まれている。


 彼の夢は、大まかには決まって似たようなものだ。

 まず目覚める。夢なのに、眠りからの覚醒がその始まりなのだ。なんともおかしな話である。

 それから顔を洗い、朝食を食べ、歯を磨き、着替えを済ませて家を出る。

 最寄り駅までの慣れた道を黙々と歩き、電車に揺られて自分の職場に到着し、同僚たちと挨拶を交わしてから、夜までひたすら仕事に没頭する。もちろん昼休みには昼食を食べ、食休みもとる。

 仕事が終わって家に戻ると、すぐに冷蔵庫から缶ビールを取り出し、勢いよくタブを開けて乾いた喉を潤す。同時に風呂場へ向かい、蛇口をひねって浴槽に湯を流し込んだのち、夕食を食べる。といっても、食べるのは酒の肴程度のものだ。ほどなく風呂場から電子音が聞こえ、風呂に入る。

 風呂から上がり、髪を乾かし、布団を敷いて、その上で横になりながら観たくもないテレビを観て──もう一缶酒を飲みながらという時もたまにある──、眠くなったら寝る……。


 ──『彼の夢』とは、現実である。すなわち、彼は現実を夢と捉えている。

 それが自身にとって最大の現実逃避だと彼は考え、醜く歪んだ世の中からどうにか眼を背けたいがため、そして、その中で生きてゆくことになんらの価値も見出せない自らの弱さをひた隠すため、そうするのである。現実には起こり得ないことが次々と起こる本当の夢の世界に、むしろ彼はその身を置きたいと切望している。


 それはしかし極めて非現実的であるということを、彼はよく知っている。

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