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悪い盗賊たちがいっぱい暮らす秘密基地!

 ここは悪い盗賊たちがいっぱい暮らす秘密基地!

 山の中にぽつんとあって、見た目は人を油断させるため、ほんとにフツーの山小屋なんだ!

 さあ、悪い奴らは今日もなかで元気いっぱい、悪だくみをしているよ!


「お前ら準備はいいか。目的は、馬鹿なお前らでも覚えてるな? 二人組の旅人が、そろそろ此処を通る。殺す。奪う。それだけだ」

「お頭、本当にこの雷雨のなか外に出るのか? 鬼も裸足で逃げ出すぜ?」

「馬鹿、それがチャンスなんだ。人目もない、痕跡も残らない。完璧な日だぜ。旅人も、こんな日なら盗賊も出ないと踏んだんだろうが、はは、だからこそ油断してるに違いない」

「勇者ってやっぱ強いんスかねえ? 旅して、人を救って回ってるんでしょ? どう考えても強いでしょ」

「いや、町で見た限りじゃ、装備は普通だったな。どうやって此処まで生き延びてきたのかは気になるが……俺らには失う物なんてねぇんだ。やるしかねえだろ」

「勇者なんだ、きっとスゲー宝とか持ってるはずだぜ。楽しみだよなあ……」


 悪の密談。密やかに広がる下卑た笑い声――


「さあ野郎ども、武器を取れ!! パーティーの時間だぁ!!」


 欲望ざらつく野太い雄叫び。弾けるように飛び出して、さあいの一番に外で飛び出す栄光を得るのは誰か。

 いくつもの手が伸ばされるなか。そのどれもが触れる間もなくドアが開く。――盗賊どもは、さてどうするか。

 答えは、統率の取れた見事な動き。空間はしんと静まり返り、皆その手に武器を構えて臨戦態勢を取る。


「よく鍛えられた野良犬どもだ――」


 女にしては甘さのないドスの利いた声。地の底から響くようなそれは、落ちた稲妻にも負けないほど冷え冷えと小屋に響き渡る。

 鬼ですら逃げ出す雷雨を背に、完全武装の魔女グラニアは口角を釣り上げ、獲物を構えた。


「急にどうした? パーティーの時間だぜ。吼えて盛り上げてみせろよ、最期までなぁ!!!」


 ここからはずっと私のターンだ!

 魔女グラニアとして、私は散々に暴れた。積もった苛々を吐き散らすように、激しい嵐のように暴れまわった。

 敵はよく吹っ飛んだし弱かった。連携して攻めてくるのは、唯一の良い点だった。私は何度か、不意打ちされてあげようかと思った。めんどくさかったからやめた。

 一番若い奴の足を掴んでぽいっと投げた瞬間、ボス猿っぽい奴がそれを庇った。庇って、立たせて、「自分たちを置いて逃げろ」と言った。はっきりと、そんなことを言った。

――ムカつく


「俺そんなの嫌っす! 皆を置いていけないです!」

「いいから行けっ! 足手まといなんだよ!」


――ムカつく!!


「やめろよ、そういうの!!!」


 二人まとめて魔力で壁に叩きつけた。

 すっごく悪いと聞いていた。ここの野盗ときたら、盗む奪うは序の口で、人間を虫けらみたいに殺すし、それがまた残忍なやり方で、拷問された者でまっとうに帰ってきたものはいないし、おまけにあいつら、狡猾で手に負えないんだって。そう聞いていた。

 おまけにルゥを狙うなんて最低だ。こそこそ彼を見張っていたのを、同じく彼を見張っていたこの私が気付かないはずない。奴らの会話を盗み聞いてみればもっと最低だった。だから良かった。悪の親玉みたいな奴だと思ってた。

 なのにこれだ! ぬるい茶番劇! まるで私を悪者にして、正義みたいに立ち回る!

 そんなものは、求めていない。


「……分からないよねえ」


 仲間の危機に、他の奴らが奮い立って私に襲いかかってくる。

 怪我人を見捨てて逃げるとか、私に媚びるとかせず、まっすぐに。


「分からないよねえ!! お前らみたいなゴミ畜生の人間にはさあっ!!」



 我に帰ると、野盗の住処は粉々に吹き飛んでいた。

 ギリギリ理性があったのか人間は殺していなかった。寝ているのか気絶しているのか、丸太みたいにごろんとその辺に転がってる。

 周辺の草木は枯れているというより、しぼんで紙のように薄っぺらくなっていた。やがて風が吹くと、どれも呆気なく灰のように粉になって攫われていってしまった

 野盗の住処の周りだけ、砂絵みたいな世界になっていた。まるでそこだけ、丸い額縁で切り取ったみたいだった。

 私はしばらくぼんやりしていた――たぶん、ぼんやりしていたんだと思う。いつ雨がやんだのか、とか、そんなことを考えていたことだけは覚えているけど、あまり、そこらへんの記憶がない。


 だから、普段なら有り得ないのに、私は彼に気付けなくて、逃げ遅れてしまった。


「……グラニア?」


 この綺麗な声を私が聞き間違えるはずがない。困惑したような、焦ったような、不思議そうな声だった。

 ルゥ。私のルゥ。私の光。その綺麗な足で、こんな所に踏み入ってはいけない――。


「これは……いや、そもそもなんで此処に君が、」

「ち、違うの、ルゥ。違うのよ、私……わたし、違うの。こんなんじゃなくて、悪くないの。わたしは悪くないの。だからわたし、……わたし…………」


 声が震える。説明しようとするけれど、言葉が喉につまって出てこない。


「グラニア。落ち着いて。僕は怒ってないから。色々と聞きたいことはあるけど――」

「おい待て、ルゥ。あいつ、様子がおかしいぞ」

「うわあああああ!!!」 


 耐えられなかった。

 私は逃げた。みっともなく叫びながら、私はルゥから逃げ出した。彼の顔が見れなかった、声も聞いていられなかった。

 逃げて、走って、でも、どこに行けばいいのかは分からない。光がなければ、何も見えない。闇だ。真っ暗だ。私そのものだ。

 どうしたって私にはルゥしかいなかった。だからルゥがいなければ、私には何も残されていないも同じ――。


「ルゥのためなら、なんでもできるのに……私は、だから、彼を守る……」

「クレトがいるのに?」


 深淵のなか、私はへたり込んで顔を覆った。


「私は……わたしは彼のため……かれを、かれをまもるために……」

「自分の為だろう?」

「よわいままの、かわいいままの、ルゥでいてほしくて…………わたしは……」

「弱く、可愛い――魔女を退治できないままの、ルゥでいてほしかったんだろう?」

「違う違うちがうっ!!! 私はそんな人間じゃない!! 私はただっ、私は、私は――っ!!」

「人間じゃなくて、化け物だろう?」

「問うな!!!」


 私は闇を薙ぎ払った。


「この私に問うな! 問いかけるなっ!! 貴様ごときが!! この私にっ!!!」


 ルゥは正義の味方。皆が認めている。彼はそれに相応しい美しい心を持っている。ルゥは勇者。運命の子。悪者を倒すために旅する人。だから悪い魔女は側にいられない。討伐されてしまう。

 ルゥ。私の光。私の永遠。私の美しい人。

 ルゥが離れていく。当然だ。私は悪い魔女。人間をどうとも思えない、決して人間にはなり得ない、悪い魔女――。




「なんでグラニアがこんなところに……クレト。何か知ってる?」

「いや、俺は知らない。知らんね、知らん……」


 ルゥはじーっとクレトを見たが、クレトはそれに答えなかった。

 ルゥはため息をついた。


「まあ、グラニアなら心配ないだろうけど……」

「なんで?」

「強いからね。誰よりも、何よりも。心配なところもたまにあるけど……」

「『とっても優しい、真面目で内気な幼馴染』だもんな」

「うん」


 クレトの皮肉にも気付かず、ルゥは頷く。彼の目はずっと遠く、グラニアの去っていった方向を眺めている。


「じゃあここの盗賊は、そのグラニアが退治してくれたんだな。後は報告するだけ――」

「クレト」

「ん?」

「僕、グラニアを追おうと思う」

「は? なんで急に!」

「グラニアは慌て過ぎると、混乱しちゃうところがあるんだ。僕、様子を見に行かないと」

「……分かった、分かったよ。じゃあ俺は、町に事情を話しに戻って、ここに人を連れてくる。それで問題が解決した後でお前を追う。これでいいか?」

「うん、ありがとうクレト。……君は本当に、頼りになる仲間だよ」


 ルゥとクレトは、軽く拳をぶつけ合った。二人がこのような挨拶をしたのは初めてだった。


「行き先は分かってるのか?」

「うん。『運命の方位磁針』があるし……それに、そうじゃなくても、なんとなく分かる気がするんだ」

「分かった。気を付けろよ」

「クレトもね」


 ルゥとクレト、二人だけの勇者チームが、はじめて明確に別行動を取った瞬間だった。

 しかしどちらも足取りは軽い。振り返ることなく、互いの目的へと進んでいく。


「グラニア! グラニア!」


 ルゥは夜の彗星のように駆けていくグラニアを追った。

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