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7 冒険者登録

「ねぇ、イルミちゃ〜ん、こ・ん・ば・ん・ど・う?」


「はい、ごめんなさい。」


「うわっ、即答?なにそれなにそれ、俺っちいい店知ってんよ〜だ・か・ら〜「お断りします。」…。」


物を言わせぬ笑顔。


まず最初に受付嬢が仕込まれるそれに男は()()()()()()()言葉を失う。


しかし、何事にも耐性というやつは生まれるらしく、なんとか口を開こうとしたところで、不意に男は耳を引っ張られ悲鳴を上げた。


「痛っ!?痛いって、ミリアちゃんっ!?」


額に青筋を浮かべた少し小柄な女の子がニッコリと笑いながら、人差し指と親指に力を込めて引きずっていく。


「リーダー行きますよ〜。」


「じゃ、じゃあまたね、イルミちゃんっ!?っ〜!」


そして、更に付いていくパーティーの残りの二人には、親の仇でも見るような視線を送られる。


こんなことはよくある所謂、受付嬢あるあるなのだが、やはりこの時が本当に辛い。


イルミも女性であるため、その気持ちは痛いほどよくわかるのだ。


意中の相手が他の女に言い寄っているのを見て面白いはずはあるまい。


それもあの名前すら記憶から抹消した男は毎日だ。


私なら他のマトモな相手に鞍替えしていることだろう。


それほどにあのパーティーのメンバーたちはあの男のことが愛おしいのだ。


ホントーにわからないことだが、もうそれはいい。


ストレッサーは去ったのだ。


時間は午前の忙しい時間はとうに過ぎ、ようやくの暇な時間だ。


併設された酒場のほうにはちらほら客はいるが、それくらいで、依頼を引き受ける冒険者はもういない。


午前中、この後は依頼を申し込みに何人か来る程度だろう。


「それじゃあ、イルミ。私、先に休憩入るから。」


「はい、お疲れ様です。マリア先輩。」


そうして何人かがマリアに連れ立って、おそらく近くにできたカフェにでも行ったのだろう。


残ったのは、イルミを含めて数人の受付嬢。


頬に手をつき、天井を見上げる。



ホントどっかに可愛い子いないかな〜?


男が原因の傷は男では癒せない!


暇な受付で受付嬢は普段こんなことを考えている(人もいる)。



要するにイルミちゃんは癒しを求めている!


私は美少女が大好きだ!!


かわい子ちゃん、カモンッ!!!



…なんてね♪そんな都合よく…



「ここがギルド…?」


可愛いらしい声が聞こえてきた。



イルミは思わず立ち上がる。


これは当たりだ!絶対に当たりだ!!


他の受付嬢は後ろでなにやら資料を見ている。


ようやく運が向いていた。


瞬時に座るなり身だしなみを整えると姿勢を正す。


両開きの戸が揺れた瞬間、イルミは視界に入ってきたものを見て、テーブルの下でガッツポーズをした。


「冒険者…ですか?」


「はい、カオルさんにはそれが向いているんじゃないかと。」


朝食のときに、リゼットになにかいい仕事はないか聞くとそんな言葉をもらったので、そのままそれに従い、リゼットにそこに案内してもらうこととなった。


「ここがギルド…?」


「はい、ここは冒険者ギルドミミング支部。私も特別な薬草の採取なんかの依頼をすることもあるんです。さあ、早速。」


どこか嬉しそうなリゼットに連れられ、中に入るとそこは存外に静かで併設された酒場のほうで年配のおじさんたちが昼間から酒盛りをしているくらいで、リゼットから聞いていた荒くれ者たちの姿は見られなかった。


「あら?ちょうど人がいない時間でしたね。ほら、あそこで登録するんです。」


カオルにそう道を示すと、リゼットは別のカウンターへと行ってしまった。


どうやらリゼットもなにかの用があったらしい。


示されたカウンターへとたどり着くと、そこにいたのは可愛いらしい女性だった。


髪は銀色で肩口あたりで整えられている。


目鼻立ちも整っていて、おだやかで優しい微笑みを浮かべている。


背はそれほどでもないのだが、身体つきは出るところは出て引っ込むところは引っ込んでと男好きするそれなので、お嫁さんにしたいタイプかもしれない。


「すいません、冒険者の登録をしたいのですが…。」


「はい、少しお待ちください。私はイルミと申します。どうぞよろしくお願いします。」


「はい、カオルといいます。こちらこそよろしく。」


お互いに微笑みを交わすと、イルミは作業に取り掛かった。


手慣れた様子でおだやかな微笑みを絶やさずにそれを行う様子にカオルは少し感心する。


若いのに凄いな。


内心称賛の言葉を送っていると、目の前に数枚の用紙が出された。


「こちらをどうぞわからないことがありましたら、お申しつけください。」


「はい、ありがとうございます。」


備え付けられたペンを手に取り、用紙に視線を移すとやはり読めないはずの文字の羅列がなぜか読める。


昨日の夜、リルに絵本を読んでいる時に気がついたのだが、やはりなぜか読めてしまうのだ。


なんだかおかしい。


クスッ♪


すると、カオルが無邪気に微笑んだ瞬間…ゾクッ!!


なにやら寒気を感じたのでその方向に視線を移すも、可愛いらしい受付嬢が変わらずに微笑んでいるだけだった。


「?」


疑問符を浮かべるカオル。


「なにかわからないところでもありましたか?」


「…いえ、なんでもないです?」


目の前の用紙に必要事項を書き記していくカオル。


それを優しく微笑みつつ、どこか視線だけは恍惚としたそれを浮かべるイルミに、寒気から何度かカオルも顔を上げるも、カオルがそれに気がつくことはなかった。



「それで最後ですね。お疲れ様です。ですが少しお待ち下さいね。」


最後の契約書にサインしようとした筆を止めた時、受付嬢の顔が薫の目の前まで迫ってきた。


人差し指を立てると薫に迫力のある笑顔を向ける。


「カオルさん、一応注意しておきますが、契約内容に引っかかるようなことはしないようにお願いしますね。」


もちろん薫としてもそんなことをするつもりは毛頭なかったのだが、受付嬢の予想外に強い念押しに首を傾げた。


「?なんでそんなに念押しするのですか?」


「…やっぱりご存知ではありませんでしたか?実はそれ誓約【オース】の魔術が掛けられていまして、それに反するとそれに応じた罰が天よりもたらされるのです。」


「天からの罰…ごくり。」


すると、脅しが効いたのに満足したのか、薫の鼻を人差し指で押すと、受付嬢の顔は離れ、いたずらっぽい微笑みで薫がサインをするのを見届けると、今度は依頼のボードのところへと案内しようとした。


その時、カオルは後ろからなにやら不機嫌ような雰囲気を感じた。


その雰囲気は薫の前を通り過ぎ、受付嬢へと放たれる。


黒いオーラを発しながら、リゼットはニッコリと用紙を突き出す。


「冒険者カオルさんに指名依頼をお願いします♪」


カオルは少しビビっていたのだが、それに対し、受付嬢は引くことなく笑顔のまま受け取り後ろへと下がっていくと、リゼットはカオルの胸を軽く叩く。


「カオルさんのバカ。」


そんな小声が聞こえたと思うと、黒いオーラは霧散していったように見えたのだが、別の方から同じような気配を感じたので振り向くとイルミが微笑んで手を振っていた。




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