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4 薫は早速バラす

薫が俊足を飛ばし、断続的に聞こえる悲鳴の元にたどり着くとその時は正にクライマックスだった。


棍棒が女の子へと振り下ろされるその時。


無我夢中だった。


すると、助けたいと思いが伝わったのか、無意識で向けたステッキの先から【結界】の魔術が放たれた。


【結界】と棍棒がぶつかり、それが弾き飛ばされると小柄な人影…いや、ゴブリンが距離を取り始めた。


瞬間、薫には頭を横殴りされたような衝撃が襲いかかったのだが、今はそんな場合ではないと声を上げる。


「大丈夫か!」


まったくもって、大人の凝り固まった頭を無理やりにでも解そうとしてくるものだ。


駆け寄り、ゴブリンと女の子たちの間に入ると、さっきと同じ要領でステッキの先に拳大ほどの【火球】を作り出した。


「引け!今なら見逃してやる!」


武器を突きつけての脅迫。


現実世界では絶対にやるはずのない行い。


生命が掛かっているからこその行い。


それを誰が咎めることができよう。


「グギャグギャ!」「ギャ!」「ギャギャ!」


必死のそれにゴブリンたちは飛ばされた棍棒を拾うことなく逃げ去っていった。


足音が遠ざかっていった。


脅威は去ったのだ。


【火球】を消すと、大きく溜息を吐く。


「ふう…。」


安心すると、頭を解す内容が再び襲って来て頭を抱えていると、姉と思しき方の女の子が声を掛けてきた。


「あ、あの…。」


「はい?」


「助けてくれてありがとうございます!」


手をぎゅっと握りしめての必死のそれに思わず目を見開くと、不意にお腹のあたりに軽い衝撃があった。


「お姉ちゃん、ありがとう!」


ひしと抱き着いた妹の方。


少しの照れくささから、女の子の薄い肌は赤みを帯びつつ優しく微笑む。


「こっちこそ無事でよかった。」



話を聞くと、二人はやはり姉妹であり、薬草の採取のために来たのだが、少し森の奥にまで進み過ぎてしまったらしい。


お礼がしたいというので、大人しくついていくことにすると、街があるという方向は薫が最初に向かおうとした方向とは真逆に位置していた。


もし悲鳴が聞こえずそちらに向かっていたならば、森をより深くより深くへと進んでいたらしい。


ある意味ではこの女の子たちリゼットとリルのほうが恩人であるのだが、そこは汚い大人。


街に連れて行ってもらわないといけないので、黙っている。


リルの方に特に懐かれてしまったせいか、片手はリルの小さな手に塞がれていた。


罪悪感で胸が痛い。


「ねぇ、カオルお姉ちゃんは一体どこから来たの?」


「えっと…。」


さてどう答えたものか…。


ほんの僅かな時間考えただけなのだが、困った雰囲気を覚ったのだろうリゼットはリルを咎めた。


「リル!カオルさんが困っているでしょ!あまり…」


すると、リルはそうなの?とキョトンとした様子で見上げてきたので、優しく否定した。


「いや、大丈夫。ちょっとリルには難しいかなと思ってね。考えていただけだから、ありがとう、リゼット。」


「えっと…カオルさんがそういうなら…その…私も知りたいな…なんて…。」


おっと…まさかリゼットにまで興味を持たれてしまうとは…。


となると、遠くからなんて言葉では納得してはもらえないだろう。


かくなる上は…。


「…それじゃあ秘密かな?」


「え〜〜っ!」「そんな!」


「いい男には秘密があるものだよ♪」


「はい?男?」


「うん?どう見たって…。」


…あっ…すっかり忘れてた。


それからリゼットに詰め寄られたので、魔術の失敗でこんなことになってしまったのだとこの世界ならではの言い訳を使うことにした。


結果として騙すことになってしまったので怒られるのでは、軽蔑されるのではと思ったのだが、リゼットの反応はどこか納得したように、そして気遣うようなそれだった。


「それは大変だったでしょう。」


「ごめん、騙すつもりはなかったんだけど…。」


「それはわかっています。さっきの反応はとても驚いた様子でしたから。」


「ごめん。」


すると置いてけぼりを食らった先程まで頭を悩ませていたリルが我慢の限界が来たのか、お腹のあたりにぎゅっと抱きついて来た。


優しく頭を撫でる。


そんな様子を見て、やはり悪意がないと確信したのか、少し踏み込んだことを聞いてきた。


「では、ここに来たのはその…男の人に戻るためなのですか?」


「えっと…まあ…そんな感じ…かな?」


歯切れが悪い反応。


そこには秘密がまだあることを悟らせるには十分なものだったが、リゼットは敢えてそこに言及はしなかった。


薫を困らせたりしたいわけではないのだ。


それに今日はお礼として泊まってもらうつもりだった。


薫はきっと反対するだろうけど、少しズルいことをするつもりだ。


内心悪い笑顔を浮かべると、街に向かって歩き始めた。


「さあ、日が暮れてますから、急ぎましょ。」


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