2. 不幸せな過去
「僕を、神様に選んだ理由は?」
「頼まれたんだ。それだけ」
「・・・どういう意味ですか?」
「那谷絵 桜綺」
僕は彼女の名前を聞いて、記憶がフラッシュバックした。
「君が生まれた家庭は・・・貧乏だ。
おまけに君は、両親から虐待も受けていた。
熱湯を浴びせられたり、酒瓶で殴られたり、首を締められたりした。
小学校も通ってない。
結局、両親は捕まって、牢屋に閉じ込められたままだけど。
でも、中学校では両親は犯罪者の肩書きを、背負って通っていた。
生徒からのイジメ。先生、他の生徒の保護者からの冷たい目に耐えていた。
でも、君の初めての友達、彼女が出来た。
その彼女の名前が那谷絵 桜綺。
君、彼女とイチャイチャしてたね。
少しだけ頭が悪かったけど、性格も良いし、可愛いし。
クリスマスにプレゼン交換したりしてさ。
青春らしい生活を送ってたよね〜。
高校も彼女と同じ学校に通って。
日常は辛い事ばかりじゃないと、君は知った。
・・・だけど、事件が起きた。」
僕は思い出したくない過去を聞いていた。
ただただ、少女の会話を聞くのに精一杯だった。
「・・・両親が彼女の両目を針で刺した。
彼女は、初めて暴行を受けたと言ってたね。暴行というか、殺人未遂だけど。
両親の行方は消えて、彼女の命は助かったものの、目が見えなくなった。
君は、彼女の生活を手伝った。
彼女はゲームやスマホ、君の姿も見ることが出来ない。
障害物を避けるのも一苦労。
そして、彼女は学校からイジメにあった。
彼女は引きこもりになった。
君は、彼女を慰めることもあった。
君は、弱い彼女も知った。
君は、出来ることを精一杯やった。
そして、彼女が失明してから三ヶ月後。
彼女は・・・遺言書を残して消えた。
いや〜、かわぁいそ〜。
そして、23年後に君は死んじゃった。
そうだよね〜、畦田 世刄君」
「お前・・・何が言いたいんだよ!」
何度か、人を殺したいと思ったことがあった。
桜綺の両親。
桜綺をイジメたやつらを。
「怒るな。
私は、彼女の両親を、東日本大震災の津波で殺した。
ありがたいと思え。
それと、彼女からのプレゼントもあるんだから」
「・・・え?」
「あ〜、いい忘れてた。
彼女は死んで、私に頼んだんだ。
地獄に行くかわり、世刄の夢を実現させてくださいって。
私は、君の過去を見て、彼女の頼みを聞き入れたよ。
そして、彼女は地獄にいる。
苦しんでいるよ。
地獄の火柱に縛られて」
「…っな」
僕はひざまずいた。
目から頬に涙が撫でる。
「え?嘘でしょ?
あいつ、地獄に行ったのか?
何で?
何で・・・・・・地獄に行くんだよ。
天国で幸せに暮らせよ。
僕・・・お前を助けられなかったじゃないか。
なんで、なんでだよ―――!!!!」
「黙れ」
少女は僕の胸ぐらを掴んだ。
「反省はするな。悔やむな。
彼女がより苦しむ。
お前への・・・プレゼントなんだ」
少女・・・神様は真っ直ぐな目で僕を見た。
「もちろん・・・受け取る。でも・・・」
せめて、彼女だけは幸せになって欲しい。
すると、神様が言った。
「・・・これからゲームをする」