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第六章 少女の王国 35

 チャプター35 パニックのとき冷静な男ってマジで格好いいよね。


「木下先生いる!?」

 叫ぶと同時に部屋の奥のベッドから白衣を着た木下教諭が出てきた。誰かの看病でもしていたのだろうか。チラと見えたカーテンの隙間からベッドが見えたがそこはからっぽだった。

「先生、先生……」

 開けた扉に縋りつき、息せき切らしている親友を見やりここは自分が――、と口を開きかけた。が、何からどう言おうか迷う。考えた末、見たままを喋るしかないと思い、閉じかけた口を一度開いた。

「どうしたの」

 ぶっきらぼうな声に促されて勇気が出た。

「うちのクラスの陸が血だらけで」

「は? 陸?」

 声に視線をやれば好きな人がいた。レン、そして愛もいる。ベッドを覆うカーテンからのっそりと出てきた。そういえばよく三人でここでサボっているというのを聞いたことがあった。レンと一緒だということはあまり心配はいらないか。向日葵は目の前の図体に向き直った。

「夏希っていう、うちのクラスの友達の家に行ったらなんでか同じクラスの陸が血だらけで倒れてて。たぶんってか、絶対、刺されたんだと思う。何箇所か。お腹と背中が血塗れで」

「息はしている? 警察は呼んだ?」

 そうだ。まだ警察も呼んでいない。向日葵は慌てて言う。

「よ、呼んでない。そ、そう。夏希の家の電話使おうとしたんだけどね? なんかコード千切れてて。たぶん猫が噛み切っちゃったんだって夏希が。あ。あ。あ。そう。夏希の家のお母さんがいなくって。それで。それも。夏希がどうしたんだろうって言ってて。夏希今泣きっ通しで。パニックになってて。うちら居ても立っても居られなかったから……」

「どこ? ここから近い?」

 喋りながら混乱する向日葵に木下が訊く。向日葵は頷いた。

「こっから歩いて十五分くらい。走って……」

 時計を見た。

「七、八分」

「じゃあ僕が車で行くから。飛ばせばもっと早いでしょ。あ。君は一緒に来て。家分かんないから。それとそこの髪長い君。そう君。君は職員室行って冴木先生に事情話して警察に電話して貰って。救急も忘れずにね。冴木先生なら夏希さんの家もわかるから警察にも説明出来るでしょ。君らはその子に付いてて。それじゃ行くよ」

 寧々と視線を交わそうとしたが、寧々はその場に蹲りそうになっていた。それを良夫が支えるところだった。良い男だと思った。

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