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第六章 少女の王国 27

 チャプター27 弓矢佐奈


 疎外感を覚えていた。

 ――つまんない。

 仲の良い友ちゃんはちびのレンと話してばっかり。

 仲の良い恵ちゃんはいろはに夢中。かと思えば今度は夏希。

 両方とも止せばいいのに。絶賛炎上中の方にばっかり向かっていって佐奈としてはどっちの近くにいるのも火の粉が飛んできそうで本当に怖い。

 ――この前も。

 出来うる限り見ているのを悟られないように、牛頭・馬頭&夏希を視界の端ぎりぎりに収める。友とレンの会話に参加している雰囲気だけ出すように表情は笑顔で固定。

 帰りの会。学級会議、とでも呼ぶのだろうか。中途で抜けた女子は後で友に聞いたところによると佐奈だけで、後は全員男子だったという。彼女たちは気にもしていないだろうが、あーいう子たちの気まぐれは本当に怖い。「そういえば」で抜けたことを指摘され咎められでもしたら堪らない。

 佐奈はびびりなのだ。帰りの会を抜けるのも嫌だったが、塾に遅刻するのも嫌だった。

 どっちに行こうか迷った挙げ句、恵の方へ行くことにした。

 友とレンは昨日からマルバツゲームをずっとやっている。昨日見たアニメの話をしながら。一緒にいること事態がどこかわざとらしく思えた。友の恋は応援したい気持ちもあったが、その行動力とやり口には呆れざるを得なかった。牛頭馬頭に相談し、自身がレンと同じ立場になっていると嘘ついてまで、一緒にいることに何の意義があるのだろう。恋は人を臆病にさせると聞いたことがあるが、逆じゃないのか。だいたい友ちゃんはいっつもそう。いっつもギリギリを地で行っている。綱渡りを平気な顔して行う。それで佐奈がどれほど心配になっているか。この前だってそうだ。レンが教室で掃き掃除やっている横の廊下で、窓一枚隔てて肇真那と一緒になって夏希の悪口。あれでよくてすらまを悪者に仕立てあげたものである。ネームシール自ら半分剥がしたり、上履き上下逆さまにしたりしているのを見ていると、呆れ返って溜息が出た。たぶん、もの凄く本人なりに真剣に考えたんだろう。実際、効果があったのだから見上げたものだが、影響に無頓着なのは頂けない。てすらまの視線に耐えられない佐奈である。

「恵ちゃん。……一人でそれやってて楽しい?」

「ん」

 恵は一人本を読んでいた。机に大判広げて。ごちゃごちゃした絵。ひと目で分かる。

「ウォーリー。いた?」

「ミッケだよ」

「どっちでもいいよもう」

 ここもここで微妙だ。牛頭、馬頭、それと夏希の三人と机一つ隔てている。恵の席はここだからいいが、しかし、なんだってこんなところで一人でミッケ。

「どこまでやったの?」

 向かいの机に――牛頭馬頭夏希とは恵で隔てる。もちろんだ――座った。

「トランプとアヒルみっつずつ」

「ふうん。これとこれやった?」

「やった。これも終わり」

「じゃああとは……」

「ねこ」

「猫?」

 猫なんてお題にない。どこにも「ミッケてー」なんて書かれていない。

「猫なんてないよ」

「しっ」

「?」

 恵が人差し指を顔の前で立てていた。何やらよく分からず黙る。

「写真ないの?」「ないです」「こんな顔してます」「ぷっ」「ぶっさ! なにその顔! そんな猫いるわけないじゃん」「ほんと! ほんとほんと! こんなのなの!」「ふっくくくく。やめて。夏希それやめて……」「あ。夏希ちゃんやっと笑った」「へえ?」

「ふっ!」

 声が漏れてしまって咄嗟に横を向いた。夏希が両手を使って顔中の皺を寄せ集め渋面を作っていたのだ。

 向き直す。幸い気づかれなかったようだ。が、じっ、とそんな佐奈を恵が見ていた。

「どんな顔してた?」

「ええ?」

 あれをやれと言うことだろうか? 要求しているのか? 気になるんなら声掛けてもう一回やってとでも頼めばいいのに。何かないかな、と視線を落とすとカエルがいた。

「こんな感じ。もっと真ん中に寄った……あっ! ミッケだこれ。次のページ早く行こうよ」


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