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第六章 少女の王国 11

 チャプター11 牛頭寧々&馬頭向日葵


 クラスの恋愛事情を制する者がトップに君臨することが出来る。

 この場合の制するとはクラスの誰それが誰それを好きで、誰それは誰それと今こうなっていて、今このへんまで実は進んでいて、あともう少しでこうなる予定だけれども、影であの子が二人が別れるのを狙っている。とかそういうアレだ。つまるところクラス全員の恋愛事情であり、言い換えれば単なるゴシップだ。

 が、これがなかなか馬鹿に出来ない。単純に聞いていて面白いのも勿論あるが、情報を握れば握る程、クラス恋愛事情に精通すれば精通する程、

「そんなことまで知っているの?」「今そんなことになっているの?」「意外」「私も知りたい」「私も私も」「だったら取引ね」「え」「そっちの知ってる事情。或いは自分自身のこと。洗いざらい全部ここでぶちまけたら話してもいーよ」「え。ええっとお」「じゃあこの話は無しね」「ねー!」「う。うーん。分かったよ話すよ。その代わり」「理解ってるわ。云わずともね。○○君の好きな人でしょ? どうせ」「う、うん。ね。お願い」「くふふ」「え、ええっとね?」

 と、なる。

 相手の秘密を握れる。イニシアチブを取れる。全てが自分たちの都合の良い方向へ、とはいかない。握った秘密は厳守が基本で、一歩取り扱いを間違えれば自分たちの立場を危うくしかねない秘密、爆弾だ。取り扱いには注意が必要。けれど、抱えているだけで面白い。優位に立てる。そんな二人だからこそ分かっている。誰よりも理解している。

「向日葵は好きな人いる?」

「んー内緒。寧々は?」

「私も内緒。あなたと一緒」

「ふふん」

 軽々しく自分の好きな人を口にしてはならないと。

 好きな人がいると匂わせるだけで命取りだ。優位性は一瞬の内に崩れ去り、相手との醜い駆け引きが始まり、今までみたいに、高台の上から下界を見下ろし、時々ちょっかいを掛ける、なーんて楽しい遊びも出来なくなるからだ。けれど。だけど。

 そんな二人だって女の子。

 クラスヒエラルキーの頂点に立っていようが、如何に他人の恋路に精通していようが一人の女の子。

 恋に堕ちるのなんて一瞬だ。

 ――好きな人できたのね。

 ――好きな人できたんだ。

 ついこの間までは『内緒』じゃなかった。『いない』だった。それが今『内緒』になっている。ってことは。そういうこと。

 二人に共通する思考。それは、これ、匂わせている、だ。命取りとなる行為をしている。してきている。つまりは、そういうことなんだろう。駆け引きなんだ。これは。

 導き出される結論。それは。

 ――同じ人を好きになったのね。

 ――同じ人を好きになったんだ。

 クラスの女子、第一グループ、頂点に立つ二人。

 牛頭寧々と馬頭向日葵は同じ人を好きになった。名前は福田良夫。心の中で名前を呟くだけで満たされていく、そんな素敵お名前。二人は想う。押しが強く、気が強い私たちあたしたちわたしたち。ああも熱烈なアプローチを受けたことなんてないわ。男なんてみんな一緒だって思ってたの。馬鹿か間抜けかクソかクズかグズかやっぱり馬鹿か。そんな二人の元にやって来た王子様みたいなお人がいる。そう、名前は福田良夫。なんて素敵なお名前。心の中で以下略。

 二人は心の中で誓う。

 ――絶対わたしのモノにしてやる。

 ――絶対あたしのモノにしてやる。

 その為にまずは……。

 ざわざわとごった返す教室を二人は見渡した。その一群。最近形成されたばかりの一際目立つグループの中にいる少女に目が留まる。

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