第六章 少女の王国 10
チャプター10 結成!
小一時間目を離した隙に、懸念していたことを全部先手でやられているだなんて思いもしなかった。が、打たれてしまったのなら仕方がない。休みだって聞いていた夏希がいきなり登校してくるだなんて予想しろって方が無理がある。いろはが夏希にいくことや菊や椿にいくことは半ば予想出来てはいたが、そうは言ってもだ。電光石火にも程度ってもんがある。
当たり前だが、そう自分に都合よくはいかない。それぞれがそれぞれの意思を持って動いている。これが大人だったら――社会にいる大人だったなら、それぞれが決められた範囲で、定められた立場で、ルールに従って動いている為、ある程度動きも予想が付く。が、相手は子供。ガワは小学校。ルールなんてあってないようなものだ。
一旦落ち着こう。そして、俯瞰して現在の状況を見てみよう。そうすれば、自ずと自分の取るべき行動も見えてくるはず。俺も成長したのだ。状況に流されるだけだった以前とは違う。
まずは夏希。べったりだ。誰にっていろはにだ。手繋いでへらへら笑ってるし。大丈夫か? アレ? 放っておいて。元から距離感の近い奴ではあったが相手がな。
次に菊と椿。最近暗かったが少し明るくなったような……? うーむ。まるでかつての絵里グループを見ているようだ。いろはを中心に笑い合っているあの感じ。既視感ばりばり。そういえば夏希も交流はあったな。忘れてはいけない、俺がこっち(?)に来て目覚めたあの日あの時。一緒にいたわ。そういえば。そうそう。そうだ。思い出した。夏希があっちこっちいく奴だから決まってそういう印象はないけれど。菊と椿も受け入れている様子。
声がこちらまで聞こえてくる。
「お母さーん。何でいるのー?」
「なんででしょ~」
ふざけている(?)夏希に、いろはが微笑みながら相手してやっている。菊と椿がそんな夏希の様子を優しげに見守る。菊と椿も夏希の事情は知っているだろう。
夏希の件はある程度の範囲まで広まってしまっている。ああしている内は、夏希が意地悪な他の生徒から手を出されることはないだろう。菊と椿だって元々は小うるさい方だし、いろはは一応そういうのを寄せ付けないオーラがある。……あいつはどっちかって言うとそういうのを巻き起こす側だ。
ものすっごい失礼な言い方をすれば傷心者同士の傷の舐め合い。
「さて」
そんなグループを影から見ている奴が一人いる。
カーテンを体にくるりと巻いて半眼眼でじーっとそちらを注視している女子一人。遊んでいるのか、あれ。かくれんぼか。じゃなけりゃなんだアレ。
「なあ、何やってんだ愛ちゃん」
レンが近寄って来て俺に囁いた。片手には運動着を入れる巾着が握られている。
「さあ……」
「あ。いろはちゃん行った」
いろはが愛に気付いた。いろはの頭の上に電球がぴこんと光ったように俺には見えた。ずるずると夏希を引き摺るようにして歩くいろは。不思議そうに愛に視線をやる菊と椿。
愛がひょっこりとカーテンから飛び出した。へどもどしながら話している。大方何でこっち見てるの? とでも訊かれたんだろう。暫くし、いろはが菊と椿の元に戻る。腰には夏希が抱きついたまま。その後ろにはきょろきょろ視線を彷徨わせた愛が続く。
「もしかして話しかけられるの待ってたのかな」
「の、ようだな」
グッとこちらにサムズアップ決める愛に俺は呆れて手を振った。不思議そうな表情する愛。気付いてないので横を指差す。菊と椿が眉寄せて訝しげにそんな愛と俺たちを交互に見、愛はやっとそれに気付いて慌てて再びへどもどしだす。そんな三人をおかしそうにいろはと夏希が見て笑い合っている。……ううむ。
妙なグループが生まれてしまった。




