表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/277

夢の中へ3

 愛、藍、愛衣、亜依、あい。

 やっぱりそうだよな。この頃、アイって名前が異様に多かったんだ。

 タレントや歌手の影響だろう。三時間目の終わりがてら、トイレ行くついでに、隣とその隣とそのまた隣のクラスを覗いてきたが、やっぱりそうだった。覚えてなかったのも無理ないぜ。

 うちの学校、異様に人数多いからな。なんたって十クラスだぜ。三百人近くいるんだ。覚えているわけがない。

「愛さんは?」

「さあ。どうせいつもんとこじゃね?」

 いつものところ? 三時間目と四時間目の合間の休憩は五分しかない。どこに行くというのだろう。口ぶり的にトイレではないようだが。

「なに、お前。あいつのこと好きなの」

「好きかどうかはべつとして。まあ、綺麗だよな」

 俺の机に腰掛けてた陸に何気なさを装って訊いた。陸は変な顔をした。

「?」

 内心首を傾げる。だなー、とか、いいよなー、とか、そんな言葉が返ってくるかと思ったのに。そこから適当に会話を広げるつもりだった。そんなにきょとんとされては困る。

「良夫が愛きれいだってー。綺麗だよなーって。きれいーって」

 ああ。

 やってしまったらしい。好意を少しでも口にすることが恥ずかしい年代なのか。そういえばそうか。小学校三年生なんて、恋のこの字すら、興味がない輩はたくさんいた。俺もそうだったような気がする。たぶん、普段俺が口にしないようなことを口走ってしまったんだろう。なるほど。年代特有の会話の機微って難しいな、と俺はどこか他人事のように思う。自分事だが他人事だ。


「そんなに気になるなら保健室行けよ」

 松司が近付いてきて言った。からかうような口調だ。こいつは、この頃からこんなか。


「保健室?」

「とぼけんなって。どうせこっから先そこで寝てんだろーし」

「ふうん」

「きれいー」「きれいー」という俺のモノマネを繰り返し出した陸を横目に、俺はだんだんと思い出している。


 ああ、そういえば。愛って。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ