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第三章 霞ヶ丘小女子児童自殺騒動14

 チャプター28 五時間目開始十分前


「あ、わたしそれ聞いたことある」

 という、菊の何気ない言葉に対し、椿つばきは居心地が悪くなる。小集団全体に漂っている正体不明のモノに対する嘲罵。それが許せる雰囲気。普段ならば、椿もそちら側に加わって言いたい放題にかますところなのだが、それが自身の母が所属しているであろう鳥雲会のこととなると安易に口を挟めなかった。故に椿はさっきから黙ったままだ。

「知ってるの? 菊ちゃん」

 マスクをした絵里がくぐもった声で訊いた。

「うん。あのでっかい変な建物でしょ? 道場みたいな」

「もしかしてそれ、山の上に立ってるやつ?」

「そうそうそれ」

「ええ? あれ道場じゃなかったのかよ。ずっと柔道場だと思ってた」

 椿がこの前連れて行ってもらった場所。同じ年の、普段ならば絶対に知りあうことはないであろう校外の友達が出来た場所。遊里ちゃんに夢月ちゃん。会合で暇を持て余していたその子たちと椿は仲良くなった。レクリエーションルームと呼ばれる部屋があったのだ。どこに住んでいるのかまでお話し、遊びの約束を取り付けたくらいだ。

「違う。なんかね。騙してお金いっぱい集めてるんだって。関わっちゃいけないよってお父さんが言ってた」

 決してそこまで言われるほど悪い場所ではないはずだ。ましてや、

「わたしトイレ行きたいから。そのまま校庭行ってるね」

「あ。うん」

 ましてや、あの松司たちだ。この前まであんな態度を取っていた二人がどの顔して絵里ちゃんとお話ししているのか。でれでれしちゃって。分かりやすいったらないわ。

 椿は教室を出る。トイレになど向かわず、そのまま廊下を進む。

 途中、崎坂愛と福田良夫、戒場レンとすれ違った。

 珍しいこともあるもんだ。愛ちゃんがこのタイミングで教室に来るなんて。教室で着替えるのだろうか。

 びくびくと怯え俯く愛を守るように脇を固める男子二人はまるでナイトのよう。

 回転塔の時の愛の勇姿が頭に浮かんだ。次いで、情けなくも突っ立っていた男子たちの姿。

 逆じゃない?




 チャプター29 五時間目開始七分前


「わたしたちもそろそろ行かないと」

 続々と、着替え終わって教室を出て行く者らを見て菊は言った。

「どうせギリになったら先生来るし、そん時一緒に行けばいいんじゃね。なあ?」

「ん。ああ」

 最もな意見だが、いつもの松司なら先に校庭に行って遊んでいそうなものなのに。レンと良夫がいなくとも他に男子はいるのだ。たぶん、誰かしら先に遊んでいるはず。そしてそのまま体育に突入だ。分かっているのに。

 何より、ともかく、陸が遊びたかった。せっかくの昼休み。教室でずっと過ごすなんて勿体ない。このままでは休みが終わってしまうではないか。

 それに、今朝から話し合っていた探偵ごっことやらに陸はいまいち興味が持てなかった。この前の山のことがある。危ないことはもう懲りごりだという気がしていた。元町になど最初から興味はない。し、それにこれ……、他の奴らに話して良かったんだったか?

「俺、先行ってる」

「あ? あー。ま、いいや」

 陸は一瞬眉根を寄せた松司にびくりとするが、すぐに何も言わなくなったのを見、内心「ほらな」という気持ちになった。何が、「ほらな」なのかは自分でも分からないが、言ってみればどうにかなるものだ。

 回転塔で、松司に意見した時の良夫の顔が頭に浮かんだ。

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