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第三章 霞ヶ丘小女子児童自殺騒動3

 チャプター6 平成十一年度一月二十三日 三年四組教室


「今日はお休みが多いですね。松司君、陸君、絵里さん、椿さんが風邪でお休みです。寒いですしインフルエンザも流行ってますからね。皆さんも手洗いうがいをしっかりして、夜は温かくして寝るようにしましょう」

「はーい」

 朝の会が終わった。一時間目の授業が始まるまでの僅かな時間。子供たちは好き好きに動き回って騒ぎ出す。

「馬鹿でも風邪引くんだな」

「アレで風邪引かない俺たちの方がきっと馬鹿なんじゃね」

 レンが近付いて言ったきた。

 アレとは土曜の遭難一歩手前のことを言っているのだろう。

「あ。忘れるところでした」

 ふと。思い出したかのように、教卓で、中腰で書き物をしていた先生が声を上げた。俺たちはなんだろうという眼差しを先生に向ける。

「愛さんも、今日はお休みですね」

 なんだ、とばかりにみんなの視線は目の前の友人へと戻った。一瞬止んだざわめきも元通り。休んだところでいつもと何が違うんだというみんなの想いが伝わってくる。

「おい、良」

「ああ」

 俺とレンはどちらからともなく顔を見合わせる。




 チャプター7 崎坂家


「煩わしいね。全く」

 愛は庭のすみっこ、塀に背を預け、自宅だというのに先から所在無さ気に立っている。

 目の前には大勢の警察の姿があった。彼らは一様に愛の屋敷にさっきから出たり入ったりしていて、口々に一昨日起きた件について意見を交わしている。

 ドタドタとやかましい。人様の家なんだからもう少し静かに歩けないものか。家の中でめったやたらと喋るな。やかましくて本も読めやしない。

 そんなこんなで愛は外庭に出ていた。

「しかしなあ。どうにも」

 ざっと屋敷を行き来する刑事や鑑識たちを見、愛は顎に手を当てた。その時、

「おい。なんだよこれ」

「知らねえのかよ、未来人」

「未来ではこんなこと起こってない」

「どうせお前が覚えてねえだけだろ」

「……」

 という声が、塀の外――ちょうど愛の立つ塀の真後ろ向こう側から聞こえてきた。

 もちろん最後の沈黙は愛の想像だ。

 だが、何にも言い返すことが出来なくなってとりあえず黙ってしまっているのは容易に想像出来る。

 顔が綻ぶのを感じた。

「やあ」

 刑事たちの脇を潜り抜け、塀の外に出てみた。刑事たちはちらりと目をやっただけ。

 予想通り、そこに良夫とレンの二人がいた。松司の姿はない。愛の中に僅かな安息感が芽生える。陸はべつに。

「あ。お前」

「こ、こんにちは」

「どうしたんだい。こんな場所まで」

 こんにちはというのがおかしくて思わず笑ってしまった。レンは何やら良夫の後ろに隠れてまごまごしている。良夫は少し怒ったような表情だ。はて。何に対して。

「お前を心配して見に来たんだよ」

「ありがたいね。見ての通り、わたしはぴんぴんしているけど」

「なんなんだよ、これ」

 と、良夫の視線は愛を通り過ぎ、門の前に突っ立つ幾人かの警官へといった。愛は「は?」と声を上げ、首を捻る。

「なんだい。これの心配して見に来てくれたんじゃないの?」

「これってなんだよこれ。俺たちは愛が何で死んだのかをだな」

「わたしはべつに死んでないけど。死ぬような怪我どころか危害さえ加えられてないし」

「危害?」

「? 死ぬって?」

「?」

「?」

 二人して首を傾げた。体ごと傾げたと言ってもいいだろう。お互い、目の前のこいつは何を言っているんだろうというような顔だった。

「なあ。一端整理しようぜ」

 二人の様子を見、レンが戸惑いつつも、どこか呆れるようにしている。


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