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第三章 霞ヶ丘小女子児童自殺騒動

 チャプター1  平成十一年度一月二十一日新聞記事 地方欄


 一月二十一日 霞ヶ丘町かすみがおかちょうにある住宅から猟銃が盗まれる被害があった。住人からの説明によると帰宅時に窓ガラスが割られていることに気が付き、室内には物色された形跡があった。住人は趣味で狩猟を行っており、保管していた猟銃一式が、他の金品同様の被害にあったと見られる。警察には既に被害届が提出されており、警察は捜査にあたっている。




 チャプター2 平成十一年度一月二十一日新聞記事 地方欄


 一月二十一日 午後夕方頃、霞ヶ丘町かすみがおかちょうにある住宅に強盗が入った。同時間帯、学校から帰宅していたその宅の長女が偶然現場に居合わせていた。長女には暴行を加えられた跡があった。その後、犯人は逃走し、詳しい行方は分かっていない。少女は精神的なショックが大きいと見られ、詳しい犯人の特徴は分かっていない。警察は周辺の聞き込みを元に捜査を進めている。




 チャプター3 平成十一年度一月二十一日新聞記事 地方欄


 一月二十一日 午後夕方頃、霞ヶ丘町かすみがおかちょうにある住宅に強盗が入った。同時間帯、学校から帰宅していたその宅の長女が偶然現場に居合わせていた。長女には暴行を加えられた跡があった。その後、犯人は逃走。少女は精神的なショックが大きいと見られ、発見時は口も利けないような状態であったが、徐々に回復を見せている。警察は周辺の聞き込みを元に捜査を進めている。




 チャプター4 平成十四年度七月十九日 六年四組教室


 どこかで見た顔だなと思った。


 放課後。いつもならまだ人がいるのに校内は静かだった。いざ、これから夏休みっていう時に教室に宿題を全て置いてきたことに気が付いたのだ。陸とレンには校門で待ってもらっている。急がねば何を言われるか分かったもんじゃない。いや、既に言われている。

 足早に教室に戻り、扉を開けると一人の少女が座っていた。

 背筋はピンと伸びているのに、どこか気怠げ。力のない瞳のせいか。着ているワンピースはやたらにひらひらしていて高そうで、少女は窓の外を静かに眺めていた。

 そこは俺の斜め後ろの席で。

「あ」

 と、気付く。そういえば、なんか居た気がする。あんま覚えてないけど。

 崎坂、だっけ。

 崎坂なんとかさんはゆっくりと俺の方を向いた。目と目が合ったと思ったのも一瞬のこと。崎坂なんとかさんは俺を見ているようでいて、何にも見ていない気がした。

「やあ」

「あ。はい。ども」

 少女がすっ、と立ち上がる。ふらりふらりと近付いてくる。え。どうしよ。全身に緊張が走った。何かされるんじゃないかと身構えてしまう。少女はそんな俺の反応を面白可笑しそうに眺めながら俺の横を通り過ぎて行く。背は俺より少し高かった。

 振り返る。

 もう崎坂なんとかさんはいなかった。

「なんなんだ……って、やべ」

 宿題は引き出しじゃなくて教室後ろのロッカーに突っ込んであった。大急ぎでランドセルに無理やり詰め込み教室を出て行く。

「まだ学校来てるんだなあ」

《おさない・かけない・しゃべらない》というポスターを横目に廊下を走る。

 崎坂なんとかさんを見たのはもう何年前になるだろうか。二、三年は前か。てっきり学校辞めたんだと思っていた。小学校が辞められるかどうか知らないけれど。会社は辞められるんだし、たぶん辞められるだろう。




 ――これから小学校最後の夏休み。


 眩い晴天の夏の日差しの元、崎坂なんとかさんは学校の四階のベランダから飛び降り、自らの命をその日絶った。


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