ソシャゲ
ソシャゲ
この世には、種々の宗教がある。
祈祷を旨とし、自らの信じるところとする神より神力を授からんと日々礼拝を続ける人々。
己に戒律を課すことで、自らの邪念を払い、ただ無心の境地にある精神統一を目指す人々。
単発教や10連教などの教えくらいなら誰しも聞いたことがあるだろう。だがそんな俗な考えには満足しなかった俺達は、確率の向こう側にある新世界への扉の鍵を模索し続けた。
そしてその果に見出したのだ。この世の理の尽くを解き明かしてまだ足りぬ、確率という名の絶対値に抗う術を。
そう、俺達はーー
「右乳神よ!俺に、俺に力を貸してください!!今月もやししか食えなくなってもいい、電気が、水道が、ガスが止まってもいい!!!だから、俺に力を!!」
敬虔なる右乳教徒なのだ。
「混沌より沸き出でし力の頂点よ!この現し世でその無限の渇望を暫し潤すがよい!降神せよ!!ティーアスたん!!!」
全神経を右乳首、その先端の一点へと集中させる。俺には、神に裏切られ続けた俺にだって手を差し伸べてくれた右乳神様が付いてる。
一体何を恐れるんだ?0.1%、いやその百分の一の確率だって乗り越えてきたさ。
いける、今なら、今ならスーパーシーズンフェスティバル最高レアのティーアスたんが出る!!
「ここだぁぁぁあああああああ!」
カランッ、コロコロコロコロ。
飛び出したのは虹卵、これで少なくとも最低レアではないことは分かった。
だが、ここからだ。
これまで幾度も辛酸を舐めさせられてきた。レア度の高さとキャラクターの性能が純粋には比例しないこのゲーム、高レアと言えども一切の使い道を見出だせないゴミキャラ、所謂「産廃」が存在するのだ。
だが、今の俺は違う。
この運命のルーレット、赤の7番ポケット一点張りを成功させることができる!
そして虹の卵から溢れ出した眩い光が画面を白く染めて……
「あークソだクソ、こんのガチャ、絶対ティーアスたんは排出されないようになってるんだわ、あーもうやめてやる!絶対やめてやるぞ〜、アンインストールだこんなクソゲー」
「ん?貴方は天井の業をご存知ですか、だって?なんだこれ、新しい宗教勧誘か?」
なになに?えーっと、ガチャには天井というものが定められており、簡単に申し上げれば規定の個数のセットの中に必ず排出一覧に記載されている商品が含まれていると言う原理で……
ってこれ出るまで回せば100%教かよ、ふざけやがって!
俺は投函口に入っていたチラシをくしゃくしゃに丸めて投げ飛ばす。
飛んでいったチラシは、コツンと小気味良い音を立ててからゴミ場のフチに当たって床に落ちた。
「てか今日で連休終わりかぁ〜、あーあ、毎日クソ上司に怒鳴られながらあくせく働いて週末にのんびりゲームでもと思ってたらこれですか、はいはい分かりましたよ、神様ももう、俺のことなんて見捨てたんですね」
課金……かぁ、金を課するって字の如く、俺達はこのゲームに大金支払うことを強いられてるわけだが……。
やめちまえよって思うだろうが、正直ここまで育成してきたアカウントには並大抵じゃない努力が必要だったし、それなりに思い出だって詰まってる。
だから、やめようにもやめられないし、またそうこうしていると完走必須のイベントが開催されてしまって、なんとなくでそれを始めちまう。
どっかで思い切ってやめなきゃなのにな〜、これがなんでか人間ってやつは簡単にやめられないんだよなぁ。
それを食い物にする運営は最低だよな、クソみてぇな奴らだわ、ゴミだわゴミ。
「つぅか人生みたいだな〜、これ。俺そろそろ死んだ方がいーんじゃねぇかなぁ……」
いっそ死ぬ、か。
その考えが頭を過ぎった瞬間、ツーっと冷たい感覚が背中から頭に走ったが、それがなんとなく心地良くなってきて、その感覚に身を委ねたい気分になってきた。
あぁ、俺死ぬのか……。
なんとも言えない心地のまま、手を大きく広げて、そのまま重力に逆らうことをやめて五点投体よろしく体を投げ出してみる。
ぐにゅっ
「ぎゃぁぁぁああああ!なんじゃ!なんかおるぞ!なんやこいつ!!!」
「あらあら、なんですか騒がしいご主人様ですこと。これから長い付き合いになるかと思いますが、どうぞよろしくお願いしますね」
今日で死ぬ筈だった俺と、今日この世界に産まれ落ちたソレとは、波乱万丈の大冒険を繰り広げることになるのだが、それはまた別のお話。