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異世界まぜこぜ(魔法とかナシ)

「真実の愛」について論じ合う初心なふたり

作者: 仁司方


「ねえマルグリット、ぼくは最近、ずっと考えてることがあるんだ」


 月に一度の顔合わせの席で、婚約者であるウィルフォードさまがふいに話を切り出してきたので、わたしは背筋にすこしばかり緊張を覚えた。


 ウィルフォードさまが、わたしのことを「リタ」と呼ばないときは、あらたまった用件だ。


「なにか、お悩みごとですか、ウィルフォードさま?」

「いや、個人的な悩みじゃないんだけどね。一般論として、ちょっと気になることがあってさ」

「一般論、ですか」

「真実の愛って、なんだろうね?」


 あやうく、お茶をぶちまけてしまうところだった。


 ()()()()ですと!?

 禁断の言葉ではありませんかウィルさま!


 まさか……まさか……


「ウィ、ウィルフォードさま、もしや、真実の愛を、お見つけになられたのでしょうか……?」

「いやだから、ぼく個人のことじゃないんだって」

「ほ、ほんとうですか……?」

「もしかして、真実の愛って、よくないものなのかな?」


 ウィルさまは無邪気そうに小首をかしげた。こういうところは、実年齢より幼く見えて、かわいい。そうじゃなくて。


 はあ……婚約破棄されるのかと思った。


 どこぞの泥棒猫(クソビッチ)に、ウィルさまのお心(ハート)盗ま(パクら)れてしまったのかと……。


「真実の愛それ自体は、すてきなものだと思います。ですが、真実の愛に目覚めた結果、親どうしが決めた婚約を破棄してしまうというお話を、耳にしたことがありますので」

「へえ、そういうことあるんだ」


 あるんです。わりとよく。

 身分ちがいの恋にのぼせ上がって、いきおいで婚約破棄を宣告してえらいことになるカップル、最近多いんですって。


 わたしもウィルさまも伯爵家の生まれで、釣り合いは取れているから比較的めんどうはすくないんだけど、なんだかんだで貴族だから、婚約周知期間はきちんと取らなくちゃいけなくって、好きなように逢うことはできない。


 泥棒猫(尻軽恋愛脳)が横から熱烈アタックしてきたら、そりゃあ、10代の少年なんて、たちまちほだされてしまうでしょう。


 ああよかった、ウィルさまにファ●キ●プ●シーが忍び寄ってきたわけじゃないのね。


「ところで、ウィルフォードさまは、どうして真実の愛についてお考えを巡らされることになったのでしょうか?」

「じつはね……この前、兄が別れたんだ」

「お兄さま……アルフォードさまが?」

「正確には、婚姻不成立で、別れたというか、添い遂げられなかったということなんだけど」


 婚約パーティのとき、ウィルさまのご家族にはごあいさつしているので、わたしもアルフォードさまのことは存じ上げている。


 王都近衛騎士団の3番隊分隊長でいらして、ウィルさまとの共通点は蜂蜜色の髪と琥珀色の目くらいのもの。線の細いウィルさまとは正反対の、たくましい男性だ。


 浮いたうわさのひとつもない、質実剛健なかただと評判だし、わたしもそう思っていたのに。


 ……歩く騎士道のようなアルフォードさまが、真実の愛のせいで婚約者と破談に? そんな、信じられない。


「アルフォードさまが、婚約者以外の女性と真実の愛を育まれたのですか……?」


 ところが、ウィルさまは怪訝そうな顔になった。


「どうしてそうなるの。兄は婚約者である、フィリーゲム公爵家のナタリア嬢と式を挙げたよ。でも、その晩にナタリア嬢は実家へ帰ってしまって……」

「あ……」


 婚姻()()()って、そういう。初夜ならず、と。


「兄とナタリア嬢のあいだに、真実の愛は成り立たなかったのかなあ……そう考えると、もしかしたらぼくとリタのあいだに、真実の愛が芽生えない可能性もあるんじゃないかって、不安になって」


 ウィルさまの目は真剣だ。


 わたしはひとつ、フィリーゲム公爵令嬢ナタリアさまについて、思い出していた。


 彼女は、かなり小柄なひとだったはず。


 つまり……体格に恵まれているアルフォードさまでは……入らなかった。そういうことだろう。


 名門中の名門であるフィリーゲム公爵家との縁談は、伯爵家にとって千載一遇の好機だっただろうけど……お気の毒さまだわ。


 もし、アルフォードさまじゃなくウィルフォードさまが長男で、ナタリア嬢と結婚することになっていたら、きっと()()()のほうも滞りなくすんだでしょうけど。


 神さま、ウィルさまが次男に生まれてくれたことを感謝します。


「……ええとですねウィルさま、アルフォードさまとナタリアさまのあいだに立ちふさがった懸案は、真実の愛とは、ちょっとちがいます」

「リタにはわかるの?」

「物理的、問題ですから」

「どういうこと? 詳しく教えて」

「ええと……ナニのサイズと、アレの直径とか、深さとか……」

「なにと、あれなの? わからないよリタ。具体的におねがい」

「あの……その……」


 まずい、まずいわ。

 わたしの伯爵令嬢としての品位の問題以上に、もっと根源的にヤバいわ。


 これ、具体的に説明なんてしたら次元ごとふっ飛ばされるわ!


 ……ていうか、ウィルさまわたしと同い歳でしたよね? もう16歳ですよね? 男の子でカマトトとかないですよね?


 まさか、わたしにそういうこといわせるよう仕向ける、プレイ?


「リタ? 顔がずいぶん赤いけど、だいじょうぶ? 熱出てきた?」

「だ、だ、だいじょうぶです! アルフォードさまとナタリアさまに生じた問題は、ウィルフォードさまとわたしの場合は起こらないので、それだけはご安心ください!」

「ほんとう?」

「はい、それだけは確実です!」


 ウィルさまとわたし、身長ほとんど同じだし。

 仮に、ウィルさまが急にアルフォードさまくらいの体格に成長したとしても……ちょっと痛そうだけど、平気、いけるいける。


「よかった。ぼくとリタには真実の愛があるはずだって、信じてたから」

「もちろん! しあわせになりましょう、ウィルさま!」

「ああ、そうだね。ぼくがきみをしあわせにしてみせるよ、リタ」


 はしたなくもこっちから手を伸ばして握ってしまったけど、ウィルさまはやさしく握り返してくれた。


 あるよ、あるある、『真実の愛』ここにあるから!



    ・・・・・



 1年と4ヶ月後、わたしマルグリットとウィルフォードさまは、婚約期間を満了し、ぶじ結婚式を挙げた。


 その夜、具体的記述をすると別次元にふっ飛ばされるようなことも、しっかりこなしましたとさ。



    おしまい




大変申しわけありませんが、別次元のテキストは準備されておりません。

作者にはその手の才能がないのです。すみません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 突っ込んだら負けかな? 二重の意味でW
[一言] 別次元のテキストが無くて残念 ぜひぜひ 参考にさせていただきたかったのに(笑) こういうの好きです♪ お幸せに~
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