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第5-4話 【宮廷財務卿転落サイド】魔物の大量侵入に焦りまくり

 

「……という事で先月は5000人の転出超過……ああでも”転出税”が予定の10倍の収入になっていますね」


「……おのれ愚民どもめ」


 ここはクリストフの執務室。


 月初の定期報告として、さっそく彼はやる気のない秘書より不快な報告を受けていた。


 帝都から逃げ出す……移住する住民が多いことの対策として、転出税……帝都から移住する際は高い税金を掛けるようにした。


 だが、先月の報告を見る限り、ペースは多少鈍ったものの、大幅な減少には至っていない。

 帝都の人口は百万人を超えるとはいえ、毎月5000人以上人口が流出しては帝都の運営に支障をきたす。


 なにが”転出税の収入が予定の10倍”だ!


 予定の10倍移住されているのだから当然だろう……クリストフはやる気のない秘書の言葉にいちいちイラついていた。


 いまいましいのは、転出税の一部を肩代わりすると宣伝し、自分の地方へ移住を促すところが複数ある事だ。


 伝統的に帝国は地方自治を是としていたがこれはやり過ぎだ……。


 特にカールの奴が領主をしているカイナー地方……”転出税を全額補助する”とは何かの嫌がらせか!


 どこからそんな金がと調べさせたが、奴はバウマン家の人間と資産全てをカイナー地方に移転させていた。


 くそっ……小賢しいダメージ床職人風情が……もう少し遅ければ高い税金をかけてやったものを!


 ……とりあえず、転出税の補助を言い出した反逆地方共への補助金を減らして帝都の税収減をカバーだ……。


 クリストフの政策は、どんどんと袋小路へと向かっていた。



 ***  ***


「!! なんだと!?」


「魔軍界から100体規模の”魔物”が侵入しただとっ!?」


 ここは帝国軍中央司令部の会議室……ここ10年以上大きな戦争もないため、すっかりお役所と化した帝国軍の中枢部である。


 帝国軍務卿も兼ねているクリストフは、危急の報告があるという首席参謀に連れられ、緊急会議に出席したのであるが……。


 冒頭で報告されたのがこの特大の不快な報告であった。


「いったい”へスラーライン”の見張りは何をしていたのだ!? 魔導傀儡兵の数も増やしたはずだぞ!?」


「それが……魔導傀儡兵のメンテナンスによる交代の隙を突かれまして……また、まだ未確認ですが壁の帝国側より、侵入を手引きした魔物がいたとか……」


「ちっ……魔導傀儡兵の交代時には細心の注意を払うように伝えただろうが!」


 恐る恐るという感じで報告した首席参謀に激怒するクリストフ。


 憤激のままに机をたたく。

 その衝撃でコーヒーがこぼれ、書類に茶色の染みを作った。


「とりあえず警備責任者を拘束しろ! 無能者めが……」


「それより、”侵入を手引きした魔物”とは、事実なのか!? 可能性としたら擬態した人型魔獣だが、そんなもの”魔軍大戦”以降確認されていないぞ!?」


「報告は正確にしろといつも言っているだろう! 明日までに事実を俺のもとに持ってこい!」


「はっ、はい……申し訳ございません、直ちに調査に掛かります」


 クリストフの剣幕に、そそくさと退出する首席参謀……まったく、俺の足を引っ張る無能しかいないのか!


 それより、いまは”魔物”への対処だ……100体規模となると、弱体の帝国軍や無能な冒険者ギルドでは無理だ……虎の子の近衛師団を使うしかないのか?


 苦悩するクリストフの肩に、すっと優しく手が置かれる……このひんやりした手のひらは、アンジェラか?


「……大丈夫ですクリストフ……開発が最終段階になっている”上級魔導傀儡兵”を使います。 これなら魔物が何体来ても対処可能」


「……む、上級を使うのか? アレはまだ制御機能が完全ではないと聞いているが?」


「私が直接制御する……ふふ、安心して?」


 思い切ったアンジェラの提案に、流石に躊躇するクリストフ……だが夜にしか見せない蠱惑的な表情で微笑んだアンジェラの瞳に吸い付けられたクリストフは、この提案を採用することを決意する。

 なぜか大丈夫な気がしたのだ。


 半日後、魔導傀儡兵工廠から出撃した10体の上級魔導傀儡兵は、絶望的な戦闘を繰り広げていたへスラーライン周辺の帝国軍のもとに駆け付けると、その圧倒的な力で”魔物”を一掃するのだった。


 助かった、帝国の守護神だ、魔導傀儡兵万歳!!


 歓喜に沸く兵士の中で、上級魔導傀儡兵の肩に乗ったアンジェラは怪しく微笑む。


 全てが彼女の思い通りに運んでいる……さて、仕上げに向けて動くとしましょう……。

 彼女は今後の行動に思いをはせるのだった。


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