パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンディシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ
九州大学 建築学科 デザイン棟基本的には内部での投射装置が特殊なだけで外観は鉄筋コンクリート製の4階建てのビルにすぎなかった。
大学という環境のため講義用の教室があって大きな部屋が多いという特徴はあるがその他の校舎と似たり寄ったりだった。
そう、「だった」のである。
持ちこまれたデータをテラバイトの解像度で上映した結果、いくつかの疑問が生じた。
それはシリコンウェハー内の仮想原点とも呼ぶべき黒いアメーバ状の領域についてだが、光学出力の関係かその部分は光をまったく反射しない物質、まるでペンタブラックでできたような漆黒の表面になっていた。
ところがそれはいつの間にかグリーンになったり茶色になったりブルーになったりして、おまけで見る角度によって色変わりすることがはっきりしてきた。
その上でなんとも言えない縞模様としか言いようのない多くの色の混じりあった模様になっていた。
翌朝プラネタリウムのドーム一面にぶちまけられたサイケデリックな模様に高橋二尉は呆然と立ち尽くすことになる。
「いったい何をどうやればプラネタリウムの投影面の暗幕が着色できるんだ?」
水城分遣隊の整備中隊は総力をあげて分析していたが、どう考えても有り得ない現象に分析班は頭に拒否反応を引き起こしていた。
「表面状態はカーボンナノチューブが整列しているようです。色が変わるのはモルフォ蝶の鱗粉と同じ効果かと?」
そんな中で冷静な分析結果を挟んできたのはアリスだった。
その報告を聞いて「半導体レーザー」とか「照射時間での深度確定」とか分析班に言葉が漏れ始まる。
もしそれが事実だとしたら、というか事実なのだろうが、表面処理技術が軒並み変ってしまう。
グレーベース1色で全ての色というか、ステルス性も付与できる可能性が高い。
しかも投射装置は安価なプラネタリウムの投射機だ、出力も限られたものでしかない。
最大の難点は誰がそんなシステムを組み上げたか?ということだが。
これに関しては意識を持ったAIとしか考えようがない。
正直意思疎通ができてないような気はするが、部屋一面を気持ちの悪くなるようなサイケデリックな前衛芸術で埋めつくす人間よりはまだ会話ができそうだと思う。
だとすれば辞書ソフトにどのようなタイミングで接触しているか。
特定の色で接触しているならだいぶ楽なんだがアリスに命じて調査してもらう。
いやこの空自のアリスシステム便利だ。陸自でも運用できないか春二佐に確かめてみよう。
「ダメに決まってるじゃない。」
高橋二等陸尉から上がってきたアリスシステム活用範囲の拡大についての上申書をみて一瞥するなり、口を飛び出した言葉は拒絶だった。
「ティックAIの感染力がどれだけ大きいかわからないうちに、アリスの能力制限を取っ払ってネットを感染するわけには行かないでしょ。今アリスシステムの98%は自己観察に割り振られているのよ。おかげで反応が鈍い鈍い。OSのセーフティープログラムの立ち上げみたいなものよ。」
普段のアリスの反応を知らない人にはこれでも十分な反応に見えるのだろう、だがアリスは空戦専用の補助プログラムがベースだ、レーダー反応はもとより機体表面の気流層剥離から温度・湿度・未来予測まで同時にこなすシステムである。
演算器にようる計算不足は失速・墜落に直結する中で動くシステムだ。
それこそ瞬きの間に計算表示されている。
「まあそんなAIを教育するのもかなりきついのは認めるけど」
高橋二尉からの賞賛の言葉と活用拡大への切実な要望を見ているとなんとかならないか思うところが大きくなってきている。
「いずれにせよ前衛アートをやめさせないと・・・」
部屋の中にいると三半規管が狂わされ精密な分布すら測定がままならない状況はなんとかしたい。