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胎動始動

 九州大学 建築学科 デザイン棟では半ば呆れるような雰囲気が漂っていた。

 「つまり、私が運んできたのはジャンクデータだったということかしら?」

 「いえいえ、そのようなわけではありません。シリコンウェハーの回路書き換えは重要なデータでした。」

 目の前のマッチョの二尉が汗を拭きつつ弁明する。

 「でもシリコンウェハーの変形についての図面はそれこそギガバイトで済むわけでしょう。なんでペタバイトなんて膨大なデータの99%以上を捨てることになったわけ?」

 「それについてはデータのほとんどを占めている、ウェハー内部の誘電領域の次元分析の結果フーリエ解析での適合無しと結果が先ほど出ました。富岳の解析結果ですので間違いはないとおもわれます。」

 「つまり?」

 「サイズ電流電圧含め、なにかの規則性は見られず偶然の産物を測定していたと思われます。なまじアメーバの動きに似た動きのため深読みしてしまっただけではないかという知見が付いてきていますついでにいうなら予想単位は0次元でした。」

 結局くたびれ損のだったか。まあそれがわかっただけでも進捗ではある。

 「とりあえず、わかっている回路図の挙動について教えてちょうだい」

 「CPUは1.5GHzで動いていますが簡単に言えば1秒間に1.5億回こま切れで電流が流れているのと同じです。条件が合った時のみ電流が流れ、その結果届いた電流の本数と位置で計算しているのですが、その1億5千万分の1秒で回線が書き換えられたらどうなると思います」

 「普通ならシステムエラーでクラッシュするでしょうね」

 「そこで困ったことに必要な回線は維持したまま、空いた分をGPSとかメモリーに振り分ける改竄ができたら・・・というのが今回の事例です」

 「どういう意味?」

 「電流が流れている途中で出口をつないで流れるようにする。もしくは別の回線に誘導して別の回答を導き出す。あとはコンデンサーに繋いで一時的にメモリーとして使う。なんて事例が確認されますね。」

 「ありえないでしょ。」

 「常識的にはありえませんが事実です。」

 言われたことを考えてみると、超次元的な何かが操作しているといわれても不思議はない。

 3価と5価のイオンレーザーを照射して回路を焼き付けていると言われた方がまだ現実的だ。

 もっとも戦闘駆動中にそれ(レーザー照射)ができるなら最強の戦略兵器になるが…

 「わかったわ。とりあえず統合幕僚長に出せる報告書をまとめて」

 「かしこまりました」

 ある程度指示をしてやることで彼の負担は大きく減少する。

 高橋二尉に倒れられても困るので、現場に乗り込んで指示するのが私の仕事だ。

 そう決めた。


 「かしこまりました」

 自分の声が硬くなっているのは自覚するが会議室で面談してる相手が相手だ。

 教導隊の隊長の面談、それと女子中学生との面談がうまく組み合わない。

 セーラー服を着ている方が似合うであろうが、パイロット専用コンバットスーツにツナギの作業着を着た女の子が士官の口ぶりで次々と命令をしてくる。

 (これがアリスリーダーか?)

 当然ながら教導隊の隊長の姿も写真では見たことがある。・・・が本物の方が可愛い。

 どう見ても28歳には見えない。自分より3歳年上とか反則でしょう。

 (報告書仕上げないと。どうすればいいんだろう。ファンレターなら100枚でも書けそうな気がするんだけど。)

 そう問題は報告書である。いったい何が起きているのか参謀達に納得できるように報告書にしなくてはならない。

 一見してまるで脳組織のように最適な範囲で中身が組み変わる現象を、どのように結論付けるか

それが問題だ。その際の超物理現象の原因をどこに起因させるのか、その点も面倒としか言いようがない。

 研究論文とは違って自衛隊内部の書式と通例を参考にしなくてはならない。

 「参考文献を提示しますか?」

 「よろしく頼む」

 「ではここ10年以内で関連性がありそうな報告書を表示します。」

 恐ろしく仕事の早いAIのアリスのおかげでなんとなく書ける気分が生まれてきた。

 そういえばアリスをはたかせるため春二等海佐は来たと言っていたな、確かに来てもらわなければ報告書はで出しすら詰まっていただろう・・・感謝だ。

 

 とはいうもののどういう方向でまとめるかは自分にかかっている。

 何種類か従来分を組み合わせてそれっぽく仕上げたサンプルを比較してみたがこれというインパクトというか納得感が生じない。

 頭を搔きむしりながら理屈をつけていくが・・・なにか見落としているような気がする。

 それが頭に閃いた時にこれだ!と納得した。

 それは膨大なバグデータであり、春中佐も残念さを向けたデータである。

 もしかしたら空間軸の0点を示したものではないのだろうか。

 それなら次元解析0で運動していることの理由になる。

 あくまでも周りの空間が変化した結果境界線が歪んでいるだけで観測された結果が動く輪ゴムの軌道になっているだけだろうと推定してみた。

 計算軸の原点というのはトンデモない要素ではある。例えば銀河系の中央のブラックホール射手座A*を原点にすれば地球上の1点の移動速度は地球の自転+地球の公転速度+太陽系の渦巻分枝の公転速度を加えた速度になり光速の数%にも達するだろう。

 いわんや超銀河団の中心を原点にしたり遠方にとっていくだけで宇宙の膨張速度の方が大きくなったりしたりで適当な原点0というものの設定は非常に難しい。

 …ということでそのあたりをこじつけたりひねくり回したりして仕上げた報告書は春中佐のお気に召したようで、原点らしいものの影響要因を再推定させてみるとのことで防衛省とのホットラインでなにかを連絡していた。

 単なる陸自二等陸尉、予想外の夏休みの課題で頭の中で大汗かいた状態なので、深いことは考えずソファーにもたれて惰眠を楽しんでいた。


 ただ、その間にもティックは動いていたのを忘れていた。

 いや本当に忘れていたわけではなくて忘れていたかっただけなのだが・・・ 

 

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