合流
多次元デザイン実験棟に隣接したプレハブ工法のハンガーそこにMUは移動されエンジンに電力を供給するコードが取り付けられた。
コードはプラグで止められたが固定部分のネジを回してしっかりと密着すると、エンジンへの燃料供給がカットされた。
引き続いて陸自の整備兵は通信ケーブルをパイロットに見えるように指さしながらコックピット直前のスロットに差し込んだ。
差し込まれたスロットから大量のデータが流れ出される。
HUDには状態の数値での変化も映し出されているが、その勢いはダムの決壊に例えられるほどだ、MUのコンピューター群はアリスというAIの制御により加熱ロスや雑音の入らない環境下で最大にデータを送り出している。
データの中身は問題になっているティックというAPに搭載されたCPUの回路変化についての経時情報だ。
本来ならここまで大掛かりにする必要もないマッチ棒一本にも満たないデータだったはずが、あまりにおかしな挙動に適当な言い訳もできないまま「初の人類以外での高度知性」の存在が確定視されるに至った。
なにしろ本来ならVR程度で再現できるはずの回路図の変化のはずなのである。ところが熱接続された回路が必要な時間だけ通電したかと思うと別の位置に漏電して回路図を変化させてしまう。
それでいて通信回路の稼働効率は100%を超えてしまう。
あまりに異常な事態に回路の物理的変形にだけですらプラネタリウム1機と再現用に航空分隊の中央コンピューターのリンクが決定。
今3D映画館を使って超巨大なCPUの拡大された電子回路が映し出されている。
これを映像の専門家が録画して死角が出ないようにしているはずだ。
本来APに搭載されているCPUは30nm幅で設計されていて軍事用としては安全第1の設計になっている。この30nmはふた昔のCPUペンティアムの設計規格に等しい。
ところがありえないことにティックのCPUはこれが随時変わる形で書き換えられている。
時間経過とともに穿孔がシリコンウェハーの母材に発生して、複雑な絶縁抵抗の分布をはっせいしている。それはまるで脳細胞が他の細胞に連結しては離れるように安定した回路を作るわけではなく3次元的に処理できないと全容すら知ることのできないCPUの質的な変化で、穿孔部分を作り出すのも陽電子の対消滅によるエネルギーが用いられていると推定されたがどこから陽電子を取り出すのか、それも今後研究しなくてはならない。
「アリス、第一段階の進捗はどうなの?」
「ハル、再現画像に異状なし。データ転送現在40PBですが上映機のキャッシュの関係で通信速度を下げる必要があるので許可願います。」
「許可です、随時実行しなさい。」
「通信速度調整入ります。」
MUのコクピットのHUDにはミニサイズの回路図が映し出されている。
気になるのはシリコンウエハー内部のアメーバのような挙動だ。
その部分を拡大投射するように指示すると肉眼でもわかりやすくなった。
この内部の極微細なクラックと熱膨張のサイズ変化、絶縁抵抗の組み合わせからなる架空の通電回路で測定電圧で通電が可能な領域をグリーンで色分けしたものでる。
切れたりくっついたりしながら常時新たな回路を作るその様は脳細胞の挙動を思わせるものだ。
「これだけ見ると生きてるみたいね。アリス自律型思考を行ってるか演算できる?」
「相当な演算量になるので作戦後に21航空分隊で演算することをお勧めします」
「そうね、少なくてもマンタの中枢コンピューターじゃないと年単位の演算時間がいるわね。忘れて、現在の作戦に注力しなさい」
「了解しました。余剰演算力はデータ通信制御に回します」
プルルル・・・
通信機が呼び出し音を鳴らしている。
普通はいきなり音声がくるはずだが?
には陸上自衛隊水城分遣隊の文字が出ている。
着信を受けると
「もしもし、水城分遣隊長、高橋二等陸尉です。事前の連絡よりデータ移転速度がだいぶ速いのですが、データ量もテラではなくペタになってます。投射機の上限を超えているのですが?」
いきなり苦情が入ってきた。まあわかるが・・・
「こちら第21航空分隊所属 第一中隊隊長 春 二等海佐だ。移動の途中でCPUに特異点が発見されたためデータを受領しながら飛行してきた。このため当機の蓄電量がギリギリで連絡が遅れた。受領するデータサーバは問題ないか?」
「最終データサーバは九州大学の中枢コンピュータと連結しています。クラウドを用いればエクサバイトでも可能です。春二佐」
いきなり背骨に鉄筋でも打ち込んだような声音で返答が帰ってきた。
「了解、これから機を降りてそちらに向かう。」
「いえ、自分がむかいます。機体周辺に近づく許可を願います」
「接近を許可する」
私の音声を認識してアリスはデータ破壊コマンドと重要機密保守装置を停止した。
作戦中のMUならばデータ消去と機密部品の爆破装置ぐらいは作動している。
というか陸自の方から許可を求めてくるのが意外だった。
そういえば高橋二尉はアリスを通じてMUのことをよく知っているのかと、なんとなく納得した。
続いて試着室のように4方向にカーテンを垂らした着替え用スペースらしいものを女性隊士が押してきた。
「そのぉ、センサースーツがあまりに煽情的であると一部から指示が出てまして・・・上に作業着の着用をお願いします」
高橋二尉が顔を真っ赤にしながら連絡している。どうせ指示を出してきたのはアグレッサー部隊の部下の面々だろう。彼らなら普通に佐官が混ざってるし・・・
通信機で陸自隊士に了解の指示を伝えながら、コクピットを空けて女性隊員に着替えを手伝ってもらうことにした。それにしてもこんなにのんびりしてていいのかな?
更新は急いでいるのですが遅れまくりです。
気長に待ってください。