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意思疎通目指して

計算尺の使い方わかるかな?そこらへんはネットでお願いします。

 「え?・・・もう一回言って。アリス」

 海自3佐の春うららは感情が感じられない声で人工知能アリスに尋ねた。

 「繰り返します。現状では人工の発生知性体のチックの確認はされましたが、対応の高橋二陸尉の精神的強度は破断寸前と推定されます。そして高橋陸尉が対応から抜けた場合に50年以内にチックの手により地球が消滅する事象が発生する可能性が0.046‰増加します。これらは疑似量子プログラミングの予測演算によるもので、主演算は国防省所有の計算機「富岳2」の結果に基づくものです。」

 「つまり我らが21航空分隊では検算すら不可能といううことね。それは理解したわ。でもなんで地球が消滅なの、そんな予測すら聞いたこともないわ。」

 「チックの集積回路が時間経過とともに接続設計を変更しています。これに用いられるのが物質―反物質の対消滅による熱エネルギー(陽電子や反陽子の個数での制御)が一番高いという可能性が出ました。この制御を捨てれば対消滅反応が暴走して地球が恒星になる可能性が捨てられないということで論述されてます。」

 「でもそれだけの反物質の量とか・・・」

 「それゆえに0.046‰なのです。事象としては2万分の1以下です。宇宙からの天体に当たって死ぬ確率が70万分の1といわれますので無視するには多い要因と判断し報告しました。」

 

アリスの説明を聞いているうちに疑問が浮かんできた。

 「ちょっと待って陸自はどう対応してるの?まさか高橋二尉にまかせきりで放置ではないわよね?」

 「そのまさかです。」

 アリスの声は感情がなくその分だけ生々しく感じられた。

 「陸自の組織としては動いたが対応できなかったという結果のようです。」

 アリスの説明によると西部方面軍が主体となって対応チームを作ろうとしたのだが、人員の選抜基準が決められず、志願者を募るところまでいってないという状況だった。

 「基本的に高橋二尉は優秀です。その人間を手伝え、間違えると世界崩壊の恐怖に耐えられる人物が必要です。」

 言われて気が付いた。

 何しろミスすれば地球が吹き飛ぶ可能性があるがその引き金が何かわからない。そんな状況で次の手を模索できるとすれば人間ではない。それこそ失敗を恐れず事象を分析し続けるAIの独壇場だろう。

 しかし今回はAIも使えないというか、決断に参加できない。

 AIの思考ルーチンとして可能性0が考えられない。

 可能性0を設定しようとしてもその条件が広すぎて0に近づけようとするほど荒唐無稽な条件も計算に入れなくてはない。さすがに計算リソースの無駄と思われる。

 しかしティックがどのように考えどう反応するかの推測は高橋二尉が最適で、それ以外の人間が手出しすれば邪魔になる可能性が高いだろう。

 とはいえすべてを彼に任せても、最悪だとエネルギーの塊になるのは事態を知ってしまった以上私も人間として関与したい。

 たとえ蟷螂之斧でも彼を支えて満足して消失したいものである。

 「アリス、上申書」

 「宛先、第21航空分隊経由で防衛大臣政務官まで。題名人工知性体の問題解析に関する人員選抜に対する立候補について」

 やってしまった。陸自内部問題に空自幹部が介入することは、おそらく譴責以上の罰則がくるだろう。だがAIを育てている仲間としてその孤立無援を見過ごすわけにはいかない。


 さらにはAIを育て上げた力量だけみてもアリスを育てた自分が何もせずに事態を放置することは性格として受け入れられない。

宇宙の塵となろうとも自分が関与して得られた結果として受け入れたい。

上申書の内容はアリスのライブラリー検索能力もあってスムーズに作られた。

とはいえロゼッタストーン無しにヒエログリフを解読できないように、解体新書の和訳のような作業が必要となるだろう。アリスとうららのコンビがどこまで彼を手伝えるのだろうか?


高橋はティックの思考を追うのに未だ有望な手法を見いだせなかった。

なにしろ相手の思考は次の瞬間には回路ごと全部変わっていく。

そんな中でこれまでの記録が脈絡あるとは限らない。

しかしそんな中でもグラドルの通信性能は維持されている。

ということは回路にかかわらず、いや回路が変形されていることから物理的回路の一段階上の次元での思考が保たれていると考えるべきだろう。

その記録した内容をどう表記するかで困っていた。

結局3次元プリンタを使い3次元的に動かせる計算尺をつくっていた。

目盛りは数字だけではなく漢字やカタカナ、記号にあふれたものになった。

まったく予想もしてなかったが、二つの文字の目盛りを合わせることで結果のある単語に結びつくようになった。

このへんは空自21航空分隊のAI アリスの示唆によるものが多い。

とはあれあくまでも何を言ってるかがわかるようになってきただけで、しかもデジタルには翻訳できない。あくまでもアナログ的に目盛りが指し示すだけである。

ゲーム理論の「しっぺ返し戦略」も「主人と奴隷戦略」も意味をなさなかった中での大きな成果であり、意思疎通ができる可能性として、永久スキンヘッドになりそうな機会を失った喜ばしい事態ではある。

とはいえなんで日本語なんだろうと思う。

プログラム言語の元の英語ではなく数字でもない日本語の目盛りで会話が成立しそうである?

このへんはアリスと協議しようとしたが空自の機密にふれるデータ元に触れるらしく回答を拒否された。

21航空分隊が全面協力してくれればありがたいが空自のアグレッサーが陸自のアグレッサーと同一作戦をとるとも思えないし、上官も協力してくれないだろう。それこそアリスが冗談で言っていた地球破壊爆弾でもない限り共同作戦は官僚主義の厚い壁で押しつぶされるだろう。

万が一あったとしてもアリスは守秘義務から教育係以外にそれを漏らすことはないだろうし自分がそれを知ることもないだろう。




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