猿の前説。その②
それからなんやかんやあって今に至る。
なんやかんやは本当になんやかんやなのだ。
なんやかんや説明されて、俺がその勇者とかに選ばれたこと。この世界の言語はわかるようにしていること。チート級の火属性魔法を授かったこと。そして、そのまま異世界へ転生されてしまったこと。
俺に拒否権はなかったらしい。
女神が言うにはこの世界、どうやら魔王軍の危機に瀕していていつ世界が滅んでもおかしくないんだとか。
それにしてはこの辺りは平穏すぎるのだが…。
不本意だが転生されてどうのこうの言ってもいられない。いや、言いたいのは山々だが、こうも実際にされるとなるとなんとも言えない。
転生された場所のはただ一面の草原、空は澄み渡り日は天高く登っている。優しい風が心地よく肌を撫でる。他には…チラホラと遠くにこの世の物とは思えない…ドラゴンかあれ?
翼が生えた恐竜のようなものや半液状化しているスライムらしきモノ。理性の欠片もなさそうな半獣人みたいなモンスター…。
どうやら異世界は本当らしい。
異世界欲張りセットのオンパレードみたいな世界だが俺は生きていけるのか。
不安しかないこの状況をなんとかするには…。
「冒険家ギルドに行けばわかると言われたが…どうしたもんかな…」
冒険家ギルド…女神はそう確かに言ったのだ。
冒険家ギルドに行って冒険家になればなんとかなります。大丈夫、あなたにはチート級の火属性魔法…
「モンキー・マジック」があるのですから。
どうやらモンキー・マジックと言うのはチート級の魔法の名前(詠唱?)らしい。
転生されたあと、少し気になって試しに手を上へ高く掲げ、心の中で祈る(念ずる?)と本当にでたのだ。結構でかいの。そこからは飽きるまで手から火を吹いた。そりゃ誰だって手から火が吹けばテンションは上がるだろう。俺だって健全な男子高校生だ、魔法には少なからず憧れもある。そういうもんだろ。
一面草原の中心で俺は一通り火を吹いて満足すると体に違和感(不快感と形容するほうが正しい気もする)を覚えた。
目を下にやると両腕にはドス黒い痣のようなものができている。
痣というより模様に近い気がしないでもない。
「な、なんだよ…これ」
これは後から知ったことだがどうやら魔法が使えるのも無限というわけではないらしい。
術者が持っている体内魔力には個人差があり
体内の魔力を使い切る、または体内魔力より強力な魔法や容量のオーバーをすると生命の充電切れ
(オーバードーズ)がおこる。つまり死ぬ。
そうならないためにこの世界ではある1フェーズからフェーズ4ごとに区切られ体から危険信号が送られる。詳しい説明は省くがこのときの俺の状態はフェーズ3と呼ばれ死の直前にたっていた。
とにかく魔力というのは体力に近い感覚で時間が経てば徐々に魔力も回復し模様も次第に薄れていったのが幸いだったとも言える。