ギルドからお帰りください。
最悪だ。
よりにもよって今日か。
明日は長期休暇だったのに…!
わかってる。そう、このパターンは長くなるやつだ。
私のお休みが削られるやつだ。
こんな事ならあのもやし野郎で最後にすべきだった。
めんどくさがらず自分の足で掲示板に向かい
今日はもういいやとギルドを閉めるべきだった。
くそっ…!まだ業務時間一時間あるじゃねぇか…!
「ん?話、聞いているか?ここはギルドなんだよな?」
「…あ!すみません、はい、ここが冒険家ギルドです。ご用件はなんでしょうか?」
自分の怠惰と空気を読まない客を憎むより先に
まずは接客モードへと切り替える。
こうなってしまった以上仕方がないと、私はひとまずは心の中でケジメをつける。
「そうか、じゃあさ冒険家になりたいんだけど…ここで受付してくれるか?」
そう言って男はグイッと私の顔へ近づく。
近い、こいつは距離感を知らないのか。
「冒険家登録ですね。お任せください!」
気持ち後退りしながらも笑顔を絶やさない。
「(チッ…やっぱりか…。)」
しかし、心の中では舌打ちをする。
決して冒険家登録が苦手なのではない。
ただ、こんな夕方に冒険家登録をしてくる奴は大抵ろくな奴はいないのだ。私の受付嬢としての勘がそう言ってるのだ。
「では、冒険家登録と言いますと最初は皆様Fランクから始めていただくことになりす。その為には職業の選択とついての筆記試験、実技試験、を受けさせて頂きます。」
「職業はなにがあるんだ?」
「Fランクからですと剣使いと弓使い、盾使いがございます♪ランクはFランクからSランクまでございますが功績や魔術試験で認められると上げられます。また、それ以外でも例外はございまして、例えばですと…」
「いや、そんな事はどうでもいいけど、職業ってそれだけ?なんかイメージと違う気が…」
イラァっ…!
人の話を聞かないタイプの人か…しかし、私も関係ない話をしていたのだ仕方がない。ここは私が大人にならねば。
「…えぇ、もちろんこの3つだけではございません。
Fランクは剣使い、弓使い、盾使いしか選べませんが
元々魔術学校に通ってらっしゃって試験などで
魔法を習得した方などは魔法使いとなりますし、魔法使いはBランクからスタートとなります。そして剣使いなども経験を積めば更に上の剣士、短剣士、両剣士などや、ランクが上がれば上がるほど増える職業もございます。盾使いや弓使いも同様ですね」
「え?魔法使いもあんの?」
「もちろんでございます」
「じゃあ俺は魔法剣士になろうかな。」
とことん人の話を聞かない人らしい。
魔法学校に通っていたやつってんだろ。
こんなやつが私と同じ魔法学校出身とか世も末である。
同じ魔法学校だったらどうしよう。
まぁ、そんなことは絶対にないのだが。
「お言葉ですが…魔法の許可書などは…?」
「ん?なにそれ?そんなの必要なの?」
「はい!(いるに決まってんだろ!)」
全ての魔法には許可書と呼ばれるものがいる。
簡単に言うと免許証みたいなものだ。
これは、魔法使いや受付嬢ももちろん、野良での魔法が使える人も国家からの許可書を貰わなければならない。
これは義務であり、守らないと重い刑罰を食らうことになる。オリジナル魔法も例外ではない。
しかし、この許可書は私達受付嬢にも重要なもので
受付嬢の更新や身分証明書、などにも使用するし、
これを持っていないと、どんな偉い人であれこの国では
犯罪者に早変わりだ。
「でも、俺魔法使えるよ?ほら」
そう言うと男は手のひらを上に向け火柱を出した。
それも結構大きめのやつ。
私はこの流れをよく知っている。
いや、大抵の受付嬢なら誰もが経験する道だ。
しかもここは冒険家を多く排出する町ファスト。
そこで一番冒険家と関わるのはこの私、カテリーナだ。
そんじょそこらの受付嬢よりこんな奴に出くわしている。慣れるなと言われるのが無理な話だ。
「ちょ、ちょっと!お客様困ります!」
この台詞も何度目の台詞だろう。
俺、魔法使えますけど?みたいなアピールでマウントをとってくる男にろくな奴はいない。
「あぁ、火加減はしっかりしてるから大丈夫だって」
大丈夫じゃねぇんだって!
心でツッコむも当然だが許可書を持っていない犯罪者には届かない。
「そうではなくて!ここは火気厳禁なんです!」
もちろんそれは嘘だが。
冒険家ギルドの中でやっている酒場では普通に料理で火は使うし別に火気厳禁と言う訳ではない。
ただし、限度と言うのはある。ここ木造だし。
「そうだったのか?すまん、こっちに来てから勝手がわからなくてな。」
「いえ…誰しも間違いはございます。わかってくれればいいです。では、早速ですが冒険家として登録させて頂きますね。ですが…許可書をもってないのであれば冒険家には登録できませんね…。」
「やっぱりその許可書?とやらは必要なのか?」
「はい。魔法を使えるのであれば許可書が絶対に必要なんです。」
そうしてあらかたなぜ許可書が必要なのか、5分ほど丁寧に説明したら納得してくれたらしい。話は聞かないが、話せばわかるらしい。
「つまり、この町のお偉いさんに魔法を使えることを説明して、そのお偉いさんから国のお偉いさんに伝えてもらって許可書をもらって…始めて魔法使いになれる資格があるってことで間違いないな?」
「ええ、簡単に言えばそうなりますね。町のお偉いさん…町長がいる役所までの簡単な地図をお渡しするのでそれに従って役所に行ってくださればあとはそちらの役員さんにでもその旨を伝えれば勝手にやってくれると思います」
冒険家ギルドからでも一応許可書の発行願いは出来るし
いざとなればギルドだけでも発行は出来るのだが
面倒ごとは他人に任せるのが一番だ。
役所の役員さんごめんなさい。
「なにからなにまでしてもらってすまない…。」
「いえ、これが仕事ですから」
私のした仕事説明しただけどな!
悪い奴ではないらしい。
男は軽く私に会釈すると
ギルドから去ろうとしていた。
「あっ!すいません!少し待ってください!」
私はそう言って引き止める。大切なことを忘れていたのだ。
「ん?なんだ?」
「いえ、良ければですけど許可書に必要な個人情報などをこちらの紙に書いてくださればあとでまとめて役所に送れますが…」
「…それをするとどうなるんだ?」
男は少し、怪訝な顔で伺う
「役所での必要な手続きが省かれます」
確かに省かれはするが、それ以上にこの男の個人情報が必要だったのだ。もちろん拒否権はない。
「わかった。この紙に書けばいいんだな?」
「ええ、お手数をかけてすみません…。」
「いや、謝らないでくれ。こっちはここまでしてくれて感謝したいほどだ」
心はイケメンらしい。顔もなかなかにイケメンだが。
しかし、こいつは冒険家であり私は受付嬢だ。
そんな禁断の恋は…いや、ない、絶対ありえない。
「ん、書けたぞ。これでいいか?」
「はい拝見いたしますね」
私はサッとこの男が書かいた個人情報を見通す。
他の情報はどうでもいい、大切なのはこいつの出身地だ。
「えっと…ニホン…?」
やはりビンゴだ、この世界にニホンなどと言う地名も国名もない。つまり、この世界に存在しないのだ。
さて、今回も皆を収集して会議をしなくては…。