2030年4月第2週
4月8日(月)
今日の授業はまだまだ楽な方だった。でも慢心せず勉強していこう。
学園の近くに美味しいカレー屋さんがあることを聞いた。手がないから自分では食べられない。
隣町に建設中だったアミューズメント施設がとうとう開店するらしい。生徒達も休日なら行くかもしれない。
―――――――――――昼休み
羽陽「放課後はなにしよう……それよりもお腹減ったなぁ」
中庭の芝生が生えている場所に寝転がりお腹を撫でる。今日はお弁当制作に失敗してしまい半分くらいの大きさのお弁当しか作れなかった。それでも驚かれてたが。私って大食らいのイメージが広まっているらしい。女子生徒から「そんなに食べて大丈夫!?」と聞かれたこともあるが一緒に食事をしたことはない。人間から見たら汚い食べ方だから人前で食事はするなって言われた。
羽陽「きゅうぅう……」
あまりに腹減りな状態が続けば午後の授業に支障が出るかもしれない。寮に戻ってご飯を食べよう。
―――――――――――放課後
羽陽「なにしようかなぁ。」
グラウンドは相変わらず運動部が使っている。今日は文化部の見学でもしようかな。
羽陽「今日部活を行っている文化部はっ……」
アカペラ部と吹奏楽部と生物部と将棋部と戦争部とEスポ部。この中で手が使えない私でも出来るのはアカペラ部と生物部かな。どっちにしようか悩みつつ少しだけ空模様を見る。いい青空だなぁと思うだけだった。
羽陽「歌好きならアカペラはありかも。場所はどこだろう?音楽室?」
―――――――――――音楽室
羽陽「アカペラ部は今やってますかー?」
「新入生さん?……おぉ!噂のハーピーの留学生さんですね!ささ、こちらへ!」
予想以上に大変なことになりそうだぞと思いながら他の新入生が座っている場所に座る。少し邪魔になってしまうかもしれないため若干離れた位置に座る。どうやら今は歌うパートのことを説明しているらしく知らないことばかりだった。
「なにか歌ってみたいパートある?」
羽陽「うーん……アタシ声が高いからソプラノかなぁ……」
首を傾げながら自分が良く歌っていた音域を考えて答える。多分人間に当て嵌めるとしたら【ソプラノ】で正解だろう。そして全員で校歌を歌うことになった。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪
羽陽「……あれ?」
気が付けば私以外全員倒れている。少し耳を澄ませば寝息が聞こえてくる。どうやら自分以外全員寝てしまったようだ。
羽陽「こ、これってアタシのせい……?や、ヤバーー……」
苦笑いしつつ忍び足で音楽室を出た。アカペラ部は無理と判明した。
しかし久し振りに歌を歌えたので少し気分はリフレッシュ出来た。
4月9日(火)
今日は特にめぼしい出来事はなかった。
食堂に【たこ焼き】が追加されたらしい。機会があれば食べてみよう。
図書館に新しい本が入ったらしい。新規の本はすぐに借りられちゃうから気になるなら行こう。
―――――――――――体育の授業
体育の先生「今日はサッカーをするぞ。経験者がなるべくバランスが良くなるようにチーム分けしてくれ。」
羽陽「サッカーかぁ……もしかして手がないからハンドにならないかも?」
「羽根に触れたらハンドだからね。」「うわぁ。そしたら羽陽ちゃん無理じゃん。」
ということでチームの振り分けが終わり私は【ゴールキーパー】をすることになった。
試合が開始すれば一つのボールに群がるチームメイトを見て少し「うわぁ…」と言ってしまった。
桜「あ、羽陽ちゃん……あのっ……」
羽陽「桜ちゃん。アタシに何か用ー?敵チームだからアタシを油断させようって作戦ー?」
桜「いやいやいやっ……そんなことじゃないよっ……あの、その…今度の日曜日……?」
そういえば桜ちゃんとは【今度の日曜日に遊ぶ】と一昨日約束していた。と、いってもこれといった遊ぶ施設は知らないし桜ちゃんがどういったモノで遊びたいのもわからない。
そういえば隣町にアミューズメント施設が開店したんだっけ。
羽陽「大丈夫だよ。覚えてる覚えてる。何処で遊ぶのかは全然決まってないけど。」
桜「あ、そ……そうだよねっ……あのね。この近くに公園があるんだけど……大きい公園なんだけど……どう?」
羽陽「どう?って言われても……そこに行く?」
桜「ああぁっ……い、嫌なら遠慮なく別の場所でいいからねっ……私羽陽ちゃんの行きたいところに行くからっ。」
そんな雑談をしていればボールホルダーがこちらのゴールめがけて突っ込んでくる。当然、止められる人などいないため私が頑張って止めなければいけない。
「そりゃあー!」
勢いよくシュートをしてくるが全然遅いし全然動きも予測しやすいため楽にボールを取れてしまう。今まで狩っていた餌の方がまだ元気よく暴れまわっていたためなんか拍子抜けな気持ちになってしまった。
羽陽「これ、取ったけどどうすればいいの?」
桜「あ、味方に投げるの。味方分かる?」
羽陽「味方くらいわかるよー。」
その返答に苦笑する桜。そして味方のチームメイトが「ボールちょうだーい!」と手を振っているのが見える。蹴ってもこの足ではあらぬ方向へ吹っ飛んでしまうだろうから丁寧に投げる。
その後は特に何も展開無く試合が終わった。私は3回ゴールを阻止してみんなから「羽陽はゴールキーパー禁止」と言われてしまった。羽根が大きいため広げただけでゴール不可能の鉄壁が完成してしまうかららしい。
先生から部活悩んでいるならサッカーにすればいいんじゃないかと提案してもらった。
先生から【食券】について教えてもらった。学校内でボランティア活動をすればそれに応じて食堂で使える【食券】を貰えるらしい。学校外では働くことがほぼ不可能な私にとってみればいいお知らせだった。
図書館で本の整理整頓の仕事が空いているらしい。
中庭でゴミ拾いの仕事が空いているらしい。
音楽室で楽器の整理整頓の仕事が空いているらしい。
プールでプール掃除の仕事が空いているらしい。
学生寮で掃除の仕事が空いているらしい。
―――――――――――放課後
羽陽「なにしようかなぁ。」
中庭を歩いていれば三雷と出会った。
三雷「おぉ。これはこれは。羽陽さんではないか。いやー偶然の出会いというのはあるものだね。」
羽陽「一人でなんて珍しいね。アタシに何の用?」
三雷「実は親交を深めるために新入生同士集まってパーティーを開こうと思っているんだ。勿論参加費など野暮なことは言わないさ。」
にっこり笑いながら私の隣を歩く三雷。取り巻きの女子が居ないのは珍しいなぁと思っているだけで話など全然聞いていなかった。
三雷「それで羽陽さんも来ないかい?美味しい料理は沢山ある。勿論満足するまで食べ続けても良いよ?」
羽陽「うーん。パーティーはいつやるの?」
三雷「今週の土曜日さ。授業もなく丁度いいだろう?羽陽さんも友達などいるのなら遠慮なく誘ってもいいさ。」
土曜日は今のところ予定無し。忘れなければ多分大丈夫だろう。
羽陽「忘れなかったらね。というかパーティーを行う場所すらわからないんだけどね。」
三雷「おおっと失礼。俺としたことが。パーティーは俺の家で行う予定さ。場所を教えてあげよう。」
そう言い生徒服の内側からメモ帳と高そうなペンを出してからスラスラと何かを描いていく。
渡されたメモ紙にはしっかりとわかりやすく学園から三雷の家までの行き方が書いてあった。
三雷「これを見ればしっかり辿り着けるはずさ。」
羽陽「……お腹減ったなぁ。」
正直三雷のことは全然興味がないためすっかりお腹が減ったことの方が重要になっていた。
今夜の献立も考えなければならないためそちらの方に頭が働いてしまった。
三雷「この後暇ならまたご飯でもどうだい?」
羽陽「嬉しいけどこの前のレストランみたいなところは嫌だよ。手が無いのに道具を使う料理ばっかりでちっとも食べれなかったもん。」
三雷「あぁ。そのことは失礼した。周りの子も満足いくような料理と言えばあのレストランくらいしかなかったのさ。」
羽陽「アタシのために全部捨てる覚悟がないんだー♪へぇー……」
羽根を口元に当ててクスクス笑いながら驚いて固まっている三雷をそのままに中庭を後にした。
羽陽「んー。図書館に行こう!」
―――――――――――図書館
図書館では現在本の整理整頓の仕事が空いている。
図書委員「羽陽さん。お手伝いに来たのですか?」
羽陽「うん。なにすればいい?」
図書委員「では図書館にある本をちゃんと【あいうえお順】に【並べ替えて】ください。」
羽陽「全部?」
図書委員「可能な限りでいいですよ。それに羽陽さんは読めない漢字とかありそうですし……」
確かに日本語は難しい。だがそういった壁を乗り越えて今ここに私が居るのだ。私が優秀なハーピーと知らしめるチャンスでもある。
サクッと終わらせてしまおうと思った。
◇◆◇◆◇◆
羽陽「おーわり!」
図書委員「えっ。もう終わったんですか?」
羽陽「終わったよ。うん。完璧。」
自分でも驚くほどスムーズに整理整頓が出来た。振り仮名がない難しい漢字もあったり片仮名だったりと確かに勉強してないと大変だっただろう。
だが私は優秀なハーピー。このくらいおちゃのこさいさいなのだ。
図書委員「羽陽さん。今日はありがとうね。はいこれ、お礼の【食券】」
羽陽「やったー!ありがとう!」
【食券】には【釜揚げしらす丼(小)】と書いてあった。使用期限は【2030年1学期まで】と書いてあった。気を付けよう。
4月10日(水)
今日は特に何もない日だった。授業は余裕だ。慢心せず勉強しよう。
―――――――――――放課後
羽陽「なにしようかなぁ。」
勉強も大丈夫だし部活もまだ仮入部の期間のためそれほど本腰を入れた活動をしていない。
そういえば最近飛行していないことに気が付いた。そろそろ1週間が経つためたまに飛行しないといつの間にか飛べなくなってしまうだろう。
羽陽「今日はお散歩しよう。」
気分に従って学園から散歩していたら商店街に辿り着いた。
色々な食材や総菜が比較的安価で売っている。
肉屋のおばちゃん「あら。そこのお嬢ちゃん。もしかして噂の留学生さん?」
羽陽「あえ?今のアタシに話しかけた?」
肉屋のおばちゃん「お嬢ちゃん以外誰がいるのよ!こんな寂れた商店街によく来たねぇ。」
威勢が良くハキハキと喋るおばちゃん。故郷にはこんなにハキハキと喋るハーピーが居なかったためかなり新鮮な感じになった。
今回はサービスとしてメンチカツを3つ貰った。餌付けじゃないと思いたい。
4月11日(木)
今日は特にめぼしいことは起こらなかった。
Eスポ部と吹奏楽部が入部を締め切ったらしい。
食堂の皿洗いのお仕事が空いているらしい。
―――――――――――社会の授業
社会の先生「で、あるためー。我々人間と異種族はー」
羽陽「(眠い……)」
社会の先生「ここで問題だ。羽陽!異種族と人間の間で現在交わされている条約はなんだ!」
羽陽「ふぇっ!?えっと……【人魔共同交流法】です!」
社会の先生「正解。よくわかったな。と言いたいが留学生にとってみれば当たり前だったか?」
苦笑して電子タブレットに目を落とす。正直事前に学んだ内容ばかりなので別のことを考える時間が多い。しかし人間の歴史は学んでおいて損はないだろう。
―――――――――――放課後
羽陽「なにしようかなぁ。」
特にやることもないためそんな大げさなことをしなければ何でも出来そうな感じ。
学校内でも今日は人が少ない。
羽陽「今日は遊覧飛行しよう!」
遊覧飛行。自由気ままに飛び続けることで故郷に居た時は良く編隊を組んで飛行していたり紅白戦で遊んでいたりした。
羽陽「誰か連れて行こうかな……と思ったけどそこまで仲良しな人は居ないかぁ。」
苦笑しながらグラウンドに行って飛行を開始する。人間の街は電柱など多くて大きめの鳥には飛びにくそうな地形をしているなと改めて思う。上空に行けば久し振りの感覚につい頬が緩んでしまう。
桜ちゃんが言っていたであろう【大きめの公園】を発見した。噴水もあって木々も生えている。空気が美味しそうだと思った。
【三雷の自宅】を発見した。野球とサッカーとハンドボールを同時に行えるグラウンドより広いってとんでもない家だなぁと思った。
4月12日(金)
今日は何もない日だった。授業はまだまだ余裕である。慢心せず勉強しよう。
明日は三雷の家でパーティが開かれる。服は特に変更はしなくていいのかな。故郷から持って来た服を確認しておこう。
4月13日(土)
今週は第2週のため土曜日は授業はない。
羽陽「なんだこりゃー?」
学生寮のポストに私だけ紙が入っている。悪戦苦闘しながら紙を見れば三雷の家で行われるパーティーについて書かれていた。そして「羽陽さんにだけ特別」と書いてあった。あの人間の何が私への興味を持たせるのだろうか。
とにかく今ある服を確認しておかないといけない。他人の家にお邪魔するのだからそれなりにちゃんとした服が必要だろう。
―――――――――――三雷宅
羽陽「うわ。うわうわうわ。空からでも広いと思ったけど間近で見るとさらに広く感じるなぁ。」
門番「何か御用ですか。」
羽陽「あぁ。呼ばれているんだけど。」
背が高く黒いスーツを着ている男がそう言いながら私に話しかけてくる。
そのためポストに入っていた紙を見せると畏まって門を開けてくれた。
三雷「羽陽さん。いらっしゃってくれたんですね。ありがとうございます。」
羽陽「まだ誰も居ないじゃん。」
料理だけ並んでいるこの状況に少し不満を覚えてしまう。
三雷「羽陽さんには沢山食べてもらいたいですから。ちゃんと御付きの人も用意していますよ。」
羽陽「そんなに丁寧な口調出来るのになんで一人称が俺なの?」
三雷「えっ。あぁそれはなんというか癖みたいなもので。男子校でしたから。」
過去話をしながら料理を食べさせてもらう。確かに美味しいが話を聞きながら返事しながらと味に集中出来ないのが少し嫌だった。
時間が経てば学生服を着た人間が入ってくる。細かい所を見れば確かに全員1年生だとわかる。
羽陽「……え。なにちゃんと着てきたのアタシだけ?」
私がちゃんと学生服以外の服を着てきたことに意外と思っている人間が案外多くて少し文化や考えの差を感じてしまった。少なくとも後2年は一緒なのだからこういった差も埋めていかねばならないと思った。
料理は肉料理が美味しかった。
三雷は特別なクラスに所属していると聞いたが単純に一番賢い人間が集まるクラスだった。教室が同じ階層なので朝や昼休みにまた会うかもしれない。
4月14日(日)
今日は桜ちゃんと遊ぶ予定になっている。服はちゃんと溶け込めるような服にしよう。
桜「ごめん羽陽ちゃん。待たせちゃったね。」
羽陽「別にー?待つのは慣れているからそんな謝らなくてもいいよー?」
意外に可愛い白のワンピースを着てきた桜。似合っているとはこういうことを言うんだなぁと感じた。こういった服は駅前のデパートなどで買えるらしい。夏休みや年越しの時に投げ売りされているらしいから覚えておいて損はないとのこと。
桜「羽陽ちゃん。何処に行こうか。」
羽陽「うーん。カラオケ?」
桜「カラオケ?」
桜の返答に無言で頷く。ということで隣町に出来たアミューズメント施設に行くことになった。私は電車には乗らないため飛んで行ってそこでまた合流ということになった。
―――――――――――施設前
桜「羽陽ちゃん。もう到着していたの?」
羽陽「空は障害物が無いからね。ピューンと楽だよ。」
桜「いいなぁ。私も空を飛べたら羽陽ちゃんと一緒に……いや。なんでもない。」
首を傾げてアミューズメント施設に入る。代金は桜ちゃんが払ってくれるとのこと。やっぱりこういうところで遊ぶとなると少なからず人間が行っている仕事をやらなければいけない。しかしハーピーであり手が使えない以上内職も無理だろうし飲食店も無理だろう。
桜「羽陽ちゃん。何か悩むことがあった……?」
羽陽「桜ちゃんにばっかり払わせることになりそうだからちゃんと働けるところがあるならそこで人間の金銭を稼がないとなぁ~って。手が無いから本当に限られたところでしか働けないけどね。」
アミューズメント施設では色々な娯楽がある。ローラースケートとバルーンサッカーは出来ないしホッケーもバスケも手が無いから出来ないし。色々出来なくてがっかりした。
しかし遊べるものは一応はあるためそれを目一杯遊ぶだけだ。
桜「カラオケだね……羽陽ちゃんかなり美声だもんね。鳥さんみたいで凄いと思う。」
羽陽「鳥さんじゃなくて鳥だもん。ハーピーだよ?」
少し頬を膨らませてカラオケをスタートさせる。色々な曲を聞き続けては色々な歌い方があることを知った。暫く一人で歌い続ければいつの間にか桜ちゃんが寝ていた。
羽陽「桜ちゃ~ん。ねぇ。起きてよー。起ーきて。」
羽根で軽く桜ちゃんを揺らして起こす。眠たそうに起き上がる桜ちゃんに軽く苦笑する。どうやら私の歌を聞き続けていたらだんだん眠くなってきて気が付いたら寝てしまったらしい。寝ていたことに関して桜ちゃんは謝っていたが別に謝ってほしいから起こしたわけではないとちゃんと伝えた。
桜「羽陽ちゃん。そろそろ時間だよ。」
羽陽「あれ?もうそんな時間?」
桜「うん。羽陽ちゃんは時計持っているの?」
羽陽「持っているわけないじゃん。いつも太陽とか見て時間を確認しているんだよ。」
首を傾げていつも行っていることを言えば桜ちゃんが驚いた表情をして手首に着けていた時計を私の羽根部分に着けようとしていた。しかし当然人間用の腕時計がハーピーの羽根部分に巻けるわけがなく、桜ちゃんはそのことに少しがっかりしていた。
桜ちゃんとの親交が進んだ気がする。
桜「は、羽陽ちゃん……今日はありがとう。先週無理言ってゴメンね…?」
羽陽「学校でもそのくらい喋れれば友達出来ると思うよー?というか全然暇なんだから大丈夫だよ。」
そう言い今日のことを言い合いながらのんびりと歩いて学園まで一緒に帰ってきた。
学園に着けばそのまま別れてまたいつか遊びに行こうと約束した。
因みに桜ちゃんは隣のクラスの生徒だった。