予期せぬ来訪者
ほんの一時ではあったが、楽しい時間だった。
些細な短い挨拶程度だが、お互いの意思が分かった。これ以上にない幸せだ。
「……また会えるんだ。楽しみだな――……!!」
高ぶった感情を消し去る様に、嫌な気配が鼻をくすぐる。
僕の周りに5匹のオオカミが姿を現したのだ――!!
「お前はホロケウと一緒にいる奴だな?ここがどこか分かっているのか――?」
迂闊だった。ここは彼らの縄張りだったのだ!
縄張りでよそのオオカミが入ると、機嫌を悪くさせるものなのだ……!
「悪かった。別にここで食料を取るつもりは毛頭ない。すぐに立ち去るよ」
そう言って、この場を去ろうと思ったが行き先を遮られてしまう。
「待った。お前はホロケウと仲が良かったな?あいつほど綺麗で強いメスオオカミはいない。ホロケウを俺によこせ」
「なんだって――!!」
ホロケウは口調はオスの様に強いが、実際は美しいメスのオオカミである。
このグループのリーダーオオカミが気にいるのも無理はない……が、
「それは出来ない。ホロケウは大事な友人だ。あいつと狩りが出来ないと生きていけない」
僕は力強く言い放ったのだ。
ホロケウは足が速く、獲物を仕留める能力が優れている。
僕はホロケウには及ばないが獲物の場所を探すことや吠える事に関しては一番である。
僕達2匹が組むことで獲物を確実に仕留める事が出来る、最高のパートナーなのだ。
「絶対にわたさない――」
僕は本気で周りのオオカミ達を睨む――。
「――!わ、わかったよ!見かけによらずお前もやるようだな」
オオカミ達が一斉にひるむのがわかった。
よし、早く立ち去ろう。
「――だが、5対1ならどうかな――!!」
僕目掛けて襲い掛かる――!!
遠吠えでホロケウを……と思ったが、そんな時間は与えてくれない!
1匹、2匹と……と鉤爪で身体を押さえつけて、噛みついてくる!
渾身の力で振り払い、敵の喉元目掛けて噛みつく!
激しい戦いが続く!
負けるわけにはいかないが……やはり分が悪い。
ホロケウがいれば何とかなるかもしれないが、数で責められたら勝ち目がない……。
しかし、負けられない!またユクコロに会うためにも!ホロケウを取られないためにも……!
***
無我夢中だった。自分の命を守るために全力で戦った……!
身体中が痛い……!身体が重い……!目まいがする!
敵はほとんどやっつけただろう。
周りにはぐったりと雪原に寝転んでいるオオカミ達の姿が見える……が、リーダーオオカミの姿が見えない!
「……逃げられたか。まあ、いい。あいつも諦めただろう」
僕は精一杯の力を込めて遠吠えをする!
『ホロケウーーーー!助けてくれ!!』
…………しばらくして、聞きなれた声が聞こえるが、僕の意識はなくなる……。