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彼方よりの使者

俺が謁見の間の前に立つと大きな扉を兵士二人が両側から開けてくれる。


「おお、来たか王子よ。待っておったぞ、とりあえずこっちへ来なさい」

国王が手招きする。


謁見の間にはいつも通り、部屋の端に衛兵が並んでいて大臣が国王の横に立っていた。


そして国王の前には見知らぬ人間がひざまづいている。


俺が国王の隣に立つと国王が声を発する。


「頭を上げてよいぞ」

「はっ。失礼いたします」


ひざまづいていた人間が顔を上げこっちを見上げた。

顔を上げたのは年のころは五十代半ばくらいだろうか、年季の入った鎧を着たおじさんだった。


「王子よ、この者はコンラッドといってあの大国パデキアからの使者じゃ」

大国パデキア? 初めて聞く名だ。


「そうなのですか。それで……」

俺に何の関係が?

「詳しいことは本人から聞くとよい。さあ話してみい」

「はっ」


コンラッドさんは俺の目を見据えて話し始めた。


「私はコンラッドと申します。パデキア国国王からの使いで参りました。早速本題に入らせていただきたいと思います。この国ではエメラルドの採掘量が並外れて多いそうで、それを聞いた国王が是非とも貿易協定を結びたいとおっしゃられまして私がこうしてやってきた次第であります」


「そうですか。それはようこそいらっしゃいました」

……で?

俺は国王を見る。

国王は俺と目が合うとうんうんとうなづき、


「この件は王子に一任したいと思うておる。よって王子にはこれよりこの者とパデキアへ行って国王と話し合いの場を持ってもらいたいのじゃ」

「……なるほど、そういうことでしたか」

いきなり大役っぽい仕事が回ってきたな。


まあ、暇だからいっか。


「わかりました。国王」

「ありがとうございます。国王陛下、カズン王子」

コンラッドさんが頭を下げる。


「ついては旅のお供として誰か一人を同行させるがよい」

「旅のお供ですか?」


国王が小さく手招きする。

俺が耳を近づけると、

「お主はこの世界のことをまだよく知らんじゃろ。さすがにお主を一人で行かせるのは不安なんじゃ。わかったか」

とささやいた。



俺はコンラッドさんと謁見の間を出た。


「え? そうなんですか。四十三才。へー」

「見えませんよね。はははっ」

「いや、そんなことは……」

「いいんですよ。よく言われますから」

コンラッドさんは見た目に反してかなり若かった。頭の感じからしててっきり俺の父親と同年代くらいかと思ってしまっていた。


渡り廊下を通るときに俺の作った畑が目に入る。

早く大きく育ってくれよ、そう思いながら歩いていると、


「いちにっ、いちにっ……」


とかけ声とともに兵士たちが庭を走ってきた。

中にはカルチェやパネーナもいた。


あいつらは忙しそうだな。


俺はコンラッドさんに城門前で待っててもらうように言ってから自分の部屋へと向かった。

部屋ではミアが部屋の掃除をしていた。


「あっカズン様。国王様の用事はなんだったんですか?」

「ああ実はな……」


あったことを伝えると、


「パデキアですか。わたしは行ったことないです。え……わたしが同行者なんてだめですよ絶対っ。わたしなんてなんのお役にも立てませんからっ」

「そうか、残念」


俺は王子の外出用のフォーマルな服に着替えると紅潮した顔のミアを残しエルメスのもとへと向かった。


やっぱりいろいろなことに詳しそうなのはエルメスだよな。


「嫌です」

エルメスは開口一番そう言って断った。


「いや、まだ話の途中だったんだけど……」

「どうせ私にパデキアまで同行してくれってことですよね。なんで私がパデキアくんだりまで旅しなきゃいけないんですか?」

「そんなこと言わずに」

「私はそういう体を動かすことが嫌だから宮廷魔術師になったんですからねっ」


エルメスは大きく首を横に振り、話を聞いてくれそうもない。

はぁ……まいったな。


俺は言いたくなかったがあの言葉を言ってみた。


「なあ、エルメス。カルチェとの姉妹水入らずの温泉旅行は楽しかったか?」

「なっ!? ここでそれ持ち出すんですか? 卑怯ですよ」

「卑怯で結構」

前に俺がプレゼントした温泉宿泊券で、この間エルメスは妹のカルチェとともに温泉旅行を満喫してきたのだ。


「恩着せがましいったらないですね」

「悪いな」

「せっかくあなたのこと見直したばかりなのに……はいはい、わかりましたよ。私が行けば――」

「待ってください!」

天井から声が降ってくる。


「パデキアには是非とも拙者に行かせてください」

天井の一部が外れるとスズが天井裏から飛び降りてきた。


「きゃっ、スズちゃん!? そんなとこで何してたの?」

「カズン王子を見守っていました」

「お前メイドの仕事はどうした?」

「今は休憩時間中なので平気です」

だいぶ侍口調も薄れてここの暮らしになじんできたと思っていたらスズはこんなことをやっていたのか。


「それよりエルメスどのではなく拙者を同行させてください」

土下座をするスズ。

「私は全然いいわよ。願ってもないことだわ」

「俺はエルメスの方がいいんだけど」

スズは一般教養が乏しい気がする。


「そんなことを言わずにお願いします!」

スズは床に頭をこすりつけながら懇願してくる。

「いや、でもな~」

「スズちゃんここまでしてるのにかわいそ」

ジトッとした目で俺を見るエルメス。



「……はあ、わかったよ。同行者はスズ。お前に決めた」

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