何時もの日常と非日常の影
逃げるように教室から去っていったな、古虎の奴。
俺は呆れたような溜息を吐いき、視線を机に戻すと違和感を感じ、眉を顰める。
「アイツ、カード持って行きやがった…」
三枚あったカードの内の一枚、黄色のカードが無くなっていたのだ。
「あー、多分、無意識に持ってちゃっただけだろうし、古虎君も悪際は無かったと思うよ。気が付いたら戻って…」
キーン コーン カーン コーン
「席に着けー授業を始めるぞー」
「んー、授業が終わったら返しに来ると思うよ?」
零が何とも言えない不安そうな表情でそんな事を言う。一発頭を叩く位はするかもしれないが、別にそんなこと位では怒ったり等はしない。一発殴る位はするかもしれないが…
◇
今現在、授業が終わり放課後。俺と零と古虎の3人は学校の屋上に集まっていた。
あの後の事を纏めると。
『宝石カード持ってちゃってゴメンなさい』
『代わりに詳しく調べたら色んな事が分かったにゃん!』
『公式サイトから送られるのは参加権で招待状でないみたい』
『でも、招待状の説明も調べたらあったから、きっと本物だよ』
『詳しい事は放課後という事で!!」
というラインが、5時間目と6時間目の間の小休憩の時間になった瞬間に飛んできた。コイツは果たして授業を受けていたのであろうか?と普通に心配する嵌めになる。俺が古虎を殴打するという事があった様な気もするが、それはどうでもいい事だ。
閑話休題。
「で。コレって、結局なんなんだ?」
俺宛ての黒い封筒を手に取り、古虎に問いかける。
「金掛かり過ぎてるし、偽者って事は無いんでしょ?」
俺の言葉に追従する様に零も問いかけた。
「うん、そう。本物、本物。招待権ってアレだって。ゲーム参加者が送る事が出来る機能の一つで、送った相手もゲームが参加出来る様になるんだよ」
なるほど、つまり、通常と違う使用で送られていたから、本来と違う方法での参加方法になってた訳か。面倒くさい。
「ん?でも、それだと、古参が新規を呼べるなら、運営から新規ユーザを絞る意味無いんじゃねーの?鼠算識に増えていくだろ。」
自分が言った言葉に対して、何やら頭に嫌な予感が過ぎる。具体的な言葉が浮かばないから余計にモヤモヤする。
「分かんないにゃ!」
清々しいぐらい言い切ったなコイツ。
「公式サイトで招待状の説明が在ったから、この宝石カードは本物にゃ。ウダウダ考えるより、やった方が早いにゃ!」
清々しいほどのド正論を言うなコイツ。確かにそう何だか、ナンカ引っ掛かるんだよな。
「それもそうだね。やるかやらないかってだけの話だし。どうするの祈理君」
「えー皆でやろうよ!きっと楽しいにゃ~。やろう!やろう!!やろう!!!」
渋る俺に対して、にゃあ、にゃあ、にゃあ、にゃあ、と耳元で騒ぐ古虎。そんなに、やりたいのかよ。と俺は呆れ半分鬱陶しさ半分の心持で、耳元で騒ぐ古虎の頭を押しのける。
「ええい、五月蠅い!にゃあにゃあ鳴くな!!やるよ!やればいいんだろ!!」
「わーい」
「俺も参加していい?」
「おう!やれ!!で、どうやるんだ古虎?」
古虎は喧しく騒ぐのを一旦止め、スマホを見ながら説明をする。
「えっとね。この宝石カードあるじゃない?コレがQRコードになってるから、読み込んだらそのまま登録出来るみたいだね」
「参加出来るのは3名までで、3枚のカードだから、多分1回切の使い捨てだね。この宝石カード」
零が青い宝石カードを見ながら、何ともいえない表情をする。
「これ幾らぐらいするんだ」
俺は赤い宝石カードを手に取り、零に具体的な値段を聞いてみた。
「高校教師が買う結婚指輪くらいの値段かな」
「なんで、教師かつ結婚指輪の値段で換算したわん」
「んー、英語の姫野先生いるだろ。教師同士で結婚して最近離婚した」
「あー分かった。もういい」
「世知辛いにゃ」
零の両親は宝石鑑定士。離婚した教師。結婚指輪。つまり、そういう事である。
「…にしても、ホント謎だよな、このゲーム。たかがゲームの招待状でゆうに3桁超える位の金額使い込んでるもんだろ?」
「そんな金額をポンポン出せる位だから期待大にゃ!あ、くーちゃんどのカードでする?」
「カードで性能変わるのか?」
「性能というか能力は変わりそうだよね。カード的に」
「このゲームって、相棒の魔女の育成とバトルがメインだから、能力面で違いは有るだろうけど、性能面で大きく変わるって事は無いと思うよ?」
「一点特化や万能型とか、防衛に有利やバトルが得意とか、そんな感じか」
「多分ね」
ふーん。と古虎の話を聞きながら、赤いカードを手に取る。
火の様な模様――良く見たら心臓に見えるソレを、熱で赤みをおびた鎖が束縛する様に雁字搦めにしている。そんな風に見えた。他の二枚は何だかんだいって綺麗で何かしらの魅力を感じるのに、このカードだけはソレを感じない。
そんな事を考えながらカードを弄ってると。
「くーちゃん、そのカードにするの?その赤い宝石カード。宝石みたいで綺麗だよね」
等と意味不明な褒言葉を言う古虎に、じゃあ、お前がこのカード使うか?とか。趣味悪-な、俺は黄色や青色のカードの方が良い。とか普段なら言うだろう。
けれど、何故か俺はこの赤いカードが褒められた時、無性に嬉しかったのだ。自分のその良く分からない感情は取りあえず置いといて、俺は誤魔化す様に言葉を発した。
「そうか?まぁ、うん。俺はこのカードにする。二人も今持ってるカードで良いのか?」
青い宝石カードは零が、黄色の宝石カードは古虎が持っている。
「いいわん。早くやるにゃー」
「おー。俺も別にいいぜ」
「それじゃあ、するか」
俺達はスマホを取り出して、QRコードを読み込む。するとザ・ウィッチ・カルマという題名が出た後、ザ・ウィッチ・カルマに参加しますかという文字が表示された。
俺は参加するにタッチする。そうすると音楽が流れ、美しいゲームムービーが流れる……と期待していたのだが、期待を裏切り『ダウンロードしています。しばらくお待ち下さい」という文字がスマホの画面に表示されるだけだった。
「いや、なんかこう、読み込んですぐ起動!みたいに思ってたけど、普通こうなるよな…」
スマホの画面に映る、ダウンロード中。の文字を見ながら、俺は小さく肩を落とした。
「結構かかりそうだね」
「暇だにゃ…このままだと1時間くらいかかりそうだわん」
勢いを削がれて、テンションが落ちてる古虎。心なしかふわふわの猫毛の髪も萎れて見える。俺もその気持ちは分かる。さすがに俺も1時間も待ってられない。もう5時過ぎだ。そろそろ家に帰りたい。
「どうする。取りあえず帰るか?」
「えー、でも…」
もう、帰りたい気持ちになっていた。ので、古虎を言いくるめてさっさと帰ろう。
俺は古虎を言いくるめる内容を考える。つまるところ、古虎は遊びたいだけなのだ。俺は噂のゲームで遊びたいと渋る古虎にとって新しい魅力的な提案をすればいいのだ。
「明日やれば良いじゃん。明日学校休みだろ?俺ん家に集合!んで一日中遊ぶ。二人とも用事あるか?」
「んー、大丈夫」
「おーし!!明日はくーちゃん家でゲームパーティだにゃ!!」
さっきまでの落ち込み様が嘘の様に元気を取り戻した古虎の顔を確認して、大丈夫そうだと判断する。
「詳しい事は後でラインやら電話でやり取りするつーことで、今日はもう解散」
こうして俺達は学校を跡にするのであった。
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