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自分の事は分かっている様でわりと分かっていないものだ

 赤、赤、赤、赤――…


 火と鎖と臓物と血と…あぁ、とにかく赤だ。


 脳内に刷り込むかの様な赤色が、視界一杯に塗りつぶされる。暴力的なまでに赤い景色。


 轟々と音を立てて周りが炎で燃えている。余りの現実感の無さに驚きやら恐怖やらが吹き飛び、腰が抜け、ただただ唖然として見る事しか出来なかった。


 熱されて赤々と燃える鎖が生き物の如く辺りを蠢いている。


 さっきまで俺の命を脅かしていた醜い怪物は、蹂躙されるかの如く鎖によって、焼き爛れ千切り崩れていく。


 小さな子供の様な甲高い叫び声を上げて逃げ舞う化物達は、まるで、下手糞なダンスでも踊っているのでは無いかと思うほど、惨めで哀れな姿だ。


 化物たちはもがき苦しみ、やがて燃え尽きて動かなくなる。


 今現在、先程の気味の悪い怪物の脅威は無くなった。


 辺りには、先程まで俺を殺そうと不協和音を喚き散らしていた怪物…だった残骸が無造作に転がっている。咽かえる様な血の臭いと肉を焦がしたかの異臭に、喉にせり上がるモノを無理やり飲み込み、涙が出そうになった。


 地獄絵図だ。そんな光景が当たり一面に広がっていた。非日常はより大きな非日常の手によって終わりを向かえたのだ。


 一先ず、脅威は去った。


 まともな会話すら不可能な怪物に追い回されて殺される事はもう無い。だが、それだけだ。助かった訳では、決してない。


「ふ、ふふ、くぅはははっ!」


 笑う、哂う、嘲笑う。先程のグロテスクな惨状を生み出した少女は、楽しそうに、嘲るように、見下す様に笑うのだ。


 燃えるように真っ赤で足に届きそうな程長い髪。白雪姫の残酷なラストを連想させる真っ赤な鉄の(ヒール)に、真紅の美しいベルベットのドレス。ルビーの様に煌く瞳は美しく、その唇は妖艶な笑みを浮かべている。


 12歳くらいの少女。愛らしいといえる容姿で、子供の様な態度で笑っている。なのに、傾国の娼婦(美女)のような情欲的で官能的な印象が強く残る。その印象の食い違いが余りに異常で、その違和感が恐怖を助長させた。


「雑魚じゃ!雑魚じゃな。つまらん」


 楽しそうに殺した相手を罵っていたと思ったら、いきなり興味を失ったかの如く反芻し、退屈そうに呟く。少女は不快だと言わんばかりに、怪物だった残骸を踏み潰す。何度も何度も子供の癇癪の様に執拗に容赦なく踏んで踏んで踏み潰した。


 そして、興味を無くしたかの様に踏むのを止めて、怪物だったモノから視線を変えた。


「そうは思わぬか?お主…」


 冷たい声だ。生き物を殺すのに――人間を殺すのに、何の躊躇いも無い。そんな声色。先ほどの蹂躙を繰り広げた赤い魔女は、冷たい眼差しで見下ろす様にコチラを見た。


 一先ず脅威は去った。しかし、先ほどの化物たちが可愛く見える様な、強大で絶望的な脅威が目の前にいた。


 本能が危険信号を鳴らす。恐怖で身体が竦む。下手な事を言ったら殺される。しかし、何も言わなくても殺されるだろう。


 そう理解して、その様な理不尽さで殺される事に――そんな状況に陥っている事にたいして俺が強く感じたのは、恐怖でも絶望でも無く、激しい怒りだった。


 絶望も恐怖も怒りによって塗りつぶされた。腹の底からグツグツと煮えたぎる様な深い苛立ちが俺を支配する。


 馬鹿げている。抑えるべきだ。そんな事をしたら先ほどの怪物の様に惨たらしく殺される。視界が赤い魔女ぶん殴れる様な武器になりそうなモノへと移る。


 殺してやる。

 止めろ止めろ止めろ止めろ。


 俺の理性が叫んでいる。感情のままに行動するな!死ぬぞ!と。判っている。けれど、耐えられない。怒りだ。どうし様も無い怒りが湧き上がる。


 昔からそうだった。俺は怒りをコントロールする事が出来い人間だ。どんな小さな事でも癇癪を起し殴り蹴り暴れる短気な性格だと自分の事を理解しいると思っていた。


 だが、自分の命が掛かっている今の状況でも、勝てるはずのない異形なバケモノが相手でも、怒りが抑えられない程の業の深いモノだったとは思ってもみなかった。


「我が聞いておるのだ。無視をするでない」


 化け物(少女)のその傲慢な物言いに、俺は大破した机の脚を掴んで――…


『パッパッパララ~パッパパララ~パラ――♪』


「ぅあぁあ!はぁ?!何だ!?」


 懐から振動と軽快な音が辺りに響き、俺は心臓が飛び出るかと思うほど驚いた。先ほどまで感じていた怒りも飛散してしまい、冷静になる。


「え、や、なに、なんじゃ!」


 目の前から聞き間違いではないかと思う様な素っ頓狂な声が聞こえ、思わず顔を上げて魔女の方を見ると、魔女と視線があった。


 まぬけな声を上げたのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めてプルプルと震えて睨みつけてきた。さっきまでに築き上げていた恐ろしいイメージが崩れるので止めて欲しい。


 居た堪れなくなった俺は、ズレた眼鏡を直して音ので何処を確認する。どうやら胸ポケットに仕舞ってあった携帯に入れていたアプリゲームが起動していたのが原因らしい。


『この度は、ウィッチ・ザ・カルマをご利用して頂き有難う御座います。新規プレイボーナスの――』


 ふざっけんな 死ね!クソが!生き残ったら苦情メール大量に送ってやるからな!!


 そう怒鳴り散らし、衝動的に携帯をぶん投げそうになったが、寸前のところで抑える事が出来た。偉いぞ、俺。


 取り合えず――もう遅いかも知れないが――相手を刺激しない様に電源を落そう。と、フッと覗き込んだ携帯の画面に目を奪われた。


『パートナーの召喚に成功しました。灼熱と束縛の魔女。メアリー・ブラッティ・バースディが貴方のパートナーに選ばれました。これからも長らくウィッチ・ザ・カルマを楽しめる事を心の底から願っております。ゲーム運営者より』


「何だ、これ…」


 アプリのゲーム画面を見ながら思わずそう呟いた。


 そこには先程読んだ事の他に、メアリー・ブラッティ・バースディと言われる魔女の――今目の前にいる少女と瓜二つのイラストが載ってあった。


「何じゃ、これは…」


 奇しくも魔女も自分の手を見てそう呟く。その手には鎖の様な淡く光る痣の様なモノが出来ていた。

作品を読まれた方へ。

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