秘密基地
この作品は作者が執筆のカルチャースクールで発表した作品を掲載しています。
少しでもクスリとしていただければ幸いです。
ボクの日課は森を歩くこと。お母さんは森は危ないからって言うけど慣れれば安全。今日もぶらぶら森をお散歩中に見慣れない洞窟を発見したんだ。
昨日まではこんなところに洞窟なんて無かったはずなのに、ぽっかりと怪物の口の様に丸く開いたその入り口は僕を引き寄せた。
おっかなびっくり中に入ってみると、その洞窟は真っすぐ伸びていて奥で右に一回九十度に曲がってるだけの簡単な造りだったんだ。
もっと入り組んでいるとか怖い何かが住んでいるとか想像していたけれどそんなことは無かったので一安心。そしてすっかり気に入ったその洞窟に僕は秘密基地を作ることにした。
自分の家からベッドをばらばらにして何往復もかかって運び込んだんだけど、お母さんにばれないようにするのと行ったり来たりでもうヘトヘト。仕方ないから椅子と机は森にあるちょうどいい形のもので間に合わせたよ。日持ちする食料も運び込んでボクの秘密基地の完成。
皆に自慢したかったけど、ボクだけの秘密基地だからそこはグッと我慢したよ。いつも森に入ってるから誰にも怪しまれないし、ボクは秘密基地を大いに満喫していたんだ。
完成してから何日か経ってボクだけの秘密基地で過ごしていたら地響きが遠くからしだして、突然秘密基地がグラグラって揺れたんだ。そして地面が入り口に向かって下向きに斜めに傾きだした。ボクは何が何だか分からなくって必死に前歯で秘密基地の壁にしがみ付いたんだけど、壁もゆらゆら揺れて外に放り出されちゃった。
何が起こったのか体を立て直して、高い所に素早く登ってから空を見上げてビックリしたよ。だってそこにはボクの体の何百倍も大きな生き物がいたんだから。
『やっと見つけたぞ。儂のお気に入りの片方を』
その生き物はなんだか嬉しそうに僕の秘密基地だった洞窟を持ち上げ愛でる様にしていた。秘密基地の中にあった落ち葉のベッドも、石ころの椅子もキノコの机も保存食のどんぐりも全部散らばって見る影もない。それよりもコノ大きな生き物が僕を襲わないかが心配。
『おや、君が儂のブーツに住み着いてたのか悪いことをしたね』
その生き物は倒木の上で見上げていた僕に気が付いたのか僕の方を見下ろして何か吠えている。
僕にはその意味は判らないけれど敵意はなさそう。そしてその生き物はしばらく僕を見てからボクの事はどうでもいいみたいで地響きを上げながらどこかに行ってしまった。
なにもされなかったので安心していると聞きなれた声が聞こえたんだ。
「坊や、どこに居るの!?」
あんな生き物が森に来たから心配したのか、お母さんの声だった。だから僕は大きい声で答えたよ。
チュウ♪




