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近未来を想定した話なのでSFとしましたが、ぶっちゃけインストールとダウンロードの違いさえよく分からない和菓子の書いた小説なのでそこんとこ気にしない方向けです。空想科学的要素はほぼありません。
八神光一はなかなか大きな企業に務めている。
外見は非常に整っている。身長は180cmほど。焦げ茶色の髪を短めに整えており、顔のラインも精悍であるが、表情が柔和であるため厳しい印象を与えない。
性格は至って温厚。後輩への指導に際し厳しい口調で話すことこそあれど、後輩が理解できるよう努力するため慕われている。また、事務処理能力も非常に優秀な上に一度教わったことは決して忘れない。入社四年目にしてすでに生き字引的な扱いをされており上司からの信頼も厚い。
そんな八神は今日も仕事にいそしんでいた。
さまざまな資料に目を通しては必要な情報を抜き出しその数値をシステムに反映。矛盾が見つかれば照会し訂正するか否か判断する。複数の部署から回ってきた報告書をまとめ、決済に回せるよう書類を整える。ほとんどのやりとりは電子化されて久しいが、複数の情報を見比べる必要があるものは紙媒体も用意する。また、後日に他社の人間との交渉の場に同席することを求められているため、その人物の情報を精査し、対策を練る。
そんなふうに、時には所属部署の職域から外れた業務を任され、全てを過不足無くこなしていく。
瞬く間に時間は過ぎ、定時をわずかに過ぎた頃に本日の主要な業務を終了する。
本来なら定時ちょうどに終わる予定だったのだが疲労が蓄積されていたためタイムラグが生じてしまった。
普段であればこの後に主要でない業務(主に他部署からの依頼である)を片付けるところだが、今は休憩時間を多く取った方が良い。
喫緊の業務は処理を終えている。優先度を計算したところ休息が最優先となった。
そうと決まれば八神の行動は早い。端末の電源を落とし、翌日のタスクの優先度をさっと確認し、業務を完全に終了させた。
その瞬間に。
「八神君、すまないが緊急の仕事を頼みたいのだが」
声をかけられた。一瞬だけ嫌そうな表情が表に出そうになるが鉄の面の皮でこらえる。
声の主は営業部の偉い人。翌日に急な交渉が入ったため、八神に資料を整えてほしいとのことだった。また、以前八神が会ったことがある人物のため、その人物の情報を一通りデータにして渡してほしいとのことだった。
頼む、といっても実質的に命令だ。断れるはずもなく八神は快諾した。
期限は明日の始業時間。資料やデータの作成には二時間もあれば十分。休息時間は減るが足りないというほどでもない。
優先度一位を休息から業務に切り替え。営業部の偉いさんを見送った八神は端末の電源を入れようとして――
「お、八神! 帰り支度が整ってるってことは今日は暇だな! よその会社の子と飲み会があるんだけどさー、ちょっと欠員が出ちゃって。今まで付き合いなかった会社の有望株のコもいるから絶対外せないんだよ。課長にも許可は取ってあるから来てくれよ」
再び声をかけられる。今度は同僚である。
態度は軽いがフットワークも軽く、不思議なほど広い範囲に人脈を持っている。実務能力以上にそのコミュニケーション能力を買われている人物である。
たった今上司から仰せつかった仕事があるが、期限は明朝。彼からの依頼の方が緊急度が高い。
「ああ、分かった。私も行こう」
「助かる! お前ならいろんな意味で補充要員としてベストだし? 前みたく盛り上げてくれよ」
八神は端末の電源を付けるのはやめて飲み会に繰り出すのだった。
―――
三時間ほど経ち飲み会は終わった。
八神はスポーツや食事、インドア系の趣味などあらゆる分野に対して知識を持っている。相手の趣味に共感する態度を示し、盛り上がりそうな話題を提示し、趣味が合いそうな男女をそれとなくマッチングしていく。
見目の良さから自分に集まる興味を徐々に他の人間に逸らし、最終的に空気のようになっていた八神はひとりだけ一次会で離脱。二次会と言いつつそれぞれ気のあった者同士で盛り上がるのだろう。
そんな彼ら彼女らを密やかに見送った八神はひとり、社に戻る。
再び端末の電源を入れたのは夜十時。一部を除きホワイトな社内はほとんど人間がおらず、怖いほど静か。
八神は薄暗い社内で粛々と営業部の偉い人から任された資料の作成を行う。
あらかじめ許可が降りていた通販サイトの超特急配達を使って先方への菓子折を手配してフィニッシュ。
全ての業務を終えた時にはとっくに日付も変わっていた。当初は二時間で終わると読んでいたが、やはり疲労が溜まっているらしい。そろそろ本格的に休息を取る必要がある。
業務のついでに自分の体調をまとめ、八神は社内の自室に戻る。
自室には数冊の本と巨大なカプセルが安置されている。
八神はカプセルのスイッチを押す。ぷしっと缶ジュースを開封したような音がしてカプセルが開く。
カプセルの中に入り、定位置に体を設置した八神は手元にあるボタンを押す。
するともう一度缶ジュースを開封したような音がしてカプセルが閉まる。
八神は意識を失う寸前、ため息をつく。
「無感情のロボットに戻りたい……」
コルディス社製第八世代型アンドロイド・カドフェクツ/型番M-1-44121。
通称:八神光一の平凡な一日はそんなつぶやきで締めくくられた。




