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94、稀なる恩寵


『んー……おはよ、ハナ』


「よく寝てたね。寝る子は育つってやつかな?」


 馬車の中で、庭師のアークさん特製のミニチュアベッドで寝ていたアサギ。

 すっかり気に入ったアサギが、旅に絶対持っていきたいと珍しくオネダリしてくれて。

 それがとにかく可愛すぎると暴走した私とサラさんが、アンゴラウスベニウサギの毛を使ってミニチュアの枕と布団を作ったりした。

 未だに「アンゴラ・ウスベニ・ウサギ」じゃなくて「アンゴラウス・ベニウサギ」と脳内変換されてしまう。

 誰なんだアンゴラウス。頭の中から離れないアンゴラウス。


「男の子が一人増えることになったから、彼の処遇について話し合いをしてくるね。アサギはどうする?」


『ハナと一緒にいくー』




 ベッドからぽーんと飛び上がったアサギをナイスキャッチし私は、野営の中心にいるレオさんたちの元へと向かった。


「お疲れ様です。えーと、彼は?」


「稽古つけたら疲れたとか言ってたな」


「初日で筆頭の稽古とか、あの子もかわいそうに」


 バツの悪そうな顔で頭をかいているレオさんを、ジャスターさんが呆れ顔で見ている。

 うん。やりすぎはダメよ。


「なかなかいい素質を持っているから、つい」


「キラ君とジークリンドさんは?」


「もうすぐ来ますよ」


 ジャスターさんの恩寵『鑑定』については、ずっと気になっていた。

 私だったら特定の人間について、あれやこれやを見るのはちょっと嫌だなって感じると思う。


 よくよく聞けばジャスターさんの恩寵はある程度コントロールできるとのこと。傭兵さんたちに関しては、犯罪歴や悪意はあるかくらいの、ザックリとしたものしか見てないそうだ。

 そうだよね。あの人数を全部見るとかないよね。


「侵入者として捕らえた少年については、全部見させていただきましたよ」


「それはしょうがないと思います。ジャスターさん、ありがとう」


「いえいえ、当然のことですから」


 キラ君とジークリンドさんが来たところで、ジャスターさんが『鑑定』したピンク少年の経歴を話し出す。


 彼の名前は、ティスア・ラジュル・ラース。

 ビアンの古い言葉で「ラース家の九男」ってことらしい。長男ならワーヒド・ラジュルになるんだって。

 名前は成人したらつけられるっていうけど、呼ぶ時に不便そう。


「ちなみにラース家は今の王族でもあります。大商人が王になるので、他にもカルブ家、アズム家などの人間が次代の王候補になるようですね」


「家名にも意味はあるんですか?」


「ラースは『頭』で、カルブは『心臓』、アズムは『骨』だと出ています。ビアンでは、人の部位が名についていると名家だと判断されるようです」


「へぇー」


 やっぱりこの国は面白いなぁと思っていたけど、はたと気づく。


「え、あの子、王族なの?」


「姫さん、遅いぞ」


「いいじゃないか。そこが春姫たんの可愛いところなんだから。ねぇ、キアラン君」


「……っ!!」


 ジークリンドさんに会話を振られて、無言でそっぽを向くキラ君。

 そうだよね。可愛いなんてキラ君のキャラじゃ、なかなか言えないよね。


「姫君が愛らしいのは周知の事実ですから置いておいて。我らの中に潜り込んだ彼は、どうやら同じ王族であり、姉のような存在だった秋の姫君に会いたいようです」


「秋姫様に? でも、私たちが塔に行くのは儀式の後になるはずで……」


「秋の塔は、砂漠を越えたところにあります。この行軍は必ず砂漠を越えることができますから、付いて行こうと思ったのでしょう」


「それで? アイツの言ってた『恩寵で中に入る』っていうのは、どういう意味なんだ?」


 レオさんの言葉に、ジャスターさんは何とも言えない表情になる。


「自分が見た『鑑定』の結果では、『侵食』という恩寵が出ました。詳しいことは神王様の権限で分からなかったのですが、少なくとも我ら騎士たちの守護結界は通用しないということは分かっています」


「へぇ、興味深いねぇ。聞いたことのない恩寵だよ」


「おじいさまが知らないとは……」


「本人に聞いてみるのが一番だろう。今日稽古つけて分かったが、根は真っ直ぐに見えたぞ」


 筆頭であるレオさんが言うなら任せようってことになり、この場はおひらきとなった。

 キラ君とジークリンドさんは、二人で結界の状況を見てから休むんだって。豊富な知識を持つジークリンドさんから、色々教えてもらっているそうだ。

 レオさんが、後方支援がメインの二人が連携とるのは良いことだって言ってた。よきかなよきかな。


 それにしても『侵食』か。

 言葉だけ見ると、ちょっと怖いイメージがある。じわじわと何かが入ってくるみたいな。


 ぶるりと震えると、ずっと静かにしていたアサギが胸元から出てくる。


『ねぇ、ハナ』


「なあに?」


『大丈夫だよ。怖いことはないよ』


「……そうだね。みんながいるから、大丈夫だよね」


 アサギのモフモフな毛並みに顔をうずめたら、もふーんと落ち着いた。やっぱりモフモフは癒しだね。

 そういえば。


「なんで、さっきはずっと静かにしていたの?」


『んー? だって、ハナの服の中にいると、みんな怒るんだもん。つよいのにポーンってされちゃう』


「そうだっけ?」


 でも、前に弾力のある『鉄壁』で、遠くにポーンってされたアサギは面白くてかわいかったなぁ。あはは。


『ポーンは、こりごりなの』


 そう言いながらアサギは鼻の頭にシワを寄せていて、それもまたかわいいと思ってしまった。あはは。


お読みいただき、ありがとうございます!

バタバタしてまして、毎度のスロー更新すみません!

がんばりまっするー!!

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