表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/137

91、西へ出発


 この世界に来てから、三回目の儀式になる。

 秋姫のいる塔の先、さらに西へ向かった場所で儀式を行うことになると、レオさんが教えてくれた。


「なんでレオさんは、毎回場所が分かるんですか?」


「場所は決まっているからな。順番は前の時に理解した」


「順番にも決まりがあるとか?」


「いや、なんつーか、次はここだなって分かる」


「それは理解したのではなく、筆頭の本能みたいなものだと思いますが。野生動物的な」


 遠征に向かうための備品をチェックしていたジャスターさんは、書類に目を向けたままレオさんにツッコミを入れる。うん。確かに野生の本能というか、レオさんって勘みたいなものが鋭いと思う。


「確かに、私が塔の中のどこにいても、レオさんは見つけてくれるんですよね。すごいです」


「……まぁ、すごい? ですね」


 書類をめくる手が一瞬止まったけど、すぐに何事もなかったかのように動きはじめる。

 うん。やっぱりおかしいよね? ちょっとつまづいたり、ぶつけたりするだけで駆けつけるとか、レオさん過保護すぎるよね?


 執務室に流れる微妙な空気。その中を意気揚々と乗り込んできたのは、新人だけど老騎士なエルフだった。


「やぁ、準備はできているかい? もちろんできているよね! ジャーたんがいるなら完璧だって、じぃじ知ってる!」


「うるさいですよ。邪魔なので書庫で双子と遊んでいてください」


「ひどいっ!」


「ジークリンドさん、今回はかなり長旅になるようですけど、体のほうは大丈夫ですか?」


「春姫たんのおかげで元気になったからねぇ。それに旅は慣れているから」


「それなら安心ですね!」


 儀式には騎士が必要だし、付いてきてもらわないといけないのは分かっているけれど、やっぱり毒を盛られてたっていうのは色々と心配になる。


「姫君、お気になさらず。そう簡単には死なないですよ。エルフですから」


「え、そんな、エルフだからって……」


「確かに、じぃさんはエルフっぽくないかもしれないな。普通はもっと体も大きいだろうし」


「細身の家系だからね。でも奥さんはこれでも大きいって言ってたけど。レオ君は人間にしては大きい方だよね?」


「まぁな」


 ん、ちょっとまって。

 今の内容、ちょっと聞き捨てならないですぞ。


「その……ジークリンドさんって、細身なんですか? 前に他のエルフに比べて肉体派とか言ってませんでした?」


「基本前衛なんだよ。もちろん精霊を使って支援することもできるけど、他のエルフたちは短剣とか弓が主流だからねぇ」


「おじいさまの持っている杖は飾りですからね。本気の時は素手で戦ってますよ」


 そういえば訓練場で手合わせしてもらった時、素手で相手してもらったっけ。

 手加減してもらったと思ったら、わりと本気で戦ってくれてたのかも? 勝っちゃったけど。







 三回目ともなれば、お馴染みのオッサン傭兵さんたちに「お久しぶりー!」「元気ですかー!」なんて愛想よく挨拶できちゃう。

 もちろん『姫モード』じゃなく、サラさんとおそろいの『お仕着せモード』ですが何か?


「まだ病弱という設定をつづけるのですか?」


「当たり前だよサラさん! だからこそ、公式の場に呼ばれても断ることができているんだから!」


 夏姫と冬姫とも、公式では「挨拶を交わしただけ」ということになっている。

 非公式の場所では(主に冬姫が)色々やらかしているけど、オモテでは物静かで清らかな美しき乙女たちということになっているのだ。

 夢をみさせる職業なんて聞けば、どこのアイドルだよって感じだけどさ。

 まぁまぁその通りなのかもしれない。


 あ、でも。


「ああっ! もうちょっと見ていたかった! 春姫たんのドレス姿!」


「おい爺さん、頼むから俺たち以外の人間がいるところで、そのクネクネするのはやめろよ」


「大丈夫ですよ筆頭、おじいさまは仮にも貴族でしたから……」


「春姫たぁーん!」


「このクソジジィ、静かにしろって言ってるだろが」


 ジャスターさん、ヤンキーみたいになってても素敵です! ビバ、インテリ眼鏡ヤンキー!


 このやり取り、傭兵さんたちに聞こえちゃうと思ったら、レオさんが薄っすら壁を作っているのが見えるから大丈夫みたい。

 動く馬車の周りに『鉄壁』を張るとは、なかなか器用なことをする。さすが筆頭騎士です。


 春姫のコスプレ……じゃなくて、ドレスはヒラヒラすぎて旅には不向きだ。

 他の四季姫たちは、そこまで露出がなかったのになぁ。

 夏姫は和風の着物っぽいのだし、冬姫は某歌劇団みたいなキラキラ光る騎士服だった。


「サラさんの服だって、旅の時はスカートとみせかけて中はズボンになってるのに、春姫の正装って機能的じゃないと思う」


「フリルやレースがふんだんに使われていて、花の咲き乱れる春の季節にふさわしい作りだと思いますけれど」


「うーん、そうかなぁ」


「それよりも、絵姿で見た秋姫様のドレスのほうが……なんといいますか、とても蠱惑的でございましたよ」


「こわくてき?」


 ふむ。

 そういえば秋姫の出身、ビアン国は砂漠が多くて暑いところだってジークリンドさんが言ってた。

 文化もかなり独特で、書簡での文面も華美だったし、鉱山も多いから宝石もたくさん採れるらしい。元の世界でいうマハラジャみたいなのがいっぱいいるから、気をつけてって言われた。


 何を気をつければいいのかわからないけど、まぁ、なんとかなるよね?





お読みいただき、ありがとうございます。

感想などなど、いつも感謝しております。

ありがたやー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ