表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/137

87、ならば与えましょう


 レオさんたちが執務をしている部屋へと、濡れた髪をそのままに走っていく。

 塔に設置してある魔法陣は便利だ。最上階から一階まで一気に移動することができる。


「ジャスターさん!」


「姫君!? そのお姿は!」


「なっ!?」


 騎士室に飛び込むと、ジャスターさんと顔を赤くしたキラ君が立ち上がる。

 慌てて駆け寄り、咎めるような目をするジャスターさんが口を開く前に、私は強い口調で問う。


「ジャスターさん! ジークリンドさんに何があったんですか!」


「おじいさまに……?」


「ジークリンドさんを塔の関係者にしようとしたのは、ジャスターさんでしょう?」


 私の言葉を受けて、ジャスターさんは「まさか……」と呟いている。


「あの淫猥なエルフは、また何かをやらかしたのか?」


 まだ顔が少し赤いキラ君が、心配そうな表情でこっちを見ている。ジークリンドさんの評価がそれって、なんかちょっとかわいそう。


「そうじゃなくてね、ジークリンドさんに私の恩寵の影響が見えたの」


「恩寵……?」


「まさか、身体能力強化、ですか?」


 ジャスターさんの眉間にシワが刻まれたのを見て、私は確信する。

 やっぱり、ここにジークリンドさんを連れてきたのは、このためだったんだね。


「筆頭を呼びましょう」







 血相を変えたサラさんに着替えるように怒られて、いったん仕切り直すことになった。


 詳しい話を聞くため食堂に集合をかけたのは、騎士三名とジークリンドさんだ。

 お茶の用意をサラさんがしてくれる中、身なりを整えた私を不機嫌な顔をした筆頭騎士様が迎えてくれる。


「おい姫さん、俺がいない時にお色気出してたって?」


「出してません!」


 ああ! サラさんから久しぶりに冷たい風が!

 色気云々はともかく、バスローブ一枚(かろうじて下着はつけてた)というのは、よろしくなかったと反省している。

 再びお説教タイムが始まりそうだったその時、ジャスターさんがジークリンドさんを連れて部屋に入ってきた。ありがとう救世主ジャスターさん


「遅くなりまして失礼しました。この機会に色々と吐かせようと思い、説得しておりまして」


「うう……ジャーたんが厳しい……」


「なんだ? 爺さんエルフは隠し事してたのか?」


 レオさんの言葉に、ジャスターさんはコクリと頷く。

 全員が席についたところで、まずは説明からとジャスターさんが立ち上がる。


「おじいさまは貴族ではありますが、当主としての地位は息子夫婦に譲っています。自分のような分家の人間からすれば、当主が誰であろうと気にはならないのですが」


 肩に落ちた銀色の髪を後ろにはらうと、ジャスターさんは横にいるジークリンドさんに視線を送る。


「エルフの血が濃く出たため、おじいさまからは幼い頃からお世話になってました。なので、体調不良のため当主を引退されると聞いた時、ご挨拶に伺ったのですが……どうやら違ったようでして」


「んー、ジャーたんに隠し事はできないね」


 孫のように可愛がっているジャスターさんのどこか怒りを含んだ口調に、ジークリンドさんは苦笑して続ける。


「体調不良とは、まぁ、表向きの話でね。要は毒を盛られたのだよ」


「毒!?」


 驚く私たちに向かって、ジークリンドさんはへらりと笑い、何でもないことのように言う。


「貴族ではよくある話だよ。暗殺防止のために毒の耐性もあるし、すぐ死ぬようなものではなかったからね」


「だったら……」


 死ぬような毒でなかったのなら、なぜ当主をやめたのかを聞こうとしたところで口を閉じる。

 まさか……。


「悲しいことに、毒を盛った人間は身内だった。ご丁寧にも、少しずつ服毒すると体に蓄積して、心臓の動きが弱まるものだったよ。きっと死因は老衰として処理されただろうね」


「おじいさまは犯人を知ってらっしゃった。だから黙って当主の座を降り、隠居されたのでしょう。……自身の体に持つ、毒を抜くことなく」


 やっぱりそうだった。

 私の恩寵『身体能力強化』が目に見えて分かるなんて、おかしいと思ったんだよ。

 怪我をしたり病気だったり、体に異常のない人が突然元気になるような恩寵じゃないもの。


 ひどい話だ。

 それよりもひどいのは、この人だ。


「レオさん、ジークリンドさんは強いですよね」


「ああ、そうだな。爺さんがここに来た時、毒を受けてる状態で俺の攻撃を見切って避けていたよな。かなり強いと思うぞ」


「おじいさまは、自分の剣の師でもあります。他のエルフとは違って肉体派ですから、筆頭といい勝負できるかと」


 なんと!! 細身に見えるジークリンドさん、実はムキムキ!?

 それなら問題ないでしょう。


「では、塔の関係者という立ち位置で、ジークリンドさんは満足しないでしょう。ここで提案なんですけど、体も回復されたようだし、ぜひとも『春姫の騎士』になってもらえませんか?」


「え?」


 呆気にとられているジークリンドさんに、私はにっこりと笑いながら言った。


「ちなみに拒否権はジャスターさんが持ってますので、よろしくお願いします」



お読みいただき、ありがとうございます。


新感覚?サクセスストーリー

『オッサン(36)がアイドルになる話』コミックス2巻が大好評発売中です。

ぜひぜひ、お手にとってみてくださいませ…( ˘ω˘ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ