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8、傭兵団長の噂



 塔まで送ってくれたレオさんに礼を言って見送った後、サラさんは私を見てため息を吐いた。


「異界の方とは知っておりますが、本当に突拍子もないことを思いつかれるものですね」


「そう、ですか? だって色々と経験豊富な人のほうがいいと思って……」


「確かにそうですが、あの傭兵団長に限っては豊富すぎます」


「豊富すぎる?」


 一体どういうことだと私はサラさんをジッと見る。言いづらそうにしているのは分かるんだけど、このままだと彼についての情報が不足しすぎている。

 団長だっていうからある程度信用しているのに、もし犯罪に手を染めているとかだったら……。


「彼は、悪い人じゃないんですよね?」


「ええ、まぁ、悪いどころか彼に感謝する女性たちはたくさんいるでしょう」


「女性限定ですか?」


「彼には二つ名があるんですけどね。『乙女たちの優しきけだもの』っていう、すごい名が」


「乙女たち……遊び人ってことですか?」


「はぁ……年端もいかぬ姫様にお伝えするのはどうかと思いますが……」


 いやいや、お気になさらず。年端がどっか飛んでいって行方不明なくらいですから。むしろ年増ですから。

 うっ……自分で認識する度に落ち込むなぁ、これ。


「言ってください」


「はい……では言いますけどね。彼は女性に求められれば必ず応じるんですよ」


「求める? えっと、つまり夜の……」


「ええ、そうでございます。その女性がどんな容姿でも、彼は必ず受け入れるんです」


「どんな女性でも? そ、それは逆にすごいですね?」


「傭兵団長殿は独り身でございます。なので問題はない……とは申しましても、そこでお付き合いをするということでもないのです」


「え? そうなの? その一回だけなの?」


「さようでございます」


 えーと、つまり、レオさんは女性から求められればワンナイトラブ限定で応じるってこと、だよね。


「うーん、それは何というか、悪いこと……でもないような気がしなくもなきにしも?」


「一夜限りでいいかという事前確認があり、それでもいいからって女性は抱いてもらうそうなのです。ですが傭兵団の詰所では度々容姿に自信のありすぎる女性がいらっしゃって、レオ様に罵声を浴びせて去っていく光景が見られるそうですよ」


「その人、さぞかし自尊心を傷つけられたんでしょうね」


「そういう特殊な性癖を持ってらっしゃるようなので、できれば姫様を近づけたくないと思ったのです」


 これらのことを「特殊な性癖」の一言でバッサリ切るサラさんに、私は彼は彼なりのポリシーがあるんじゃないかと考えるが、詳細は不明のため苦笑するに止める。


「ありがとうサラさん。心配してくれてたんですね。レオさんが騎士になるとしたら、そういう行為はやめて貰う必要があるかな」


「むしろ、彼を騎士にしないというのは……」


「それはダメです。彼が拒否すれば別ですが」


 あの人の経験と頭脳は必要だ。そして傭兵団長という立場を加味しても、どうにか味方になってほしいと思う。

 それに、今の話を聞いて、なおさら彼が欲しくなってしまった。

 だって姫を引退したいと思った時、きっとレオさんなら上手いことやってくれそうな気がするから。

 保険って大事だよねー。


「姫様……何か妙なことを考えていませんか?」


「ふぇっ!? いや、そんなこと、ナイデスヨ!?」


 レオさんが服を脱いだら一体どれほどの筋肉量なのかと、ニヤついた顏で妄想してした私。半目でこっちを見てくるサラさんの言葉で瞬時に取り繕う。これぞ社会人スキルである。

 いかんいかん、私は仮にも姫。お姫様なのだ。

 イケメンの厚い胸板を妄想しているとか、言語道断なのだ。


「姫様が決めたことに反対はしませんが、お気をつけくださいね」


「……はい」


 とりあえず、一人目の騎士の目処は立った。彼が講師の契約を完了させて塔に来るまでに、私も色々と調べておかないといけない。

 この国と、この世界のことを。







 部屋に戻って、埃を落とすためにお風呂に入ってスッキリとした気分になった私は、初日に読んだ『チュートリアル』のいう本を読み直そうと手に取ると、表紙が変わっているのに気づく。


「あれ? 別の本?」


 そこには『チュートリアル』ではなく『騎士マニュアル』と表記されている。


「え? 前のやつはどこにいったの?」


 慌ててベッドのしたとか、サイドテーブル周辺とか探すけどそれらしきものは見当たらない。諦めて手に持っているこの『騎士マニュアル』という冊子を開く。


  この本を手に取った貴女は、無事に『チュートリアル』を卒業したと思います。

  きっとベッドの下とか色々探したと思うけど、意味なかったね。ごめんね! テヘペロ!


「ふざけんな」


 思わず壁に投げつけたくなるのを、なんとか我慢する。くっそムカつく。燃やしてやろうか。


  あ、燃やすのは勘弁! 何でもするから!

  地球に戻すことは無理だけどね! メンゴメンゴ!


「あ、これ燃やしてもいいヤツだよね。そうしよう。今すぐしよう」


  本当に申し訳ない。どうか許してください。

  これから『姫』の『騎士』になる儀式の流れとか、色々お得情報を提示するので許してください。


「急に丁寧な文章になったなこれ。それよりも私って今、本と会話してる?」


  今、会話してるみたいと思ったかもですが、あくまでも可能性を文章として盛り込んでいます。

  あしからず。


「めんどくさ!」


 今度こそ私は、冊子を壁に投げつけた。






お読みいただき、ありがとうございます。

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