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85、元気なおじいちゃんエルフ



 朝起きると、ピンクな世界に埋もれていた。

 字面がひどい。

 よくよくピンクを見れば、大小さまざまな薄紅色のウサギたちだった。


「ふぉぉ……なんという至福……」


 まだ幼く小さい、柔らかなフワフワ毛玉たちが、ベッドの上にわんさかいる。

 そして代わる代わる私の頬にスリスリしてくるのだ。


『皆がハナに、あいさつしたいんだって』


「そっかぁ、皆、ありがとぉ」


 メロメロになった私がウサギたちを撫でていると、朝のお世話にきてくれたサラさんが悲鳴をあげてセバスさんに怒られていた。

 もちろん私も怒られた。解せぬ。







 あれだけいたピンクのモフモフたちを、ひと抱えにして持っていったアークさんがすごい。

 どっかの国のホニャララ雑技団みたいな状態で、小屋まで連れて行ってくれた。すごい。


「アサギ、部屋の中にウサギは禁止だよ」


『なんで? 青い鳥たちは入ってきているよ』


「一応あの子たちは、部屋を汚さないって約束してくれているからね。ウサギたちも汚さないようにしてくれてたけど、ほら……」


 ベッドメイキングしてくれているサラさんが、取り替えたシーツを持っている。

 真っ白なシーツだけど、ウサギたちの毛が大量に付いているのが、はっきりと分かった。


『はぅ、ごめんなさい』


「いいよ。アサギはあの子たちの願いをきいてくれたんだもん。今度から気をつけてくれればいいよ」


『気をつける! アサギ、てつだってくる!』


 ふわっとサラさんの元へ飛んでいくアサギ。私も手伝おうとしたところで、セバスさんにやんわりと止められる。


「あちらは見ておきますから、姫様はジークリンド様の講義にご参加くださいませ」


「講義?」


「この世界の国について、お聞きになられると聞いておりましたが?」


「そうだった! 忘れてた!」


 ピンクな事件でバタバタしてたら、すっかり頭から抜け落ちていた。

 ジークリンドさんに「秋姫のいるビアン国について教えてほしい」と言った時に、せっかくだから司書の双子ちゃんも一緒に勉強しようってことになったんだよね。


 ……あの子たちはすごくすごく優秀だから、私の知能が残念なことバレちゃうだろうなぁ。

 いやいや、私の恩寵『身体能力強化』の対象は、筋肉だけじゃなく脳細胞も入っているはず。記憶力とか良くなってるし、脳も若返っているはず。


 あれこれ考えながらもセバスさんに案内された私は、書庫の中にある閲覧スペースにレオさんがいることに驚く。


「レオさん? なんでここに? お仕事は?」


「ジャスターとキアランが、俺の仕事を代わりにやってくれているから大丈夫だ」


 こう見えて、塔にいる騎士たちの仕事は多い。元の世界でいう「ブラック」に近いものを感じることがあるけど、塔の関係者たちはやたら元気で、たくさんの仕事を楽々こなしていたりする。

 もっと騎士とか増やさないとって思っていたけど、セバスさんが無理しなくていいって言ってくれた。

 他の姫たちと違って、春は不人気だからしょうがないよね。うん。


「春姫たん、おはよう。気が散るから、筋肉筆頭騎士くんは帰ってくれていいよ」


「ならば、そこらへんに生えてる木だとでも思ってくれ」


「あはは、木は話さないからなぁ」


「静かに『鉄壁』を展開しておくから、俺のことは気にするな」


「恩寵使うなんて、おとなげなーい」


「いいから早く始めて、早く終わらせろ。姫さんも暇じゃないんだからな」


「よろしくですー」

「おねがいですー」


 安定のかわいい双子、チコちゃんは私の右側、ルーくんを左側に座らせた私は「よろしくお願いします」と丁寧に一礼した。

 双子ちゃんたちは教科書代わりの本も用意してくれて、ビアン国についてかなり詳しい話が聞けそうだ。


 ジークリンドさんったら、私よりはるかに年上のはずなのに子どもっぽく見えてしまう。

 あれ? もしかしてこれって……? いやいや、まだ決まったわけでもないし、気のせいだよね。きっと。


「さて春姫たん。ご要望のビアン国について話そうか」






 講義を受けて数時間、やっと解放されると思ったところでジークリンドさんがやんわりと私に問う。


「それで、春姫たんはどこまで把握しているのかな?」


「把握、ですか?」


 たくさん詰め込まれたせいで、少しぼんやりした頭がうまく回らない。

 そんな私をジークリンドさんは微笑んで、でもどこか真面目な表情で見ている。


「春姫たんの……いや、君たちの恩寵について、どこまで把握しているのかと聞いているんだよ」


「おい爺さん、何が知りたい?」


 ずっと静かに見ていたレオさんが口を開く。どことなく流れる不穏な空気を変えるように、ジークリンドさんは明るい声で返す。


「関係者でもない私が言うのもおかしいとは思うんだがね、ジャーたんが手紙に『心と体が浮き立つような春という季節に驚いています』なんて書いているからさ」


「……なるほど」


「え? え?」


 会話についていけない私の横にいる、双子たちもそろって首をかしげている。かわいい。


「隠居のエルフを呼び出すには、充分すぎるものがあったよ。塔に入ってから今日までに、多少の変化があったから知らせておこうと思ってね」


「変化? 爺さんにか?」


「そうだよ。他の人はどうか分からないけれど、年をとると体の不調が辛くてね。それがなくなったんだよ」


 ジャスターさんのおじいちゃんは、笑顔で腰に手をあててすっくと立ち上がった。



お読みいただき、ありがとうございます!

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