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80、がんばる双子と気さくなエルフ


「姫様、少々よろしいですか?」


「大丈夫だよ、サラさん」


 儀式の練習として二時間ほど楽器を弾いた私は、ひと休みしようと部屋を出たところでサラさんに呼び止められた。後ろにいたセバスさんが一歩私の近くに寄るのは、今日の護衛を彼が担当しているからだ。

 いつもは必ず騎士が一人付いていてくれるんだけど、塔の中ならセバスさんでも大丈夫だろうとレオさんが言ってくれた。

 セバスさんが執事なのに並みの騎士より強いというのが理由のひとつだ。でも、大部分は私自身の戦闘能力が高いことに尽きる。

 なんだか、お姫様からどんどん遠ざかっているような気がする。そしてゴリラ方面に向かっている気がする。


「塔の書庫にある本の目録が完成したと、司書のチコリとルークから報告がありました」


「えっ! もう完成したの!?」


「あの子たちの恩寵は、とても素晴らしいものですね。……それと、お探しの神王様について書かれた本が見つかったそうなので、お部屋に置いておきました」


「ありがとう」


 チコちゃんとルーくんのおかげで、乱雑に置かれていた書庫の本が少しは整理されただろうと、さっそく二人の様子を見にいくことにする。

 書庫の中はお茶を飲む休憩スペースもあるから、そこで双子ちゃんの作った目録を確認しがてらティータイムをとることになった。

 子どもの好きそうな、マドレーヌっぽい焼き菓子を用意してくれるサラさん優しい。


「チコちゃん、ルーくん、目録作ってくれてありがとう。とても助かるよ」


「チコ、がんばった!」

「ルー、がんばった!」


「本の整理はゆっくりでいいからね」


「いっぱいあるから、わけるの大変なの!」

「でもどこにあるか、全部おぼえてるよ!」


 子どもらしく焼き菓子を頬張るチコちゃんとルーくんは、笑顔ですごいことを言ってくれる。

 え、あの膨大な数の本、全部おぼえているとかマジすか……。

 

 そう、二人の恩寵は『感応』と『記憶』だ。

 二人一緒にいれば常に発動しつづけるから、見たものはそのまま二人の頭に記憶されていく。本のタイトルだけじゃない、内容だって全部記憶しているらしい。

 こんな有能な子たちを、セバスさんはどうやって見つけてきたのだろう。不思議だ。


 双子ちゃんたちにはホットミルク。私には砂糖がまぶされてキラキラした薄桃色のお菓子と、お湯の入ったティーカップが置かれた。


「姫様のためにと、モーリスが花の砂糖漬けを作りました。こちらのカップにお入れくださいませ」


「花ジャムとは違うの?」


 首をかしげながら薄桃色のかたまりをひとつカップの中に入れると、砂糖が溶けてふんわりと花がひらいていく。

 白いカップに薄桃色がとても綺麗で、甘く匂う花の香りがふわりと漂い穏やかな心地にさせてくれる。


「色を保つために試行錯誤したそうですよ。町の人々も花を使って色々と作って楽しんでいるようです。今までにない活気に満ちていて……」


「すごいねぇ」


「これもすべて姫様のおかげだと、町の皆が感謝しております。ありがとうございます」


「ひめさま、ありがとー」

「ひめさま、かんしゃー」


 ふんわりオレンジな猫っ毛の髪を揺らし、笑顔でお礼を言ってくれる双子ちゃんが可愛すぎる件。

 思わずむぎゅっと抱きしめてしまったのは、しょうがないことだと思います。おまわりさん私は無実です。かろうじて。

 ぷくぷくほっぺを私の頬にすり寄せて懐く二人に癒されていると、サラさんが妙な声をあげている。


「サラ、まだまだ修行が足りないようだね」


「うう……精進します……」


 セバスさんとサラさん父娘のやり取りに首をかしげていると、書庫のドアを叩く音が聞こえる。

 ドアを開けたセバスさんが流れるような所作で迎え入れたのは、いくつか書類を持っているジャスターさんだった。


「姫君がこちらにいると筆頭から聞きまして……」


「レオさんから? 私、言ってたっけ?」


「姫君の行動を筆頭はほぼ把握していますから……おや、お茶の時間でしたか?」


「ジャスターさんも一緒にどうぞ」


「ありがとうございます」


 やわらかく微笑むジャスターさんを前に、私にくっついていた双子ちゃんはそそっと離れてしまう。ちょっとさみしい。

 私から離れた二人を見て頷くジャスターさん。あ、もしかして……。


「姫として、良くなかったですか?」


「塔の中であれば問題ないですよ。この子たちは気をつかって離れたのでしょう。とても良い子たちですね」


「えへへー」

「うへへー」


 照れる幼児たち、かわいい。

 そんな双子に優しい目を向けていたジャスターさんは、口元を引き締めて私を見た。


「姫君、さっそくですが親戚から手紙が届きました。近々こちらに来るそうなので、お会いできたら嬉しいとのことでした」


「ジャスターさんの親戚って、エルフの?」


「ええ、一応貴族ではありますが、わりと気さくなエルフですよ」


「わりと気さく……あの、想像では高貴って感じなんだけど」


「山や森の里から出てこないエルフは近づきがたい気を出していますけど、あの人に限ってはエルフというよりも……」


「というよりも?」


「……まぁ、会えば分かると思いますよ」


 微妙な表情になったジャスターさんは、この後いくら聞いても教えてくれることはなかった。

 それもそのはず。







「おう、テメェ、覚悟は出来てんだろうな」


「落ち着いてください筆頭!」


「レオさん! 私は大丈夫だから!」


 恩寵を発動させたのか、レオさんの周りに浮かんだ数十もの銀色の剣が一人の男性に向かっていこうとしている。

 それを必死に止める私とジャスターさん。

 ここまで恐ろしいことになっているのに、まったく気にした様子のない男性は長い耳を楽しげにピクピク動かし、笑顔でジャスターさんに飛びついていく。


「ジャーたん! ジャーたんも元気にしていたんだな! チュッチュ!」


「おじい様やめてください!」


「なんだ堅苦しい! じぃじと呼んでくれ!」


 眉目秀麗という言葉は彼のためにあるだろう。

 とにかくやたら整った若く美しいエルフの男性が、同じく美形なジャスターさんの頬にキスしまくっている光景はとてもシュールだ。


「……なんだ、ありゃ」


「あのエルフさん、ジャスターさんの親戚だそうで」


 若く見えるけど、たぶん見た目とは違う年齢なんだろうなぁと予想する。

 でも、チュッチュされているジャスターさんは見た目どおりの年齢だろうから、そろそろ離してやってほしいなぁと思う。



お読みいただき、ありがとうございます。

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