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79、貴族とエルフのこと


 冬姫との合わせは、塔の中の騎士たちにも良い影響を与えたらしく、灰色の筆頭騎士から感謝の手紙がきたのは春の塔に戻り、しばらくしてからのことだった。

 この日、レオさんとジャスターさんから報告を受けながら、三人でティータイムを楽しんでいる。


「彼女が前を向けるようになったのなら、何よりだよ」


「すまない姫さん……俺の過去のせいもあるよな」


「レオさんは悪くないでしょ。それよりもほら、冬姫様からもらったお土産! すっごいよね!」


「彼の地では、上質な紙を生産しておりますからね」


 しょんぼりしているレオさんをどうにか元気にしたくて、私は話題をお土産のことに切り替える。すかさずジャスターさんが話にのってくれるのがありがたい。

 レオさんは小さく息を吐くと、テーブルに置かれた沢山の紙の一枚を手にとった。


「これが姫さんの求めている紙か?」


「本当はもう少し薄くて、表面の凹凸も少ないのが理想なんだけど」


「姫君のいらした異界では、物を作り出す高い技術を持っているのですね」


 最先端の製紙技術を持つ冬の塔近くで作られたものでも、ペン先がひっかかるゴワゴワした厚手の紙だ。

 さすがに日本にいた時と同じものを求めていないけど……。


「それにしても、夏姫様が冬姫様に新しい紙の研究をするよう、交渉してたとか知らなかったよ」


「あの方は姫君の絵をたいそう気に入ってらっしゃいましたからね」


 これは気合を入れて続きを書かないとね。小さな姫と厳ついオッサン騎士もののラブロマンス。

 ちゃんとした漫画じゃないけど『漫画っぽい何か』を描ければ、私は幸せだよ。

 トーンとかないから、点描とかカケアミなんて久しぶりに描いたよ。


 ご機嫌な私に、セバスさんがお茶のおかわりをいれてくれる。


「あ、セバスさん。ピンクうさぎたちの毛って……」


「アンゴラウスベニウサギの毛でございますか? お言いつけどおり、袋に入れて倉庫に置いてありますよ」


「この前の遠征で、傭兵のオジサマたちにウサギの毛で作った帽子とマフラーが好評だったの。あの地域に持っていけば喜ばれるんじゃないかなぁ」


「なるほど。製紙技術の費用にウサギの毛もつければ、あちらの方にも喜ばれて研究もはかどるかもしれませんね」


 ジャスターさんが「さすが姫君!」とか言ってるけど、深く考えずに言ったから驚いてしまう。

 ここは常春だから気候も穏やかだけど、冬とか夏って大変そうだよね……。


「秋ってどういう感じなんだろう」


「塔周辺なら、ここよりも花は少なく、葉が赤や黄色になっている感じだったな」


「そういえば以前、うちの若手が秋姫様に憧れていたとか……」


「ぶほっ!!」


 警護として立っていたキラ君が思いきりむせている。

 そういえばキラ君に出会った頃に、そんなこと言ってたような?


「秋姫様の大きな何とかをなんとかしたいとか言ってなかったか?」


「そ、そそ、そんなこと、い、いいいい言ってないぞ!」


 キラ君がやけに慌てているけど、何でだろう?

 冬姫様は麗人って感じで夏姫様は美少女だったから、きっと秋姫様も綺麗な人なんだろうな。


 つらつら考えていると、セバスさんが音もなくドアを開けたのと同時に、ふんわり外の香りをまとったアサギが飛び込んできた。


『ハナー、ただいまー』


「おかえりアサギ、探検は楽しかった?」


『うん! モフモフがいっぱい増えてたよ!』


「モフモフが増えてた?」


 セバスさんを見ると、くすりと笑って説明してくれる。ロマンスグレーの笑顔がまぶしいです。


「ちょうどウサギの毛が生え変わる時期のようで、庭師のアークがブラッシングをしているのでしょう」


「アイツ、あんな厳つい顔してるが、かわいいもんには目がないからなぁ」


「初めてアークが姫様に会った日、即ここで働くことを決めてましたからね」


 かわいいもの好きな元傭兵のガチムチなアークさん。うん。萌えるね。

 ウサギが増えてたように見えるくらいに毛が採れるなら、冬の塔宛に送っても大丈夫かな。こっちだとあまり有用性がないしねぇ。


 私のひざの上で、アサギは機嫌良さそうにフワフワな尻尾を振っている。ちょっと犬っぽい。

 レオさんが自分の皿にある、木の実がたくさん入った焼き菓子をジッと見ているアサギに「食うか?」なんて甘やかしているのはいつものことだ。

 お菓子に釣られて、私のひざからレオさんの硬そうな太ももに移動するアサギに呆れながら、前回の行軍の時に知った事実にひとり顔を赤らめる。


 サラさんが指摘した、私とアサギの感情や好き嫌いがリンクしているという、小っ恥ずかしい現象だ。


「姫君、大丈夫ですか?」


 内心羞恥に悶えているのを、いち早く察したジャスターさんが心配そうに私を見ている。

 ははは、お気になさらず。

 ジャスターさんの見目麗しいお顔に癒されていると、ふと疑問が浮かんできた。


「あの……ジャスターさん、聞いていいですか?」


「何でもどうぞ」


「ジャスターさんにはエルフの血が入っているんですよね?」


「はい。エルフは他種族とほとんど接しないのですが、親戚に一人変わり者がいましてね。彼は六代前の当主でした」


「え? ジャスターさんは貴族なんですか?」


「自分は一般人です。下級貴族の流れなので、直系の者以外は貴族と名乗れません。他家の貴族に嫁げば別でしょうけれど」


「上級貴族だと直系じゃなくても名乗れるんですか?」


「ええ、国に貢献する騎士や魔術師、文官などになれば爵位を持つことが可能です」


「あれ? それじゃあキラ君は……」


「……上級貴族だったが、姫の騎士になった時にブライトナー家の名は捨てた」


「え!? キラ君は上級貴族だったの!?」


 そういえばキラ君が騎士になった時に「家名を捧げる」とか言ってたけど……それって結構すごいことだったんじゃ……。


「ところで姫君、エルフの血がどうかしましたか?」


「ちょっと会ってみたいなぁ、なんて思っただけです。えへへ」


 異種族というか、こう、いかにもファンタジーなエルフさんとかに会えたらいいなぁって、えっと、なんかすみません。

 でも残念だな。六代前って……。


「では、手紙を送ってみます。きっと喜ぶと思いますよ」


 あ、生きてるのね。



お読みいただき、ありがとうございます。

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