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75、冬の塔へと向かう


 キラ君に背負われている私の真似をしたアサギが、レオさんをくんかくんかしている。やめなさい。ばっちぃよ。


『なんか甘い匂いがする!』


「んー? そうか?」


『ほら、なんかここらへんが!』


「ぬぁっ!? おまっ!! なに舐めてんだよ!! おいやめろ!!」


 アサギ、舐めたらお腹こわすよ。あと、どこを舐めたのか後で教えてね。


 無事に傭兵さんたちが駐屯している場所まで戻ってきた私たち。

 キラ君に背負われている私を見たサラさんが、体調が悪いのかと驚いてちょっとした騒ぎになってしまった。少し疲れただけで、倒れたとかじゃないから大丈夫だと説明したけれど、サラさんは過保護モードを発動することとなり「すぐに休んでください!」と馬車に入れられてしまった。

 ドアを閉めきるのは寂しいから、地味な普段着のワンピースに着替えて、馬車のドアを開けたまま働くレオさんたちを眺めている。


「こうなるなら途中から歩けばよかったかも」


『ハナは疲れていたからしょうがないよ。キラキラに乗るのが正解だよ』


 アサギったら、キラ君を乗り物のように言ってる。

 どうやらレオさんに乗るのが今の(アサギの)マイブームだ。馬の鞍を調節している彼の頭の上でモフモフな尻尾を揺らしている。なんか尻尾付きの帽子をかぶっているみたいで、むさいレオさんが可愛らしく見える。

 私はそれを馬車の中から窓を開けて見ていたんだけど、あることを思い出して小さく息を吐く。


「さて、どうしたもんかなぁ……」


「なんだ姫さん、悩みか?」


「悩み、ではないんですけど……」


 もごもご言う私を見たレオさんは、馬の蹄を確認し終わると馬車の縁に腰をかける。レオさんの頭の上から私の膝へ移動したアサギを撫でていると、しばらくしてレオさんが口を開く。


「冬姫様の件か?」


「……はい」


 あの時、なぜか分からないけれど彼女の行動にモヤっとした。

 無邪気で『剣聖』の恩寵がつくくらい戦うことが好きな冬姫は、かっこよくて私とは全然違う凛々しいお姫様だった。破天荒な行動についてなのか……いや、違う。そういうのじゃない。


「もし会いたくないなら、キアランに手紙を送るように……」


「違うんです」


 違う。

 あの時、私は彼女に……


 嫉妬、したのかもしれない。







 儀式で春を呼んだとはいえ、冬の塔に近づくにつれ雪深くなる風景。それでも馬車が通るのは土の道だ。夏と秋の姫達はどうなんだろうって思ったら、夏は乾きすぎて秋はそのまま雪の上を行軍するとのことだった。

 春の行軍は除雪車みたいだなぁと思いながら、馬車と馬で並走しているレオさんを窓からこっそり見る。


「姫様、何か気になることでも?」


「いや……レオさんの頭がね……」


 私の目線を追うように、サラさんも外にいるレオさんを見る。

 馬に乗り、きっちりとした騎士服を身につけている夜色の髪の美丈夫。彼の頭には『麟』であるアサギがモフモフの尻尾をフワフワなびかせて鎮座している。

 当初、魔獣に狙われていたアサギだけど、成長したことと「強いののそばにいると、大丈夫なのー」というのもあり、行軍中はレオさんの頭に乗っていることが多い。

 膝が寂しいなぁと思うと、絶妙なタイミングで戻ってくるアサギに私はメロメロだ。


「あの、元傭兵団長とは思えない珍妙なことになってますね」


「珍妙って……ブフォッ」


 サラさんの物言いに思わず噴き出すと、憮然とした表情でレオさんが私を見る。

 うん。分かってる。アサギを頭から取れって言いたいんでしょ? でも今は特にモフモフが恋しくないから、しばらくは大丈夫だよって笑顔でサムズアップすると、大きなため息を吐かれた。

 サムズアップの意味は分からないだろうけど、言わんとしたことは分かったみたい。さすが筆頭騎士だね。


「レオさんは、私の心が読めるのかな」


「ふふ、姫様はお顔に感情が出やすいですからね」


「うーん、ポーカーフェイス……無表情になる特訓しないとなぁ。姫としてそういうのも必要でしょ?」


「どうでしょう……筆頭騎士様はそのようなことを?」


「言ってない、けど」


 そう。さっきも黙り込んだ私に、レオさんはただ「姫さんは、姫さんでいいんだ」って言ってくれた。

 でもそれって甘えなんじゃないかって思ったりするんだよね。

 ただでさえ、今の立場に甘えているのに。


「姫様は頑張りすぎです」


「頑張るなんて、当たり前だよ。それをしなくなったら終わっちゃう」


 自分のやりたいこと、自分の居場所をこの世界で作りたい。元の世界にはなかった、私だけの何かをここで見つけたい。

 そのために、頑張らないと……。


「姫様、頑張るためには体力がないと。ちゃんと休むことも必要なのですよ」


「体力なら恩寵があるから」


「心の体力です。頑張るには心と体が元気じゃないといけません」


 サラさんは笑顔で私を見る。その笑顔は優しく見えたけれど、なぜか厳しくも見えた。


「もしかして、サラさん怒ってる?」


「怒っていません。心配しているのです」


「ご、ごめんなさい……」


 なぜか私が謝る流れになっている。なぜだ。解せぬ。


「無理せず、私や騎士様たちにちゃんと相談してくださいってことを言っているのです。それでも、今回はレオ様に甘えてらっしゃいましたから許します」


「へ?」


 甘えたという言葉にキョトンとしていると、サラさんは苦笑している。


「あら、お気づきになってないのですか? あれほど姫様にべったりだったアサギ様が懐いてらっしゃるのに」


 サラさんの言葉に、私の首は傾げすぎてどこかに転がっていきそうだ。一体何がどうしてそういうことになるんだろう?


「姫様が嬉しければアサギ様も嬉しい、悲しければ一緒に悲しい、まったく同じ反応をしてらっしゃいますから」


 え、なに、アサギの感情って私と同調(リンク)しているってこと?

 しょっちゅうレオさんの近くにアサギが行くのは、無意識に近づきたいって思っているってこ……と……


「……!!」


 冬の塔に着くまで、馬車の中で悶え苦しむことになった。



お読みいただき、ありがとうございます。

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