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71、冬と春と筆頭騎士



 レオさんと一緒に馬に乗っている私を、雪のように白い肌の麗人はジッと見ている。

 すると、レオさんが腰に回してた腕で私を後ろに引き寄せるもんだから、なかなか心臓によろしくない。冬姫を睨んだ(と思われる)レオさんは、威嚇するように低い声で話し出す。


「こちらからの無礼は謝らんぞ」


「構わないよ。……愛らしい春の姫、僕の無礼を許してくれる?」


「許すもなにも……」


 無表情なのに、どこかションボリとした様子の冬姫を見て、私はなんと言ったらいいか迷う。それでもここは毅然とした態度でいこうと深呼吸をして背筋を伸ばす。

 ジャスターさんとキラ君は、私たちから少し離れた場所で見守ってくれているのが分かる。

 後ろのレオさんは察してくれたのか、私の腰に回していた腕を外してくれた。


「夏姫様からお話を聞いていると思います。儀式が終わり次第冬の塔へと向かいますので、私たちはまだ『会っていない』ということでよろしいですか?」


「ありがとう春の姫。夏から聞いて少し見るだけにしようと思っていたのだけど、千剣の騎士殿が見えてつい気持ちが昂ぶってしまったんだ」


 気持ちが昂ぶるのは分かるけど、なぜ私に突撃をかましたのかがよく分からない。首を傾げていると、冬姫は当然のように言った。


「筆頭騎士の愛で姫と聞いているから、そっちに手を出そうとすれば本気を出してくれると思ったんだよ」


「めでひめ?」


「愛する姫ってことだな」


「はぁ!?」


 ちょっと! 夏姫ったら何を吹き込んでるのよ!

 一気に熱くなる顔を隠すように俯くと、後ろでレオさんが楽しそうにしているのが分かる。いやいや違いますから。別にレオさんから愛されてるとかそういうのじゃないですから。


「姫っつーのは愛される存在なんだ。気にするな」


「気にするなって言われても……」


「結局、本気を出してはもらえなかった。春の筆頭騎士殿とは、塔に来られた時は是非ともお相手願いたい」


「断る。これが謝罪を受け取る条件だ」


「……分かった。では春の筆頭騎士の愛で姫、塔で夏姫と共に待っているよ」


 悲しげに眉を寄せた冬姫は、初めて人間らしい表情を見せていた。なんだか可愛らしく見えてつい笑ってしまった。







 雪の上を軽やかに駆けて去っていく冬姫を見送った後、私はサラさんのいる馬車へと戻る。

 ドアを開けて待っているサラさんは服に少し土がついたくらいで、怪我はないと言ってくれたからホッとした。


「ご無事で何よりです姫様。ですが、今後何かあれば私のことは放っておいてくださいませ。まずは御身を大事にしていただかないと……」


「ありがとう。でもサラさんを放っておくことだけはできないから、ごめんなさい」


「姫様……」


 嬉しそうだけど、困ったように微笑むサラさん。だって、サラさんはこの世界で最初に私を……私の心を守ってくれたお母さんみたいな人だからね。守らないという選択はないよ。

 そこに苦笑したレオさんが助け舟を出してくれた。


「サラ殿、姫さんは戦闘の訓練もしている。並みの騎士にも傭兵にも負けないから、多少は好きにさせてあげてもいいんじゃないか?」


「筆頭騎士レオ様!! 貴方がそのようなことを言うなんて!!」


「その代わりと言ってはなんだが、姫さんのことは俺ら騎士が絶対に守る」


「レオさん……」


 サラさんの言うことは正しいんだろう。

 でも、私の気持ちを優先してくれるレオさんに感謝だ。彼がこう言ってくれれば、いざという時に私はサラさんを守ることができる。

 もちろん、戦うことよりも逃げることを優先にするけどね。


「……しょうがないですね。姫様、私も戦えないわけではないですから、とにかくご無理はなさらないでくださいね」


「ありがとうサラさん!」


 えへへと笑うと、レオさんとサラさんが横を向いて震えてる。どうしたんだろうと首を傾げていると、空から鳥さんが降りてきた。

 行軍についてきた鳥さんには、すごく小さくなったアサギが貼りついている。二人?で今日宿泊する村の偵察に出てもらっていたんだ。

 実際の理由は、アサギが退屈だと馬車の中で暴れていたからなんだけど。


『ハナ、進んでないけど何かあった?』


「ちょっとね、お客さんがいて話をしていたの。もう出発するよ」


『そう? 危ないのは何も感じないから、進んでも大丈夫だよ』


「ご苦労様、アサギ」


 冬姫のちょっかいは、アサギの言う危険ではなかったらしい。

 いや、もしかしたら私たち『姫』同士のことであれば、危険と感知されないのかもしれない。

 ジャスターさんの恩寵『鑑定』は万能にも思えるけれど、神王が関わるものには通じない。私の『身体能力強化』は自分に対して行われるものだから効果はあるけれど、もし『姫』に何かされた時に恩寵が効かないかも……。


「姫様、お疲れですか?」


「え? あ、そうだね。ちょっと疲れたかも」


「何かあれば起こしますので、少し横になられては?」


「そうだね。そうさせてもらうね」


 進み出した馬車に揺られ、横になった私はつらつらと考える。

 この世界の中心と思われる『神王』について、もう少し調べたい。塔に帰ったら双子ちゃんに何かないか探してもらおう。


 偵察で遊び疲れたのか、アサギは私のお腹のあたりに丸くなって寝ている。そのアサギのお腹では鳥さんが寝ている。

 色々考えちゃうけど、モフモフたちを見ていれば癒されて前向きな気持ちになった。


 とりあえず、今は何も考えずに少しだけ寝ることにしよう。

 おやすみなさい。







お読みいただき、ありがとうございます!

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