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70、雪中の行軍と襲来?



 光る魔法陣に入ったと思った次の瞬間、空気が変わったのが分かる。

 馬車の中にいるけれど、窓の外を見れば真っ白な雪景色が広がっていた。北の方角に向かうと聞いていたけどここまで雪深いとは思ってなかった私は、思わずサラさんに問いかける。


「外にいる人、大丈夫かな。あまり防寒具とか着てなかったみたいだけど」


「これは『春姫様』の行軍ですから大丈夫ですよ」


「あ、そうか」


 四季姫は季節を司っている。そのため春を司る私は常に「春の陽気」をもたらすらしい。

 塔の周辺の気候が春っぽくて、花が多く咲くのも私がいるからだそうだ。儀式の練習をすることで、さらに範囲も広がるとのこと。うわぁ、練習サボったらバレるやつだね。

 私本人は「適温」と感じているし、騎士たちや塔の関係者も同じだ。ただし雇っている傭兵さんたちは暑さ寒さを普通に感じているんだけど、私が「春」だから大丈夫なんだろう。

 再び外を見れば、馬車が通る道だけは雪ではなく土のある状態になっている。


「他の季節の姫だと、どういう感じになるのかな?」


「たとえば冬の姫様であれば、寒さを感じないような体になっているようですよ」


「こうやって寒い所でも?」


「ええ、そうじゃないと『冬姫』として冬を呼べないですから。ただ、儀式の場所だけは季節を感じるようになってますから、お気をつけください」


「今回の場所は寒いだろうなぁ。ピンクウサギたちの毛で作った手袋が活躍するね」


 青いミトンの手袋は、内側をピンクウサギの抜け毛で作ってある。公の場では姫として青を身につける制約があるけど、内側は何色でもいいみたい。

 いや、さすがにピンクの小物とか、この歳じゃ恥ずかしくて身につけられないから内側で良かったんだけどさ。


 そんな話をサラさんとしていると、急に馬車が止まる。

 窓を少し開けたサラさんに、レオさんが馬を近くまで寄せてきた。


「まだかなり先だが、街道の真ん中に数人いる」


「魔獣ではないんですよね?」


「ああ、ジャスターが常に鑑定を発動させてて、人間が引っかかったらしい。もう少し近づけば詳細が分かるようだが……速度を落として警戒しながら進むことになる」


「わ、わかりました」


「心配するな。俺がいる」


 私に向けてふわりと微笑んだレオさんに、思わず顔が赤くなってしまう。出発前のあれこれが、まだ尾を引いているみたいで困る。

 私の隣にいるサラさんが冷たいオーラを発したのに気づいたレオさんは、そそくさと馬車から離れていった。


「まったく、最近落ち着いたかと思えば、朝といい油断も隙もないのです」


「そ、そうだね」


 頬に手を当てて赤いのをどうにかしようとするけど、なかなかおさまらない。関わりたくないからと男性を避けて生きてきたのが仇となってる。うう。


「次は容赦しません」


 気合を入れるサラさんが頼もしい。

 姫の引退イコール結婚という決まりもあるから、なんとか生活が安定するまで引き延ばしたい。極力「そういうこと」を避けていく必要があるから、ぜひともサラさんに協力してもらおう。


 前方を確認できる小さな窓から覗いてみれば、なるほど遠くに人影が見える。

 真っ白な雪景色と、かすかに分かる街道。人影に見えたそれは、漆黒の衣装に身を包んだ騎士達だ。


「……あれ? 一人だけ衣装が違う?」


「黒い衣装ということは『冬』の騎士様ですよ。衣装の違うあの御方は、当代の冬姫様かと」


「え? そうなの?」


「四季姫様たちの色は厳しく制限されています。あの黒色は『冬』の方々しか使えないのです」


「なるほど」


 サラさんは目がいいみたい。レオさんとは逆側にいたジャスターさんが馬を寄せてくる。


「姫君、筆頭とも話しましたが、どうやら冬姫様とその騎士達が我らを待っているようです」


「鑑定では、何か出てましたか?」


「偽りなく冬姫様たちだと出ています。他の情報は神王様の権限に触れるので見れませんが……どうしますか?」


 どうしたものかと考えていたけれど、そういえば夏姫と会った時に冬姫に話を通してくれると言ってた気がする。


「もしかして、夏姫様に何か聞いているかもしれません」


「分かりました。まずは筆頭が向かいますので……何をっ!?」


 馬車とジャスターさんの間に黒いものが落ちてくる。いきなりドアが開けられ、煌めく白銀の髪と漆黒の騎士服が目に飛び込んできた。

 驚いた私はサラさんの手を取って、反対側のドアを開けて飛び降りる。

 馬車のしたにサラさんを押し込むと、後方にいるキラ君に目で合図を送り、行軍前方にいるレオさんの所へと走り出す。


「姫さん!!」


 私は『身体能力強化』の恩寵を使って跳躍して、慌てて引き返すレオさんが伸ばす腕にしっかりつかまる。

 馬を走らせながらも危なげなく私を前に乗せると、剣を合わせているジャスターさんのところでレオさんは『鉄壁』を展開させた。


 まるで重さを感じさせない動きでジャスターさんから離れた白銀と漆黒の騎士は、『鉄壁』から遠ざかるようにふわりと飛び上がった。


「すごいな。さすがは『千剣の騎士』だ」


「その騎士はもういない」


 雪の上に立つ騎士は、なぜか足が沈んでいない。肩で揃えた白銀の髪をふわりと揺らして、無表情の美人さんに思わずときめいてしまう。


「姫さん、浮気はダメだぞ」


「な、なななにを言ってるのですか! レオさんは!」


「それにあの御方は、騎士ではありませんよ」


「え? そうなんですか?」


「そうだよ。僕は騎士になりたかったのだけど、何の因果か姫になってしまった」


 小さく息を吐いたその人は、まさに「男装の麗人」だった。

 彼女の体にフィットするように作られた騎士服は、シンプルに見えてとても凝ったデザインになっている。たぶん塔のクローゼットにあるやつなんだろうな。


「うちの姫さんに乱暴なことをしないでもらいたい」


「すまない。夏姫から聞いて、つい試したくなってしまった」


 無表情な美人さんは、全然反省していない感じでペコリと頭を下げた。

 夏姫ったら、一体何を言ったんだろう……。

 私の後ろにいるレオさんから、盛大なため息が聞こえた。



お読みいただき、ありがとうございます。

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