69、北へ向かう
四季姫の騎士が着る騎士服は、姫の季節によって色が違う。
春を司る私は青いドレスが正装で、騎士服は基本青で統一されている。正装になると金糸の刺繍やら色々装飾がつくので、体格のいいレオさんたちが着ればとてつもなく格好いいのだ。
「はう……儀式の行軍だと騎士の正装が見れるから、もうたまらんです。ハァハァ」
「姫様、ほら、じっとしててくださいな」
サラさんに叱られた私は、慌てて頭を動かすのをやめる。
本当は高く結い上げるのが流行りみたいなんだけど、それだと頭が痛くなってしまいそうでゆるく編んでハーフアップにしてもらっている。
年齢からいえば結い上げないのはおかしいみたいだけど、見た目が幼いからなんとか許されているみたいだ。
てゆか。
未だに年齢を言ってないんだよね。誰からも聞かれてないから放置してたんだけど、こういうのって大丈夫なの? 後で詐欺だとか言われたり怒られたりしない?
「儀式も二回目になりますけど、あまり気負いすぎないようにしてくださいませ」
「ありがとうサラさん。皆が一緒だから大丈夫だよ。それに今回は料理長のモーリスさんもいるし」
「ええ、ぜひとも夫をこき使ってください。力仕事もそうですが、姫様の護衛もできますからね」
塔の留守番はセバスさんと庭師のアークさん、双子司書のチコちゃんとルーちゃんがいてくれる。
双子ちゃんは着々と目録作りをしてくれていて、それが終われば新しい本を購入できるから楽しみだ。二人の恩寵『感応』と『記憶』で書庫にある本の検索できるのがすごい。めちゃくちゃ便利だしすごい。とにかくすごい。
「姫様、またお顔を隠すのですか?」
「恥ずかしくて……」
「町歩きの時は隠してらっしゃらないですよね? せっかくの愛らしいお顔が……」
「無理……」
隠せば隠すほど、出すのが難しくなるのは分かってる。それでも、私は引っ込み思案の恥ずかしがり屋さんなのだ。察してほしい。
サラさんに誉め殺しにされそうな私に、天の助けかドアをノックする音がする。
「姫さん迎えに来たぞー。準備はできたかー? 入っていいかー?」
「大丈夫ですよ、レオさん」
部屋に入って来たその騎士に、私は思わず息を飲む。
夜空の色をした髪を丁寧に撫でつけ、髭を剃っているせいかいつもより若く見える。金糸で縁取られた青い騎士服を着こなす彼は、すべての人が思い描く理想の騎士そのものだ。
「ふぉぉ、馬子にも衣装……」
「孫がどうしたって?」
「口を開けば残念なレオさんだ……」
「失礼だな」
キラ君に負けず劣らずキラキラしているレオさんは仏頂面で私を見る。
すごいよレオさん! エルフの血をひくジャスターさんに負けないくらい整った顔をしているよ!
私の視線に耐えきれなかったのか、レオさんがみるみる赤くなって「ほら行くぞ!」って乱暴に手を掴んで引っ張る。ちょ、ちょっと、慣れないドレスだから急に引っ張られると……。
「ふぉっ!?」
「っと、悪い。大丈夫か姫さん」
ふわりと抱きかかえられて厚い胸板と頬がくっつき、尋常じゃないくらいに私の顔が熱くなったところでスパンッとレオさんの後ろ頭が叩かれる。
「筆頭、姫君を離しなさい」
「んだよ。ちょっとぐらいいいだろう」
「ちょっとも何も、これから行軍する人たちに挨拶するんですからフニャフニャにしたらダメですよ。後にしてください」
「後もダメです!!」
フニャッとしている私の代わりに、サラさんがしっかりとツッコミを入れてくれる。ありがたい。
それにしても、うちの騎士たちはどうなってるの。もう。
ちなみにキラ君はジャスターさんの後ろで顔を真っ赤にしてる。なんでだ。
「キラ君は我らが姫君のドレス姿にメロメロなのですよ」
「言うな!!」
姫と騎士でわちゃわちゃしながらも、塔の外へ出る時は背すじがスッと伸びる。
レオさんが集めた信頼に足る傭兵団の人たち総勢三十名。そして私の大切な騎士三人と塔の関係者二人。
今回はここからかなり離れた北の地方で儀式をする。
塔の前にある広場に集まった人たちへ向けて、レオさんが一歩前へ出る。
「全員整列!! これより儀式へ向けて行軍を始める!!」
高らかに響くレオさんの声とともに、傭兵の人たちは一斉に踵を打ち鳴らし胸に手を当てる。前回とは違い、真っ直ぐに並ぶ傭兵の人たちに私が驚いていると、横にいるジャスターさんがそっと「練習したんですよ」と教えてくれた。
え、何それ、すごい。
ヴェールで顔を隠しているけど私が感激しているのが分かるのか、傭兵のオジサマたちは照れくさそうに笑ってる。ヤバイ、こういうの弱いんだよ私。
行軍で歩く人はいない。
騎士の三人とモーリスさんは馬に乗っていて、リーダーの傭兵さん数人は馬に乗っている。私を含めて他は馬車で、遠方へ向かう時の移動の魔法陣にそのまま入って行く。
魔法陣といえば嫌なことを思い出すけど、現れた魔法陣を鑑定したジャスターさんは大丈夫だと太鼓判を押してくれている。
最近のジャスターさんは恩寵の出し惜しみをしないことに決めたらしい。
やたら張り切る馬たちの気配を感じながら、魔法陣の中へと馬車は入って行く。隣に座るサラさんが私の手を握ってくれているから心強い。
そっと握り返して気合を入れる。
「いってらっしゃいませ!」
セバスさんたちに見送られ、私たちは二回目の儀式へと向かった。
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