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68、理由と香りと花の騎士



「どうやら自分の息子と無理やり婚姻させようとしたらしい」


「え? 私を?」


 思わず飲んでいたお茶を噴き出しそうになった私は、何とか耐えて飲み込むとキラ君を見上げる。

 立っている彼は頬や腕に痛々しい傷があって、塔に戻ってから年長組からキツイしごきを受けているのがよく分かる。なんだか申し訳ない気持ちになるけど、本人は「強くなるためだから甘んじて受ける」って言うんだよね。

 はぁ、お姉さんは心配だよ。


「貴族はバカが多いんですかね。どう思う? 元貴族のキアラン」


「そ、それは……」


 ジャスターさんが黒い笑みを浮かべてキラ君を震え上がらせる隣で、レオさんがやれやれとため息を吐いている。


「バカな上に欲にまみれているからタチが悪いよなぁ。実際神罰を受ければ思い知るんだろうが」


「婚姻させたところで、その子どもが次代の四季姫になれるわけではないのに、バカ貴族の思考回路はよく分からないものですね」


 しみじみと言うジャスターさん、頷くレオさんと困り顔のキラ君を見て、やっと「帰ってきたんだな」って実感がわいてくる。


 塔に戻った私は号泣するサラさんに抱きしめられて、涙目のセバスさんにサラさんごとギュッとされた。そんなことされると思ってなかったから私も泣いちゃって、司書の双子ちゃんもつられて泣いて宥めるのが大変だった。

 皆に心配かけて申し訳ない気持ちもあるけど、やっぱり嬉しい。必要とされてる感じがする。


「ああ、そうでした。姫君の居場所を早めに特定できたのは、アサギ殿の伝言もありましたが鳥達のおかげでもあるんですよ」


「そうなんですか! 鳥さん達すごいですね!」


「夜は危ないので、その方向に少しだけ飛んでもらいました。他の種類の鳥もいたので情報を集めてくれたみたいです。筆頭と一緒にいると予想もできたので塔の皆も安心できましたし、本当に助かりました」


 ジャスターさんの言葉に私は首をかしげる。


「鳥さんたちの言葉が分かるんですか?」


「それはほら『鑑定』と『交渉』で相手が何を求めているか分かりますし、こちらに利が出るようにやり取りできますからね。今回はお互い姫君の安全と保護が最優先だったので、話が早くて助かりました」


「あ、そう、ですか」


 その恩寵の使い方もきっとおかしいのだと思うけど、聞かないでおこう。ジャスターさんがイイ笑顔で眼福です。はい。


「それよりも問題は、姫さんの町へ出るタイミングで誘拐されたことだ。塔の周辺に見張り役がいたんじゃないか?」


「あの後、信用できる傭兵を集めてゴミ掃除してもらいましたが、何も出てこなかったようです。見張ってた場所が分からないので『鑑定』もできません」


「町で数人の少女が声をかけられたとの報告があり、額の部分を見られたと話している」


「そっか。おでこに印があるんだっけ……」


 キラ君の言葉に、私はつい忘れがちになっていることを思い出す。

 触っても分からないし、普段は前髪で隠れている春姫の印。これを見られたら私が春姫だって分かるだろうけど、一体いつ見られたんだろう。不思議だ。


「この件は『祈りの塔』にいる兄に預けて神罰で裁く方向で進めている。貴族からよりも的確な罰を与えてくれるからだが、それで良いだろうか」


「キラ君のお兄さんにお手数かけて申し訳ないけど、その貴族がちゃんと罰を受けるなら私はいいよ」


 この世界では四季を司る姫もそうだけど、騎士や塔の関係者たちを害する者は極刑もあり得るとのこと。私はさすがにそれはどうかと思う。


「姫さんは優しいんだな。犯罪者の命を心配するなんてよ」


「そうかなぁ。死ぬなんて楽だと思うくらいの強制労働とかで、辛く苦しい生活を生きたまま送り続けるほうがイヤじゃないですか?」


「お、おう。それは、イヤだな……」


 なぜか引いているレオさんの横で、ジャスターさんが「よくできました」と笑顔で褒めてくれる。やったね。

 ほのぼのとお茶を飲んでいると、セバスさんが部屋に入ってくる。


「春姫様、次の行軍に必要と思われるものを購入しておきましたので、後程ご確認いただけますか?」


「もしかして花のポプリも買ってくれたりする? 町で買おうとしたんだけど、あんな事になっちゃったから……」


「確かポプリはサラが一覧表に入れてましたから、いくつか購入済みです。他にも必要であれば取り寄せますよ」


「ありがとうセバスさん。サラさん、私の欲しいものが分かるなんてすごい……」


「町の雑貨店で姫様が見ていたので。あと花を使った香油が新しくでていたので、それも追加しました」


「サラさんありがとう!」


 笑顔でお茶のおかわりを出してくれるサラさん、さすがの洞察力です。

 前回ちょっと気になっていたから、今回は服を入れてる箱にポプリを入れたかったんだよね。革張りの箱だから独特のにおいがね。

 ご機嫌な私を見たジャスターさんがセバスさんに問いかける。


「ポプリの追加はできますか? せっかくなので自分も持っておきたいのですが」


「私もいいだろうか」


「お前ら急にどうしたんだ?」


「姫君が匂いに敏感のようなので、行軍中に気にするのは難しくともポプリを持つくらいならできますからね」


「筆頭は恩寵があるから羨ましい」


「は? 何だそれ?」


 ジャスターさんとキラ君の言葉に、ショックを受けたような顔でレオさんは私を見る。ん? レオさんはいつも甘くて花みたいな良い匂いがしてますよ?

 さすが花の騎士レオさん。名付けて、フローラル・レオさんです!


「それはやめてくれ」


 心の声が聞こえるとは! やっぱりさすがなのです!



お読みいただき、ありがとうございます!

次回は儀式のために移動します!

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